LASIK後の遅発性角膜混濁:数年後に起こりうる眼の変化と対処

LASIK後の角膜には、数年から十数年が経過した後に混濁が生じることがあります。術後「もう問題はない」と感じている方でも、フラップ下の層間は生涯残存し、何らかのきっかけで炎症や液体貯留が起こりえます。

今回の文章では、遅発性角膜混濁の種類・診断・治療について解説します。


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LASIKのフラップは、一生残ります

LASIKを受けた角膜 断面図
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LASIKでは、角膜の表面に薄い「ふた」(フラップ)を作り、その下の実質(角膜の本体部分)にレーザーを照射して屈折を矯正します。手術が終わるとフラップは元の位置に戻り、数時間で表面に接着します。

ただし、フラップが「完全に癒合して消えてなくなる」わけではありません。フラップと下の角膜実質のあいだには、極めて薄い「潜在的なすき間」が術後何十年経っても残り続けます¹。

実際、LASIK後20年以上が経過した角膜でも、フラップを物理的に持ち上げられることが確認されています¹。これは驚くべきことのように聞こえますが、手術の構造を考えると当然の結果でもあります。ケーキに入れた切り込みが、時間が経っても消えないようなイメージです。

このすき間は、通常は何も問題を起こしません。しかし、何らかのきっかけ——目の外傷、眼の炎症、眼圧の変化、紫外線、あるいは全身の体調変化——が加わると、その層間に異変が生じることがあります。


遅発性角膜混濁とはどのような状態か

LASIK後の遅発性角膜混濁は、ひとつの病気ではありません。原因の異なるいくつかの病態が含まれており、それぞれ治療の方針が大きく異なります。まず全体像を示したうえで、それぞれを詳しく見ていきます。

主な病態は次の4つです。びまん性層間角膜炎(DLK)の遅発性再発、圧力誘発性層間角膜症(PISK)、角膜上皮増殖、そして実質混濁(Haze)です。見た目が似ているにもかかわらず、治療が正反対になることもあるため、正確な見極めが極めて重要です。


びまん性層間角膜炎(DLK)の遅発性再発

DLK vs PISK LASIK後の層間合併症
dlk-vs-pisk-lasik-interface-complications

びまん性層間角膜炎(Diffuse Lamellar Keratitis, DLK)は、LASIKのフラップ下に炎症細胞が集まる病態です。層間に砂を散らしたような白い混濁が見られることから、「サハラの砂症候群」とも呼ばれます。

術後早期(数日〜数週間)に起こるものとして広く知られていますが、術後数年、あるいは十数年が経過してから再発することも報告されています²。

なぜ年月が経ってからも再発するのでしょうか。角膜の表面(上皮)が傷つくと、炎症を引き起こすサイトカイン(細胞間で情報を伝えるたんぱく質)が放出されます。放出されたサイトカインは、フラップ下の「抵抗が最も少ない経路」であるすき間を通じて、層間へと炎症細胞を引き込んでしまいます²。

10年以上前に作られた「通り道」が、炎症細胞にとっての抜け道として機能し続ける——そのようなイメージです。

遅発性DLKのきっかけとして報告されているものには、スポーツによる目への外力、ウイルス性の結膜炎、重度のドライアイによる上皮の傷、全身疾患に伴う免疫の変化などがあります²。近年では、感染症に伴う眼表面の免疫調節異常が、術後20年が経過した症例でDLKを誘発したと報告されており、層間が炎症の場として永続的に機能する可能性が改めて示されています²。


圧力誘発性層間角膜症(PISK)

圧力誘発性層間角膜症(Pressure-Induced Stromal Keratitis, PISK)は、眼圧の上昇によって角膜の内側から水分がフラップ下のすき間へと押し込まれる病態です³。

DLKと見た目が非常に似ているにもかかわらず、治療は正反対です。DLKには炎症を抑えるためにステロイド点眼を使用しますが、PISKの原因がステロイド点眼による眼圧上昇であることも多く、その場合にステロイドを増量すると眼圧がさらに上がり、病態をさらに悪化させてしまいます³。

もうひとつ重要な特性があります。LASIK後の角膜は、フラップの存在と層間の変化によって、ゴールドマン圧平眼圧計が想定している「典型的な角膜」とは異なる状態になっています³¹⁴。そのため、実際より低めに測定されてしまうことがあり、PISKではこれが「診断の落とし穴」になります。

LASIK後の眼にステロイド点眼を使用するあらゆる場面で、この眼圧特性を念頭に置くことが求められます。

LASIK後の眼で眼圧が低めに出るしくみについては、別の記事で詳しく解説しています。


角膜上皮増殖(Epithelial Ingrowth)

角膜上皮増殖は、角膜の表面を覆う上皮細胞がフラップのふちから層間に入り込み、増殖する病態です。

術後早期に発生することが多いですが、術後数年が経過してからの外傷や、再手術のためのフラップリフトがきっかけとなり、遅発性に進行することもあります⁴。

軽度のものは経過観察で問題ありませんが、上皮細胞が角膜の中心部に向かって広がると、視力低下や不正乱視を引き起こします。さらに進行すると、上皮細胞が産生する酵素によってフラップそのものが徐々に溶けてしまう——ケラトリシスと呼ばれる状態——に至ることが、稀にあります⁴。

進行の程度はグレードで分類されます。フラップ端から2mm以内で境界が明確なものは経過観察、中心部に向かって進行しているものや、フラップ融解を伴うものは早期の処置が必要です⁴。


実質混濁(Corneal Haze)

LASIK後の実質混濁は、PRK(レーザー角膜屈折矯正手術、Photorefractive Keratectomy)と比べると発生率は低いものの、高度近視の矯正を受けた方やフラップに問題があった方では起こりえます⁵。

角膜の透明性は、整然と並んだコラーゲン線維と、静止状態の角膜細胞によって保たれています。上皮基底膜が損傷し、その修復が遅れると、TGF-β(トランスフォーミング増殖因子、Transforming Growth Factor-β)などのサイトカインが実質内に持続的に流れ込みます。これによって角膜細胞が筋線維芽細胞へと変化し、不透明な細胞外基質を産生することで、臨床的な「混濁」として現れます⁵。

紫外線(UV-B)はこの線維化プロセスを強力に促進することが示されており⁶、術後のサングラス着用が推奨される理由のひとつです。


「曇っている感じ」をどう見極めるか

ここからは、眼科での検査・診断に関する、やや専門的な内容を含みます。受診の際の参考として読んでいただければ十分です。

遅発性角膜混濁の正確な診断には、細隙灯(スリットランプ)による観察に加えて、画像検査が重要な役割を果たします。

前眼部光干渉断層計(Anterior Segment OCT, AS-OCT)は、フラップの内側を断面で非侵襲的に観察できる検査です。PISKでは層間に液体が貯留した「すき間」が確認でき、上皮増殖では高い反射を示す細胞塊が観察されます³。スリットランプだけでは判断が難しい病態を、客観的に可視化するための重要なツールです。

生体共焦点顕微鏡(In Vivo Confocal Microscopy, IVCM)は、細胞レベルでの観察を可能にします。DLKでは炎症細胞が多数確認されるのに対し、PISKでは細胞成分が乏しく実質内に微細な水のすき間が観察されます³。

また、Scheimpflug(シャインプルーフ)カメラを用いたデンシトメトリー検査では、角膜の透明度をグレースケール・ユニット(GSU)として数値で表すことができます。主観的なスリットランプ評価を客観的な指標で補完でき、治療効果の追跡にも役立ちます。

これらの検査を組み合わせることで、見た目が似ていても異なる病態を見極め、適切な治療につなげることができます。


治療はどう進めるか

治療は、原因によって大きく異なります。

DLKに対しては、強力なステロイド点眼が第一選択です。重症の場合はフラップを持ち上げ、層間を洗浄して炎症細胞を除去する処置を行います²。場合によっては全身へのステロイド投与も検討されます。

PISKに対しては、ステロイドを中止し、眼圧を下げる治療が基本です。β遮断薬やα2作動薬などの眼圧降下薬が使用されます。眼圧が改善すれば、角膜内皮のポンプ機能によって層間に貯まった水分は数日〜数週間かけて自然に吸収されます³。

上皮増殖に対しては、視力への影響や進行の程度に応じて処置を検討します。フラップを再び持ち上げ、実質ベッドとフラップ裏面の両面から上皮細胞を丁寧に除去する手術が行われます。再発防止のため、マイトマイシンC(Mitomycin C, MMC)などを用いることもありますが、再発率は10〜20%と高く、慎重な経過観察が必要です⁴。

固定した実質混濁に対しては、エキシマレーザーを用いた治療的角膜切除術(Phototherapeutic Keratectomy, PTK)が選択肢のひとつです。再発予防のため、術中にMMCを塗布します⁷。MMCは0.02%の濃度で用いることが多く、高濃度(0.04%)は効果が強い反面、角膜内皮への毒性リスクが高まるため通常は推奨されません⁸。


日常生活で注意すること

紫外線への対策は、術後早期だけでなく長期的に継続することが望まれます。UV-B曝露と角膜混濁の発生には相関があることが示されており⁶、術後はUVカット機能のあるサングラスを屋外で着用することが勧められます。

ステロイド点眼を使用している方は、必ず眼圧の経過を確認する必要があります。LASIK既往眼では眼圧が低く測定されやすいという特性があるため、わずかな変化でも見逃さない観察が重要です³。

また、LASIK後から何年経っていても、次のような症状が現れた際は速やかに眼科を受診することが大切です。

  • 急に視力が落ちてきた
  • 光がまぶしい、目が充血している
  • 視界が白くかすむ、砂越しに見るような感覚がある

これらは遅発性の炎症や感染のサインとなることがあります。「もう時間が経ったから大丈夫」という感覚は、一度手放しておくことが必要かもしれません。


LASIK後の長期的なフォロー

LASIK後の白内障手術:層間への影響 lasik-cataract-surgery-interface-considerations

1990年代から2000年代にLASIKを受けた世代が、白内障手術が必要になる年齢に差し掛かっています。このような患者さんでは、LASIKによる角膜の構造的変化が、白内障手術のあらゆる場面に影響します¹。

白内障手術の際、LASIK既往眼では眼内レンズ(IOL)の度数計算に通常とは異なる手法が必要です。また、白内障手術後に使用するステロイド点眼がPISKを再発させるきっかけとなることもあるため、術後の眼圧管理が特に重要になります¹。

当時のマイクロケラトームで作られたフラップは、現在のフェムトセカンドレーザーによるものに比べて厚く、端が不整になりやすい特性があります。術後20年が経過した眼では、約40%にドライアイが残存し、約10%に夜間のハロー・グレアが持続しているという調査結果もあります¹。

LASIKを受けた眼は、何十年経ってもその構造的な特性を持ち続けます。


参考文献

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  2. Moshirfar M, Durnford KM, Lewis AL, et al. Five-Year Incidence, Management, and Visual Outcomes of Diffuse Lamellar Keratitis after Femtosecond-Assisted LASIK. J Clin Med. 2021;10(14):3067. Published 2021 Jul 11. doi:10.3390/jcm10143067 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8304683/
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Takeru Yoshimura, M.D., Ph.D.

たける眼科
takeru-eye.com
福岡市早良区「高取商店街」
西新駅/藤崎駅(福岡市地下鉄)

日本眼科学会 眼科専門医
医学博士(九州大学)

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「症状」を“Googleする”:医療情報を正しくつかうために
https://takeru-eye.com/blog/04102021-never-google-your-symptoms/

目の炎症とは? https://takeru-eye.com/ocularinflammation/

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