マイサイト(MiSight® )と乱視:こどもの近視進行抑制

MiSight®  1 dayでの近視抑制治療を始めてから1ヶ月余りが経ちました。すでに十数名の方が、この治療をスタートされています。関心を持ってくださる方が増えるにつれ、乱視についての疑問も自然と増えてきています。

乱視があっても近視抑制治療が必要なこどもはたくさんいます。乱視の量や向きによって選択肢は変わりますが、「乱視があるから何もできない」ということはありません。この記事では、乱視とMiSightの関係を整理し、どのような場合に何を選べばよいかを説明します。

眼科検査は視能訓練士が担当します。


Table of Contents

まず「乱視」とは何かを整理する

乱視と聞くと「視界が乱れる」「ものが歪んで見える」というイメージを持ちますが、これは必ずしも正確ではありません。

乱視とは、黒目(角膜)の形のことです。

角膜は本来、どの方向から見ても同じ曲率を持つ球面に近い形をしています。乱視は、角膜の縦方向と横方向で曲率が異なる状態です。球面ではなく楕円面に近い形状として、ある方向に少し歪んでいる状態を指します。

重要なことは、乱視は「誰にでもあるもの」だということです。

人体の器官は完全な対称形ではありません。角膜もそのひとつで、軽度の乱視(0.25〜0.50D程度)は多くのこどもに自然に存在しています。その程度であれば視力への影響はほとんどなく、矯正の必要もないことが大半です。問題になるのは、乱視の量が一定を超えたときです。

乱視には「向き」もあります。代表的には、縦方向のカーブが急な直乱視(with-the-rule astigmatism, WTR)、横方向のカーブが急な倒乱視(against-the-rule astigmatism, ATR)、斜め方向の斜乱視があります。向きによって、視力への影響や治療の選択肢が変わります。
こどもに最も多いのは直乱視で、成長とともに倒乱視へと移行していくことが知られています。


MiSight 1 dayとはどういうレンズか

MiSight 1 day(CooperVision社)は、近視の進行を抑制するために設計されたソフトコンタクトレンズです。1日使い捨てで、毎日新しいレンズを使います。

レンズの光学設計に特徴があります。中央部は遠方の屈折を矯正します。一方、外側に交互に配置された「治療ゾーン」は、網膜の手前に焦点を結ぶ光の信号(近視性デフォーカス)を常に与えます。この刺激が眼軸長の伸展を抑制するメカニズムです1

3年間の無作為化比較試験(ランダム化比較試験, Randomized Controlled Trial, RCT)では、単焦点コンタクトレンズと比較して近視の進行を約59%、眼軸長の伸展を約52%抑制したことが報告されています2。6年間の長期データでも効果の持続が報告されており3、7年目の追跡研究では装用終了後の急激な近視進行(リバウンド)について、明確な増加は示されなかったと報告されています4


MiSightと乱視——どこまで使えるか

わたしたちは承認範囲の数値を参考にしつつ、試用レンズ(トライアルレンズ)での実際の見え方と本人の感覚を最優先に適応を判断しています。

MiSightの承認条件には「乱視量が0.75D以下」と明記されています1。これはMiSightが球面デザイン、つまり乱視を矯正する構造を持たないレンズであるためです。

乱視が残ると、レンズを通じた像が少しぼけます。ただし、乱視が軽度(0.75D以下)であれば、等価球面度数(球面度数に乱視度数の半分を加えた値)で近似でき、視力は十分に矯正されます。乱視が強くなるほど、この近似が成り立たなくなります。

主要な3年・6年臨床試験における被験者の選択基準は乱視0.75D以下でした2,3。スペインで実施された独立した2年間のRCTでは、乱視1.00D未満の被験者も一部含まれており、近視進行の抑制効果が確認されています5

実際の診察では、数字だけで判断するのではありません。試用レンズ(トライアルレンズ)をつけて視力が1.0以上出るか、本人が見えにくいと感じないかを確認することが重要です。


乱視量と、マイサイト(MiSight® )処方の目安

以下の表は、乱視量と軸の方向に応じた処方の目安をまとめたものです。診察室での実際の判断は試装結果を優先しますが、判断の目安として示します。

乱視量軸の向きMiSightの処方コメント
≤ 0.75Dいずれも◎ 通常処方承認範囲内。適応可否は検査結果を踏まえて判断
0.75〜1.00D直乱視(WTR)△ 試装で判断視力1.0以上で、本人の訴えがなければ可
0.75〜1.00D倒乱視・斜乱視△→×見えにくさが出やすい、別手段を優先
1.00〜1.25D直乱視(WTR)△ 慎重に試装承認外、十分な説明と定期確認が前提
1.00〜1.25D倒乱視・斜乱視×オルソケラトロジーや眼鏡レンズへ
>1.25Dいずれも×MiSightは第一選択にならない

直乱視が比較的許容されやすいのは、縦方向の歪みが遠方視力への影響が比較的小さく、等価球面処方でも視力が出やすいためです。倒乱視・斜乱視は、近業(読書など)の際に見えにくさや眼精疲労につながりやすい傾向があります。学習への影響を考えると、早めに完全矯正できる手段を選ぶのが適切です。


乱視が強いこどもには、オルソケラトロジーが有力な選択肢となる

オルソケラトロジー

オルソケラトロジー(Orthokeratology, Ortho-K)は、就寝中に特殊なハードコンタクトレンズを装用することで角膜の形状を一時的に変化させ、日中は眼鏡やコンタクトレンズなしで視力が出るようにする治療法です。

近視抑制という観点での有効性は、複数のRCTとメタアナリシスで確認されています。眼軸長の伸展を1年で中央値0.17mm、2年で0.30mm抑制するというデータが示されており6、国際近視学会(International Myopia Institute, IMI)の2025年報告においても有効な近視抑制手段として位置づけられています7

乱視への対応という点では、MiSightよりも明確な強みがあります。角膜の形状そのものを変化させるため、乱視への対応力があります。標準的なデザインで1.50D程度、トーリックデザインを用いれば2〜3D程度の乱視まで、矯正しながら近視抑制効果を発揮できます8


近視抑制の治療選択の流れを整理する

乱視の量と状況に応じた治療選択の流れを整理します。

乱視が0.75D以下の場合、MiSightが選択肢となることが多いです。適応は検査結果や生活状況を踏まえて判断します。1日使い捨てで衛生的であり、長期のエビデンスが最も充実しています。

乱視が0.75〜1.25D程度で直乱視の場合は、試装をして視力と本人の感覚を確認します。問題がなければMiSightを継続し、見えにくさが残るようであればオルソケラトロジーを検討します。

乱視が1.25Dを超える場合、または倒乱視・斜乱視が強い場合は、オルソケラトロジーを含む別の選択肢を優先的に検討します。コンタクトレンズ全般が難しい状況であれば、将来的に近視抑制眼鏡レンズ(デフォーカス組み込みタイプ)が選択肢となります。

低濃度アトロピン点眼は、乱視の有無に関わらず使用でき、他の光学的治療法との組み合わせで追加の効果が期待できるとする報告もあります9。なお文献9はオルソケラトロジーと0.01%アトロピンの 組み合わせを検討した研究であり、2025.4開始のリジュセア®ミニ (0.025%)との組み合わせを直接検討した臨床試験は現時点では存在しません。
ただし、アトロピンの近視抑制効果には濃度依存性があることが知られており、組み合わせによる効果についても今後の研究が期待される領域です。進行が速く、何らかの治療を追加したい場合の選択肢として検討できます。


近視進行抑制治療を続けることの意味

こどもの近視は、進行するほど将来的なリスクが高まります。眼軸長が伸びるほど、網膜剥離・緑内障・近視性黄斑変性といった視力を脅かす合併症のリスクが増加することが知られています10。強度近視(等価球面度数−6D以上)になると、特にリスクが高くなります。

「乱視があるから近視抑制治療は難しい」という話ではなく、乱視の量と向きに合った方法を選ぶことは価値があることと考えます。

乱視があってもMiSightが使えるケースはあり、乱視が強ければオルソケラトロジーという選択があります。どちらの場合も、眼軸長を定期的に測定し、進行のペースを確認しながら治療を続けることが大切です。

当院では定期的な眼軸長測定と近視抑制効果の確認を必ず行い、独自の近視管理アプリを用いて治療の効果を継続的に評価しています。


参考文献

  1. Ruiz-Pomeda A, Villa-Collar C. Slowing the progression of myopia in children with the MiSight contact lens: a narrative review of the evidence. Ophthalmol Ther. 2020;9(4):783-795.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7708530/
  2. Chamberlain P, Peixoto-de-Matos SC, Logan NS, et al. A 3-year randomized clinical trial of MiSight lenses for myopia control. Optom Vis Sci. 2019;96(8):556-567. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31343513/
  3. Chamberlain P, Bradley A, Arumugam B, et al. Long-term effect of dual-focus contact lenses on myopia progression in children: a 6-year multicenter clinical trial. Optom Vis Sci. 2022;99(3):204-212. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35086120/
  4. Chamberlain P, et al. Eye growth and myopia progression following cessation of myopia control therapy with a dual-focus soft contact lens. Optom Vis Sci. 2025;Mar 25. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40132119/
  5. Ruiz-Pomeda A, Pérez-Sánchez B, Valls I, et al. MiSight Assessment Study Spain (MASS): a 2-year randomized clinical trial. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2018;256(5):1011-1021. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29396662/
  6. Li X, Xu M, San S, et al. Orthokeratology in controlling myopia of children: a meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Ophthalmol. 2023;23:441.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10617145/
  7. Bullimore MA, Saunders KJ, Baraas RC, et al. IMI—interventions for controlling myopia onset and progression 2025. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2025;66(12):39.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12448128/
  8. Lawrenson JG, Shah R, Huntjens B, et al. Interventions for myopia control in children: a living systematic review and network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2023;2:CD014758.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9933422/
  9. Xu S, Wang M, Lin S, et al. Effect of atropine, orthokeratology and combined treatments for myopia control: a 2-year stratified randomised clinical trial. Br J Ophthalmol. 2023;107(12):1812-1817. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36229177/
  10. Tideman JWL, Snabel MCC, Tedja MS, et al. Association of axial length with risk of uncorrectable visual impairment for Europeans with myopia. JAMA Ophthalmol. 2016;134(12):1355-1363. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27768171/

Takeru Yoshimura, M.D., Ph.D.

たける眼科
takeru-eye.com
福岡市早良区「高取商店街」
西新駅/藤崎駅(福岡市地下鉄)

日本眼科学会 眼科専門医
医学博士(九州大学)

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