まぶたへの美容医療で、重い視力障害を残してしまう話

美容やマッサージ目的で、

まぶたや目のまわりに振動を加えたり、超音波を当てたり、光を当てたりすることで、

白内障やぶどう膜炎・網膜疾患など、目に取り返しのつかない障害を負わせてしまうことがあります。

目次

まぶたへの美容医療で、重い視力障害を残してしまう話

○ マッサージ機を目にあてることによる外傷性白内障

○ High-intensity focused ultrasound(HIFU, ハイフ)による、角膜混濁・視神経障害・後天性の近視発症

○ Intense Pulsed Light(IPL)によるぶどう膜炎・網膜疾患の発症

3つの方法/美容医療による眼障害の実例(症例報告)を、下記の参考文献よりご紹介します。

マッサージ機を目にあてることによる外傷性白内障

外傷性白内障は、目の怪我のあとに発症する白内障です。

マッサージ機(“アイマッサージャー” 等)を目にあてることによって、外傷性白内障をきたすことも知られています。

25歳男性の症例2例、眼精疲労時に手持ちの電動マッサージ機を数年間・他の1例は2週間、眼部に直接あてて使用していた。
白内障はいずれも両眼で、その他の原因は確認されなかった。
マッサージ機による振動刺激が白内障の原因であったと推定された 1

マッサージ機の使用による外傷性白内障の報告は、他にも複数ありました 2,3。 

Massager-Induced Anterior Subcapsular Cataracts and Keratoconus in a Patient With Multiple Epiphyseal Dysplasia

いずれも、失明に至ることはないと考えられます。
でも、白内障の手術が必要となることは大きな負担になってしまいます。

追記:
白内障になってしまうのは、比較的大きな「マッサージガン」をまぶたに当てた場合:
「アイマッサージャー」による眼障害の報告(記載)は、現在のところないようです。
(アイマッサージャーで失明に至るケースはない)

目に振動を与える「アイマッサージャー」は、水晶体・硝子体・網膜に予期しない影響を及ぼすことも考えられます。

High-intensity focused ultrasound(HIFU)による、角膜実質混濁・視神経障害・後天性の近視発症

まぶたを若返らせること(rejuvenation)は、美容医療の大きな目的です。
収束させた超音波を皮膚にあてるハイフ(HIHU, High-intensity focused ultrasound, 高密度焦点式超音波)で、「切らないフェイスリフト」が可能になっているそうです。

「小顔治療」「たるみの引き締め効果」など 顔にハイフ治療をすることにより、まぶたを貫通した超音波が眼球に永続的な障害を起こすことが次々と報告されています。

○ 眼瞼の皮膚は身体で最も薄い皮膚で結合組織に乏しいため、収束させた超音波(Intensed focused ultrasound, IFUS)のターゲットとなる部位を正確に定めることは困難。

○ 眼球や眼瞼(まぶた)はとても繊細な組織であるため、微細な障害が、はっきりした自覚症状につながる可能性がある。

○ HIFUの治療に際し、角膜・結膜を含む眼球(目の周り)を守る器具が不可欠である。

(1) 健康な32歳女性。
眉毛部に超音波をあてて若返りをはかる美容施術(HIFU)を受けたあと、
目の痛み、まぶしさ、ぼやけてみえるなどの症状が生じた。
眼圧上昇(31mmHg)、裸眼視力低下(0.1)、虹彩色素脱失(瞳の色素が目の中ではがれた)
加えて瞳孔(ひとみ)の軽度拡大など、視神経の障害を示唆する所見があった 4

熱による組織障害により、

✔ 毛様体筋(ピントを合わせる筋)を障害し、近視化をひきおこした。

✔ 虹彩を障害し、虹彩色素が目の中に散らばった。

✔ 視神経障害をきたし、瞳孔に影響を及ぼした。

✔ のちに外傷性白内障をきたす可能性が高い。

との結論が記されています。

(2) IFUS治療を受けて3週間後の、50歳の女性

“ぼやけてみえる”症状で眼科を受診。
裸眼視力低下あり、
角膜乱視、角膜上皮下の混濁が認められた。
角膜の断層解析(前眼部OCT)では、角膜実質に著明な混濁がみとめられた。
ステロイド点眼で混濁は軽快したが、乱視はのこった 5

Corneal stromal damage through the eyelid after tightening using intense focused ultrasound

角膜実質はコラーゲンの豊富な組織です。

この症例では、

✔ コラーゲン線維を凝固したことにより、コラーゲン全体が縮小した
✔ 炎症に伴うコラーゲンの縮小

の2点により、角膜組織の収縮があった

と、仮説をたてています。

もうひとつ、

(3) 2009年にFDAで承認されたまゆを上げる治療(browlifting)

として、
HIFUと、外傷性白内障の関連についても記載されています 6

Intense Pulsed Light(IPL)によるぶどう膜炎・網膜疾患の発症

Intense Pulsed Light(IPL)は、色素細胞に吸収される波長の光を用いる治療です。

表層に影響をおよぼさずに深層の皮膚に吸収されるため、皮膚のダメージは少ない。

しみ、そばかす、日焼けあと、あざ、静脈瘤、紫斑、酒さ、脱毛 などに対して、
1996年に初めて報告され、その後20年以上にわたり広く用いられている治療方法です 7

色素細胞が吸収した光のエネルギーは、熱に変わります。

○ 目の中の「虹彩」の色素は、IPLと同じ光の波長を吸収する。

○ そのため、IPL治療が虹彩に重いダメージを与える可能性がある。

○ 「IPLはレーザーではないため安全」との誤った認識が、目の障害につながっている。

○ 眼窩周囲(=眼球近く)のIPL治療は、色素を含む目の組織全体に永続的な影響を及ぼしてしまう可能性がある。

(1) 36歳女性。
顔のIPL治療をして1時間後に、目の痛み・瞳孔の収縮・前部ぶどう膜炎を起こした。
ぶどう膜炎により、
・虹彩と水晶体が癒着した状態(posterior synechiae)
・虹彩萎縮による、非常にまぶしい状態が続いた状態
となった。

(2) 27歳女性。
まぶたのしみ・そばかす(freckle)に対してIPL治療を受けた3日後、目の強い痛み・視力低下を自覚。
瞳孔反応異常・前部ぶどう膜炎をきたしていた。
2か月の経過観察を経たのちも、虹彩・瞳孔反応異常は残ったままとなった。
強いまぶしさと、目の痛みはそのままであった 8

✔ 美容に携わる医師・クリニックに対しての注意喚起と、眼障害を防ぐための適切な防御器具の使用が必要。

(3) 27歳女性。医療機器メーカー勤務。
IPL治療後に網膜色素上皮障害から脈絡膜新生血管をきたし、現在は抗VEGF抗体硝子体内注射(眼球内への直接注射)による治療中 9

✔ 脈絡膜・網膜にも色素が存在するため、IPLによる重篤な網膜障害・視力障害もきたす可能性がある。

IPLはフォトフェイシャル・フォトエステ、家庭用脱毛器(光美容器)
HIFUはハイフ(セルフハイフ)、目の周り(目元)はハイフ・アイとして紹介されています。
いずれも、重い視力障害を残してしまう可能性があります。

“セルフエステ”も含め、
美容医療(施術)を受けるときには、十分な注意が必要と考えます。

本日の診療で患者さんからご質問いただいて、書きました。

(参考)
1. マッサージ器による振動刺激で生じたと考えられた白内障の2症例
大下 雅世 1 , 薄井 紀夫 1 , 臼井 正彦 1
臨床眼科 56巻1号 (2002年1月)pp.45-48
2. Tang, J., Salzman, I.J., Sable, M.D., 2003. Traumatic cataract formation after vigorous ocular massage. Journal of Cataract & Refractive Surgery 29, 1641–1642. https://doi.org/10.1016/S0886-3350(03)00120-2
3. Khan, H., Kharsa, A., 2021. Massager-Induced Anterior Subcapsular Cataracts and Keratoconus in a Patient With Multiple Epiphyseal Dysplasia. Cureus 13. https://doi.org/10.7759/cureus.19095
4. Chen, Y., Shi, Z., Shen, Y., 2018. Eye damage due to cosmetic ultrasound treatment: a case report. BMC Ophthalmology 18, 214. https://doi.org/10.1186/s12886-018-0891-2
5. Kyung Jung, S., Yang, S.-W., Soo Kim, M., Chul Kim, E., 2015. Corneal stromal damage through the eyelid after tightening using intense focused ultrasound. Canadian Journal of Ophthalmology 50, e54–e57. https://doi.org/10.1016/j.jcjo.2015.04.010
6. Strauss, R.W., Bolz, M., 2020. Lens Opacity Following High-Intensity Focused Ultrasound. JAMA Ophthalmol 138, 215–216. https://doi.org/10.1001/jamaophthalmol.2019.4963
7. Goldberg, D.J., 2012. Current Trends in Intense Pulsed Light. J Clin Aesthet Dermatol 5, 45–53.
8. Lee, W.W., Murdock, J., Albini, T.A., O’Brien, T.P., Levine, M.L., 2011. Ocular Damage Secondary to Intense Pulse Light Therapy to the Face. Ophthalmic Plastic & Reconstructive Surgery 27, 263–265. https://doi.org/10.1097/IOP.0b013e31820c6e23
8. Chang, C.-Y., Sheu, S.-J., 2018. Choroidal Neovascularization Secondary to Intense Pulsed Light Injury. Ophthalmic Plast Reconstr Surg 34, e129–e131. https://doi.org/10.1097/IOP.0000000000001142

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