リジュセア®ミニ点眼液:なぜ0.025%?効果とリバウンドのこと

「近視になったら、メガネやコンタクトレンズで視力を矯正すればよい」。
長い間、このように考えられてきました。

しかし、私たち眼科医が懸念している近視の正体は、単なる「ピントのズレ」ではありません。

本当の問題は、成長に伴って目の奥行き(眼軸長)が過剰に伸び、眼球の形そのものが変形してしまうことにあります。

一度伸びてしまった眼軸長は、基本的には元に戻ることはありません。

ゴム風船が膨らむとゴムが薄く引き伸ばされるように、眼球が伸びると網膜や視神経に負担がかかり、将来的な目の病気のリスクを高めてしまいます。

現代の近視治療のゴールは、単に「見えるようにする」ことから、「眼軸長の伸びそのものを抑える」ことへと大きく変わってきています。


先日、当院のHPで近視進行抑制薬「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」の承認についての記載をしました。


それ以来、診察室では保護者の方から、より具体的なご質問をいただく機会が増えています。

「今まで使っていた0.01%の点眼と何が違うのですか?」
「なぜ0.025%という、半端に見える数字なのですか?」
「将来やめたときに、急に視力が悪くなる(リバウンド)心配はありませんか?」

今回は、これまでのアトロピン治療の歴史を振り返りながら、なぜ今「0.025%」が新しいスタンダードとして選ばれたのか、そして多くの親御さんが心配される「やめどき」や「リバウンド」について、現在の医学的知見をもとに詳しくご説明いたします。

Table of Contents

アトロピン治療の歴史:「強すぎる」から「弱すぎる」へ

リジュセアミニの登場を理解するには、少し時代をさかのぼって、アトロピン研究の歴史をひもとく必要があります。

ATOM1研究:効果は極めて高かったものの、副作用も大きかった

2006年、シンガポールで行われた画期的な研究(ATOM1)が発表されました。このときは「1%」という高濃度のアトロピンが使われました。その結果、近視進行を77%抑制するという顕著な効果が示されました¹。

しかし、問題がありました。1%という濃度は、瞳が開きっぱなしになり(散瞳)、近くの文字が全く読めなくなる(調節麻痺)という強い副作用を伴いました。
さらに、治療を中止した途端に近視が急速に進行する「リバウンド現象」が起きてしまったのです¹。

これでは、日常的に学校に通うこどもたちの治療薬としては現実的ではありませんでした。

ATOM2研究:0.01%の世界標準化と「隠れた弱点」

そこで、「もっと薄くすれば副作用が出ないのではないか」と考えられ、2012年に行われたのがATOM2研究です。
ここで「0.01%」という極めて低い濃度が、副作用が少なく、かつ効果があるとして注目されました¹。

以来、世界中で「マイオピン」などの院内製剤として0.01%アトロピンが広く処方されるようになりました。

しかし、長年の使用実績から、ある「弱点」が徐々に明らかになってきました。
つまり、0.01%アトロピンは屈折度数(近視の度数)の変化は抑えるものの、近視の本質的な悪化原因である「眼軸長(目の奥行きの長さ)の伸び」を抑える効果が限定的であることがわかってきたのです²。

近視による将来の目の病気(網膜剥離や緑内障など)のリスクは、この「眼軸長」が伸びることで高まります。つまり、見た目の度数は抑えられても、目の形そのものの変形までは十分に防げていない可能性が指摘され始めました。

疾患名-1.00D進行ごとのリスク増加(目安)度数別のリスク目安(正視や軽度近視との比較)
近視性黄斑症 (MMD)1.2強度近視(-6.00D超): 約 40
網膜剥離 (RRD)1.1中等度以上(-3.00D超): 約 10
緑内障 (POAG)1.2中等度〜強度近視: 約 3.3

なぜ「0.025%」なのか? LAMP研究が導き出した答え

「0.01%では眼軸長の伸びを抑えるのに不十分である可能性がある。一方で、濃度を上げすぎると副作用が生じる。」

このジレンマを解決するために行われたのが、香港中文大学による大規模な研究「LAMP study(ランプ・スタディ)」です²。この研究では、0.05%、0.025%、0.01%の3つの濃度を直接比較しました。

その結果、濃度による効果の差が明確に示されました。

  • 0.05%:最も効果が高いが、副作用も少し出やすい。
  • 0.01%:副作用は少ないが、眼軸長の伸びを抑える効果は弱い(プラセボ群との比較推計で約12%の抑制率)²。
  • 0.025%:眼軸長の伸びを約29%抑制し、かつ副作用は0.01%とほぼ変わらない²。

つまり、0.025%は、
眼軸長を有意に抑える高い効果」と「0.01%並みの安全性」を両立した、最適な妥協点となる中間的な濃度(Middle Ground)であることが科学的に証明されたのです³。

日本で承認されたリジュセアミニが0.025%を採用したのは、このLAMP研究の結果に基づき、日本のこどもたちにとって「効果と安全性のバランスが最適だ」と判断されたためだと考えられます。

最も気になる「リバウンド」と「やめどき」

最も心配されるのが、治療を中断した後のことです。
「やめたら反動で急激に悪化するのではないか」という不安に対し、LAMP研究の第3フェーズ(3年目のデータ)が重要な答えを出しています⁴。

0.025%のアトロピン点眼液に、リバウンドは認められなかった

研究では、治療を2年間続けた後、3年目に治療を完全に中止(ウォッシュアウト)して経過を見ました。

  • 0.05%群:治療を中止した後、わずかに近視の進行が早まる傾向(小さなリバウンド)が見られました⁴。
  • 0.025%群:統計的に有意なリバウンド現象は認められませんでした⁴。
  • 0.01%群:リバウンドはありませんでしたが、もともとの抑制効果が弱いままでした⁴。

このデータは非常に重要です。0.025%アトロピンは、治療を中断しても、それまでの治療で得られた「近視抑制の効果の『貯金』」が失われることなく保たれる可能性があることを示唆しています。

いつまで続けるべきか?

こどもの身長が伸びている時期、すなわち眼軸長も伸びやすい中学生頃(成長期が終わる頃)まで継続することが推奨されます。

リバウンドのリスクが低いとはいえ、急に中止することに不安がある場合は、
成長のピークを過ぎたあたりから、毎日点眼していたものを「2日に1回」「3日に1回」と徐々に減らしていく方法(テーパリング)を推奨する専門家もいます⁴。

リジュセアミニ点眼液の技術的な工夫

最後に、薬そのものの特徴についてもご紹介いたします。

従来、院内製剤として作られていたアトロピン点眼と異なり、リジュセアミニは製薬会社(参天製薬)が開発した承認薬です。ここには「DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)」という薬物送達技術が使われています。

アトロピンが効く場所は、目の奥にある「網膜」や「強膜」だと考えられています⁵。
リジュセアミニは、副作用の原因となる目の前の部分(虹彩や毛様体)への薬の分布を抑えつつ、効果が必要な目の奥(後眼部)へ薬を効率よく届けるような特殊な設計がなされています³。

また、防腐剤が含まれていない「1回使い切りタイプ」であることも、長期間毎日点眼するこどもたちの目の表面(角膜)を守る上で大きなメリットと考えられます³。

まとめ:これからの近視治療のスタンダード

リジュセアミニ(0.025%アトロピン)の登場は、近視治療が「とりあえず0.01%を使っておく」時代から、
「眼軸長をしっかり抑えるために、科学的根拠のある濃度を選択する」時代へと変わったことを意味します。

もちろん、すべてのお子さんに0.025%が最適とは限りませんが、少なくとも「効果」と「安全性」、そして将来の「リバウンド」を考えたとき、0.025%は非常に理にかなった選択肢と言えるでしょう⁶。

治療の開始時期・「やめ時」や、現在使っている0.01%からの切り替えなど、ご不明な点がございましたら、診察時にどうぞご相談ください。
こどもの目の未来を守るために、最適な方法を一緒に考えていけたらと思っています。

参考文献

  1. Upadhyay A, Beuerman RW. Biological Mechanisms of Atropine Control of Myopia. Eye & Contact Lens. 2020;46(3):129-135. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9147984/
  2. Yam JC, Jiang Y, Tang SM, et al. Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) Study: A Randomized, Double-Blinded, Placebo-Controlled Trial of 0.05%, 0.025%, and 0.01% Atropine Eye Drops in Myopia Control. Ophthalmology. 2019;126(1):113-124. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30514630/
  3. Santen Pharmaceutical Co., Ltd. RYJUSEA Mini ophthalmic solution 0.025% (atropine sulfate hydrate) Approved in Japan for Slowing the Progression of Myopia in Children. 2024. https://www.santen.com/en/news/2024/2024_1/20241227
  4. Yam JC, Zhang XJ, Zhang Y, et al. Three-Year Clinical Trial of Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) Study: Continued Versus Washout: Phase 3 Report. Ophthalmology. 2022;129(3):308-321. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34627809/
  5. McBrien NA, Stell WK, Carr B. How does atropine exert its anti-myopia effects?. Ophthalmic Physiol Opt. 2013;33(3):373-378. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23662969/
  6. Santen Pharmaceutical Co., Ltd. Santen launches RYJUSEA Mini ophthalmic solution 0.025% for slowing the progression of myopia in children in Japan. 2025. https://www.santen.com/en/news/2025/2025_1/20250318

Takeru Yoshimura, M.D., Ph.D.

たける眼科
takeru-eye.com
福岡市早良区「高取商店街」
西新駅/藤崎駅(福岡市地下鉄)

日本眼科学会 眼科専門医
医学博士(九州大学)

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「症状」を“Googleする”:医療情報を正しくつかうために
https://takeru-eye.com/blog/04102021-never-google-your-symptoms/

目の炎症とは? https://takeru-eye.com/ocularinflammation/

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