新型コロナウイルス感染後の目:網膜血管障害

目の血管は、体内で唯一直視できる血管です。

そのため脳神経外科・循環器内科・神経内科 等、眼科以外の診療科の医師も眼底所見を診断の助けにすることがあります。

2022年に入り、新型コロナウイルス感染症罹患後の血管の変化につき
・心臓血管
・網膜血管
に関しての知見が発表されました。

目次

新型コロナウイルス感染後の目:網膜血管障害

心血管系の障害

2022年2月、コロナ感染後長期 心血管系の障害の研究結果が報告されました。



COVID-19に罹患した153,760人の解析の結果、

  • 脳血管障害(脳卒中、一過性脳虚血発作)
  • 不整脈(心房細動、洞性徐脈、心室性不整脈、心房粗動)
  • 炎症性心疾患(心膜炎、心筋炎) 
  • 虚血性心疾患(急性冠動脈疾患、心筋梗塞、虚血性心筋症、狭心症) 
  • その他心疾患(心不全、非虚血性心筋症、心停止、心原性ショック)
  • 血栓症(肺塞栓症、深部静脈血栓症、表在静脈血栓症)

全てにおいて、COVID-19感染後はその危険性が増すことが示されました1

コロナ感染後の目:網膜出血・網膜虚血がみられる?

コロナ感染後の血管の変化は、眼にも影響を及ぼすことも記載されました。
初期には、コロナ感染で結膜炎や眼痛などの記載が多くありました。
主に眼球の表面や前のほうにあたる「前眼部」の病変です。

» 「目が痛い」新型コロナウイルス感染症の初発症状

その後、後眼部(眼底)の「網膜」に関する研究論文が相次ぎました。

コロナ感染で網膜に障害が起きた場合、
・見づらい
・ぼやける
・ものがゆがんで見える
等の症状につながります。

視神経・網膜

2020年5月のLancet誌に、COVID-19感染後の網膜の変化に関し初めての記載がありました2

Marinho, P.M., et al., 2020. Retinal findings in patients with COVID-19. The Lancet 395, 1610.
  • 網膜の綿花状白斑(網膜の血のめぐりが悪くなる「虚血」を示唆する所見)
  • 網膜出血

OCT(網膜の断層)の解析結果が記載されました。

「以上のOCT所見、正常眼でも同じようにみられるのでは」
ハーバードのVavvas先生たちは、慎重意見を記載されています3(2020年12月)。

コロナ感染後の目:網膜血管密度の低下

その後コロナ感染拡大とともに症例が蓄積し、網膜血管の“密度”の解析がおこなわれてきました。
OCT血管撮影(OCTアンギオグラフィー, OCTA)を使用した研究です。

網膜のうちものを見る最も大事な部分は、「黄斑」と呼ばれます。
そのうちさらに真ん中にあたる部分は「中心窩」と呼ばれ、血管が無い部分として知られています。
網膜の断層でみるへこんだ部分:「中心窩陥凹」の部分が、無血管野となっています。

コロナ感染が網膜血管に及ぼす影響:227篇の研究論文に基づいた解析(メタアナリシス)のご紹介です。

227篇のうちから条件を調整して、31篇の論文がメタアナリシスの対象とされました。

OCT血管撮影では、

  • 「中心窩」付近の血管の密度
  • 中心窩の無血管野(Foveal avascular zone, FAZ)の広さ

を調べています。

解析対象が最も多かった研究結果(Zapata, et al.4)から、代表的な写真です。
A(COVID-19陽性)の症例では、B(コントロール:COVID-19陰性)と比べて
中心窩無血管野(FAZ)が拡大していることが示されています。

Zapata, M.Á., et al., 2020. Retinal microvascular abnormalities in patients after COVID-19 depending on disease severity. Br J Ophthalmol bjophthalmol-2020-317953.


今回2022年のメタアナリシスでは、
合計で972人のCOCID-19感染者、及び401人の非感染者(コントロール群):
OCT血管撮影を用いた解析の結果、「コロナ感染後の網膜の血管密度は低下する」と結論づけられました5
(統計学的な有意差があった)

コロナウイルスは、血管のACE-2受容体から体内に入り込むことがわかっています。
他の血管と同様、網膜・脈絡膜の血管にもACE-2受容体が発現していることが知られています。
そのため、他の血管系の影響が同様に確認されることと予想されます。

詳細な分子生物学的な根拠は、まだ明らかではありません。

多くの論文を解析した論文「メタアナリシス」の科学的根拠は高くなります。
「コロナ感染後、網膜血管の変化はある」と捉えて良さそうです。

長期に渡る解析結果が必要とされます。

心血管系の「窓」となる網膜血管

眼底の「網膜」:
特殊なレンズと顕微鏡を使って、眼科医は網膜の血管の状態を観察しています。

眼科学とは離れた分野の「血管の研究者」は、動物実験で網膜血管を使用することも多くあります。

太い心臓血管が分岐して、極限まで細くなった血管が網膜血管です。

The heart and the eye, two organs at first sight not linked to each other, have more in common than one would expect. The vascu- lature of the eye, although some peculiarities do exist, shares many features with the vasculature of the heart and is often exposed to the same intrinsic and environmental influences. Thus, the eye, with its easily accessible vasculature, may indeed be a window to the heart, but knowledge about some unique vascular features is necessary.

心臓と目という、一見すると結びつきのない臓器には意外と共通点が多くあります。

目の血管はいくつかの特殊性はあるものの、心臓の血管系と多くの特徴を共有しています。

そのためしばしば血管の固有の影響及び、外的環境に左右されます。

したがって血管系に容易にアクセスできる眼はまさに「心臓への窓」となり得るが、血管のいくつかの特徴に関する知識も必要である6

Flammer, J., et al. The eye and the heart. Eur Heart J 34, 1270–1278.

コロナ感染症後の血管の変化に関して、追跡した研究は始まったばかりです。
「コロナの後遺症」と呼ぶには、まだ早いのかもしれません。

網膜血管をみる方法は大きくわけて2つ
・診察用の顕微鏡とレンズを用いて網膜血管を直視
・画像解析:OCT・OCT血管撮影超広角眼底撮影

以上を駆使して、眼科医は全身の血管の変化を予測します。

参考文献

  1. Xie, Y., Xu, E., Bowe, B., Al-Aly, Z., 2022. Long-term cardiovascular outcomes of COVID-19. Nat Med 1–8. https://doi.org/10.1038/s41591-022-01689-3
  2. Marinho, P.M., Marcos, A.A.A., Romano, A.C., Nascimento, H., Belfort, R., 2020. Retinal findings in patients with COVID-19. The Lancet 395, 1610. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31014-X
  3. Vavvas, D.G., Sarraf, D., Sadda, S.R., Eliott, D., Ehlers, J.P., Waheed, N.K., Morizane, Y., Sakamoto, T., Tsilimbaris, M., Miller, J.B., 2020. Concerns about the interpretation of OCT and fundus findings in COVID-19 patients in recent Lancet publication. Eye (Lond) 34, 2153–2154. https://doi.org/10.1038/s41433-020-1084-9
  4. Zapata, M.Á., Banderas García, S., Sánchez-Moltalvá, A., Falcó, A., Otero-Romero, S., Arcos, G., Velazquez-Villoria, D., García-Arumí, J., 2020. Retinal microvascular abnormalities in patients after COVID-19 depending on disease severity. Br J Ophthalmol bjophthalmol-2020-317953. https://doi.org/10.1136/bjophthalmol-2020-317953
  5. Teo, K.Y., Invernizzi, A., Staurenghi, G., Cheung, C.M.G., 2022. COVID-19-Related Retinal Micro-vasculopathy – A Review of Current Evidence. Am J Ophthalmol 235, 98–110. https://doi.org/10.1016/j.ajo.2021.09.019
  6. Flammer, J., Konieczka, K., Bruno, R.M., Virdis, A., Flammer, A.J., Taddei, S., 2013. The eye and the heart. Eur Heart J 34, 1270–1278. https://doi.org/10.1093/eurheartj/eht023
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