シーサイドももちの文化的な中心として、30年以上にわたり親しまれてきた福岡市博物館。その南側エントランス前に広がる大きな池は、訪れる人々にとって静かにくつろげる憩いの場でした。
この池が作り出す風景はとても良かったですね!風のない晴れた日には、池がまるで鏡のように周囲の木々を静かに映し出し、その光景は格別でした。その美しさに惹かれて、何度もiPhoneからInstagramに投稿しました。
しかし今、その穏やかな光景は失われ、建設用のフェンスや重機の音が響いています。これは一時的なメンテナンス工事ではなく、この場所の公共空間としての性格を根本から変える、大規模かつ恒久的な再開発が進んでいるのです。
福岡市博物館の池は75%縮小され、その大部分が商業施設(レストラン)に置き換わることになるようです。
何が起きているのか? 「憩いの場」から「稼ぐ場所」へ
今回の再開発計画で最も大きな変更点は、南側広場の中心にあった池の扱いだそうです。
公式計画によれば、約2,500平方メートルあった池は、約625平方メートルへと大幅に縮小される予定です。そして池のあった場所には、レストランや休憩施設が新たに建設されることになっています。この広場が商業的な機能を持つのは、今回が初めてです。
福岡市は、この新しい広場を「花と緑のオアシス空間」として整備し、開放的な場所にすると説明しています。しかし、実際には静かに思索にふけるような水辺空間の価値から、飲食やイベント利用といった経済活動を生み出す空間へと、大きく方針転換することになります。
特徴 | 再開発前(Before) | 再開発後(After) |
池 | 約2,500 m²。広場の中心的な存在。 | 75%縮小され、約625m²となる計画だそうです。 |
商業利用 | なし。純粋な公共の休憩・思索空間。 | 新たなレストランと屋根付き休憩施設が計画の中核をなすそうです。 |
緑地 | 大きな池を囲む既存の樹木や植栽。 | 新たに1,800 m²の庭園エリアと花壇を整備するということです。 |
アクセス | 開放的な広場だが、一部に壁などがあった。 | 壁を撤去し「開放性」を向上。福岡タワーへ続く新たな園路も整備されるそうです。 |
いつまで続くのか? 2029年までの長期的プロジェクト
この再開発は「福岡市博物館リニューアル事業」という公式名称のもと、約5年間にわたる大規模な計画です。事業は大きく3つの段階(フェーズ)に分けて進められます。
- フェーズ1:収蔵庫棟の建設(現在進行中~2026年3月頃)
博物館の北側では、新たな収蔵施設が建設されているそうです。 - フェーズ2:南側広場の再開発(2025年8月頃~2026年10月頃)
この期間、池を含む南側の正面広場は完全に閉鎖されます。博物館への出入りは東西の入口に変更され、駐車場も一部縮小されるとのことです。 - フェーズ3:博物館本館の全面改修(2026年10月頃~2029年3月)
この期間、福岡市博物館は完全に休館となります。老朽化した設備の更新や展示室の全面リニューアルが行われます。
最終的なグランドオープンは、2029年3月の予定です。
なぜこのような計画に? 福岡市の大きな戦略
施設の老朽化対策が主な理由として挙げられていますが、この大規模な再開発の背景には、福岡市のより大きな経済・都市開発戦略があるようです。
市の「基本計画」では、博物館を文化観光の拠点として強化し、国際会議や展示会(MICE)を誘致できる「ユニークベニュー」としての機能を高めることが目標として明記されています。静かな池はイベント開催や収益化にはあまり向いていませんが、レストランを備えた広場は、MICE誘致という目的に合致すると考えられます。
この動きは、福岡市中心部の再開発を促す「天神ビッグバン」に続く都市戦略の一環です。市は文化・芸術を次の都市開発の柱と位置づけ、複数の大規模文化プロジェクトを同時並行で進めています。これらのプロジェクトが2029年頃に集中して完成予定であることから、市が一貫したビジョンのもとに、福岡を国際的な「文化・芸術の街」へと作り変えようとしていることがうかがえます。
どのように決められているのか?
この事業のもう一つの重要な点は、その手法にあります。本館の改修と長期的な運営には、PFI-RO方式という官民連携モデルが採用されます。
これは、選定された民間企業が改修から運営までを一体的に担う仕組みです。事実上、博物館の運営が民営化される形となり、民間事業者の経営判断が大きく影響することになります。
意思決定のプロセスを見ると、福岡市が計画を主導しています。しかし、池を75%も削減するという大きな景観の変更について、計画段階で市民の意見を広く取り入れるような手続きが実際に行われたのかどうか、公表資料からは確認できませんでした。
まとめ:問い直される公共空間のあり方
福岡市博物館の池の再開発は、単なる景観の変更だけではないようです。市の経済戦略を背景として、公共空間の価値が「憩い」から「収益」へと再定義される象徴的な出来事だといえるでしょう。
こうした公共空間の大きな変化については、計画の背景や詳細がもっと広く市民に共有されるべきでしょう。今後は、運営を担う民間事業者が選ばれる予定ですが、そのプロセスや契約内容についても市民が注視していく必要がありそうです。
私たちの街の公共空間は、商業的な利便性を重視するべきなのか、それとも静かで思索的な豊かさを守っていくべきなのか。この再開発計画は、その問いを私たち一人ひとりに投げかけているようです。
参考文献
Japan Atlas: Seaside Momochi
https://web-japan.org/atlas/communities/com18.html
福岡市博休館中通信 寒中お見舞い申し上げます。博物館の池が凍りました。
http://fcmuseum.blogspot.com/2021/01/blog-post_9.html
Japan’s Fukuoka to Create ‘City of Culture, Art’ Through Renovation of Museums
Fukuoka City Museum – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Fukuoka_City_Museum
福岡市博物館リニューアルの検討について
https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/museum-kanri/shisei/documents/renewal_kentou.pdf
福岡市博物館が大規模リニューアル – 常設展示を全面刷新、南側広場にレストランも新設
https://www.fashion-press.net/news/128608
福岡市博物館リニューアル基本計画 について(概要)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/museum-kanri/shisei/documents/kaigisiryou2.pdf
福岡市博物館リニューアル基本計画
https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/museum-kanri/shisei/documents/kihonkeikaku.pdf
リニューアル工事にともなうお知らせ – 福岡市博物館
https://museum.city.fukuoka.jp/topics/renewal
福岡市博物館の収蔵庫棟増築、照栄・東部産業JVが17.2億円で落札
https://www.data-max.co.jp/article/71850
福岡市博物館リニューアル事業 実施方針
https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/museum-kanri/shisei/documents/jisshihoushin.pdf
福岡市博物館リニューアル推進事業について
https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/museum-kanri/shisei/fukuoka-city-museum-renewal.html