眼底にレーザー治療/目の中に注射をする理由

目の奥の血管(網膜血管)は体の中で唯一、直接見ることができる血管です。

眼底写真をとることで、

網膜疾患の他に、高血圧、動脈硬化、視神経乳頭陥凹拡大疑い などがある程度わかります。

(健康診断で指摘されるのは、眼底写真からの判断です)

眼科を受診した際には、

医師の両目:細隙灯顕微鏡と特殊なレンズを用いた診察で、網膜・硝子体・視神経の立体的な変化をとらえます。

糖尿病、網膜静脈閉塞(血管がつまること)などで網膜の血の巡りが悪くなると、網膜に炎症が起こります。炎症が起こった網膜からは”炎症性サイトカイン”が出てきます。

目の中は閉鎖空間であるため、産生された炎症性サイトカイン(たんぱく質)は眼内にたまったままになります。(サイトカイン濃度が高い前房水や硝子体は粘度が高くなっています。)

炎症性サイトカインには、

・血管の壁を弱くする作用

・新しい血管を生やす作用(弱く、出血しやすい血管)

・組織を傷める作用

・炎症細胞を集める作用

などがあります。

網膜にレーザー治療をする理由は、炎症性サイトカインを産生する諸悪の根源(=血の巡りの悪くなっている網膜)を”間引く”ことです。

2009年に発表した論文1では、345人の患者さんの目の中の炎症性サイトカインを多項目にわたり測定し、各疾患別に統計学的解析をおこないました。

多くの網膜硝子体疾患は炎症が関与すると結論づけて、サブタイトルはvitreoretinal immunity(網膜硝子体の免疫)としました。

結果は講演でもたくさん使って頂き、いまでも各国でも多く引用して頂いています。

お世話になった多くの先生に感謝しています。

炎症性サイトカインの中でもVEGF(血管内皮増殖因子)が最も重要2で、この10年でも糖尿病黄斑浮腫・網膜静脈閉塞症・加齢黄斑変性・近視性黄斑変性など網膜疾患の多くの治療法が大きく変わりました:抗VEGF薬硝子体内注射

IL-6(インターロイキン6)の作用も非常に強力と思われます3,4。近い将来眼科領域においてもIL-6をターゲットとした治療が普及するものと思います。

【網膜のレーザー(光凝固)治療/硝子体注射】

血の巡りの悪くなった網膜(→諸悪の根源となる網膜をレーザーで間引く)

↓  ↑

炎症を引き起こす・血管新生

↓  ↑

目の中に炎症性サイトカインがたまる(→薬でサイトカインの働きをおさえる)

↓  ↑

血管の状態が悪化する

悪循環となった目の中の環境に、介入する治療です。

(参考)
1. Comprehensive analysis of inflammatory immune mediators in vitreoretinal diseases.
Yoshimura T, Sonoda KH, Sugahara M, Mochizuki Y, Enaida H, Oshima Y, Ueno A, Hata Y, Yoshida H, Ishibashi T.
PLoS One. 2009 Dec 4;4(12):e8158
2. VEGF in Signaling and Disease: Beyond Discovery and Development.
Apte RS, Chen DS, Ferrara N.
Cell. 2019 Mar 7;176(6):1248-1264.
3. Roles of IL-6 in Ocular Inflammation: A Review.
Ghasemi H.
Ocul Immunol Inflamm. 2018;26(1):37-50.
4. Involvement of Th17 cells and the effect of anti-IL-6 therapy in autoimmune uveitis.
Yoshimura T, Sonoda KH, Ohguro N, Ohsugi Y, Ishibashi T, Cua DJ, Kobayashi T, Yoshida H, Yoshimura A.
Rheumatology (Oxford). 2009 Apr;48(4):347-54.

2021.8.29 追記:以下を使用できるようになりました。
» 網膜画像診断の進歩:超広角眼底撮影

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次