眼瞼下垂の治療:手術以外の選択肢、まぶたを上げる点眼薬

眼科の外来では、「まぶたが少し下がってきた気がする」という訴えを、思いのほか多く聞きます。

「鏡を見ると昔より目が小さくなった」「写真を撮ると片方の目だけ細く映る」「夕方になると特に重くなる」など、こうした変化を感じながらも、「手術というほどでもないかな」と受診をためらっている方は少なくありません。

手術を勧められることに不安がある方、いわゆる「ダウンタイム」が取れない方、まずは点眼で試してみたい方もいます。こうした要望に応えられる薬剤が、2026年5月に国内で発売されることになりました。

アップニーク®ミニ点眼液0.1%(一般名:オキシメタゾリン塩酸塩)です。後天性眼瞼下垂(がんけんかすい)に対する点眼治療薬として、国内で初めて承認された薬剤です。


Table of Contents

後天性眼瞼下垂とは何か

眼瞼下垂とは、上まぶたが正常より下がった状態のことです。

まぶたを持ち上げる筋肉は2つあります。随意筋(自分の意思で動かせる筋肉)の上眼瞼挙筋(levator palpebrae superioris)と、交感神経に支配される平滑筋(なめらかな筋肉)のミュラー筋(Müller’s muscle)です。後天性眼瞼下垂の多くは、上眼瞼挙筋の腱が伸びたり緩んだりしてまぶたが下がる「腱膜性眼瞼下垂」です¹。

主な原因は加齢ですが、ハードコンタクトレンズの長期装用によっても起こりえます¹。コンタクトの着け外しの動作が、長年にわたって腱膜に負荷をかけるためです。

まぶたが下がると、視野の上の方が見えにくくなります。また、眉毛を無意識に上げて目を開こうとするため、頭痛や肩こりが生じることもあります。目が小さく見えるなど、日常生活のさまざまな場面に影響します²。

重症度の指標として広く使われるのが、瞳孔反射から上まぶた縁までの距離(Marginal Reflex Distance-1, MRD-1)です。正常値は3.5mm以上とされており、2.0〜3.4mmが軽度から中等度、1.9mm以下が中等度から重度の目安になります³。


従来の治療と、その限界

後天性眼瞼下垂の根本的な治療はこれまで手術のみでした。腱膜を縫い縮める挙筋前転術(levator advancement)や、ミュラー筋を切除して短縮するミュラー筋切除術(Müller muscle-conjunctival resection, MMCR)が代表的な術式です¹。

手術で改善が期待できますが、多くの患者さんが懸念されるのはいわゆる「ダウンタイム」です。術後の腫れや内出血、左右差の調整、そして「切る」という行為そのものへの心理的なハードルは小さくありません。

「ほんの少し下がっているだけなのに、手術するほどか」「まず何か試してから考えたい」。こうした声に対して、これまで眼科医が提示できる非侵襲的な選択肢は限られていました。


アップニーク®点眼液の登場

アップニーク®ミニ点眼液0.1%(オキシメタゾリン塩酸塩)は、2025年12月22日に国内で製造販売承認を取得し、2026年5月15日に参天製薬から発売されることになりました。後天性眼瞼下垂に対する点眼薬として、国内で初めて承認された薬剤です。

有効成分のオキシメタゾリンは、もともと鼻閉改善薬や充血除去薬として使われてきたイミダゾリン系の交感神経作動薬です。アップニーク®では0.1%という濃度設定により、上まぶたのミュラー筋に作用してまぶたを引き上げる効果が得られます⁴。


どのようにしてまぶたを上げるのか

作用機序について、もう少し詳しく説明します。

ミュラー筋はα₁およびα₂アドレナリン受容体を豊富に持つ平滑筋です。オキシメタゾリンがこの受容体に結合すると、筋肉内のカルシウムイオン濃度が上昇して持続的な収縮が起こり、まぶたが引き上げられます⁴。

「なぜ散瞳しないのか」という疑問を持たれる方もいるでしょう。同じ交感神経作動薬であるフェニレフリンは虹彩散大筋のα₁受容体を強く刺激するため、検査や手術に用いる散瞳薬として使われます。一方、オキシメタゾリンはα₂受容体への親和性が高く、その結果として虹彩散大筋への過剰な刺激が抑えられ、散瞳がほとんど起きません⁵。日常生活で使えるのはそのためです。

点眼後、約15分で効果が現れはじめ、効果は概ね8〜12時間程度持続すると報告されています⁴。


臨床試験で確認されたこと

国内で実施された第Ⅲ相プラセボ対照ランダム化比較試験(以下、国内第Ⅲ相試験)では、後天性眼瞼下垂の患者さん112名を対象に、有効性が評価されました⁶(1日1回投与)。

主要評価項目は、投与14日目の点眼2時間後におけるMRD-1のベースラインからの変化量です。結果として、アップニーク®1日1回投与群ではMRD-1が平均+1.09mm改善し、プラセボ群の+0.50mmに対して統計学的に有意な差が認められました(プラセボとの差:+0.59mm、p<0.05)⁶。

米国で実施されたREGAL試験(NCT03341169)でも同様の有効性が示されており、上方視野の有意な改善も確認されています⁷。

1mmという数字は小さく見えるかもしれません。しかし、MRD-1が1mm改善すると上方視野は約10度拡大します。MRD-1が3.5mmで上方視野が約40〜50度、2.5mmでは約30度と大きく変わるため、軽度から中等度の眼瞼下垂の方にとっては日常生活の質に直結する変化です⁷。

また、6ヶ月間の長期投与試験でも、試験の範囲では効果の減弱(タキフィラキシ)やリバウンドは確認されませんでした⁶。


適応となる方

アップニーク®の適応は後天性の眼瞼下垂です。

加齢やコンタクトレンズ長期使用に伴う腱膜性眼瞼下垂で、MRD-1が軽度から中等度の範囲(1.5〜3.4mm程度)の方が主な対象になります。手術を希望しない方、手術を迷っている方、まず効果を試してから判断したい方に有用な選択肢です。

一方、以下の場合は本剤の適応外となります(詳細は医師が個別に判断します)。

先天性眼瞼下垂は挙筋自体の発育不全が主体であるため、ミュラー筋への刺激だけでは十分な改善が得られません。重症筋無力症(myasthenia gravis)、ホルネル症候群、動眼神経麻痺などの神経筋疾患による眼瞼下垂も同様で、これらは原因疾患の診断と治療が優先されます¹。

急性の眼瞼下垂、特に動眼神経麻痺が疑われる場合には画像検査が必要であり、点眼薬の使用で原因検索が遅れることのないよう注意が必要です。


安全性と注意すべき点

国内第Ⅲ相試験における副作用発生率は低く、1日1回投与群での結膜充血は112名中1例でした⁶。

ただし、2026年に報告された米国FDAの副作用報告データベース(Food and Drug Administration Adverse Event Reporting System, FAERS)の解析では、実臨床における以下のリスクが新たに指摘されています⁸。

なお、FAERSは自発報告制度であり、因果関係や正確な発生率を示すものではありません。背景因子を踏まえた個別の評価が必要です。

実臨床では、散瞳が5.6%の頻度で報告されています。未治療の閉塞隅角緑内障の方では、急性緑内障発作につながる可能性が指摘されています。

また、血圧上昇は1.6%で報告されており、高血圧や心血管疾患のある方には慎重な経過観察が必要です。

さらに、硝子体・網膜関連の有害事象(網膜剥離、後部硝子体剥離など)も一定数みられており、高度近視や網膜変性のある方には、眼底評価を行ってから処方することが望ましいとされています⁸。

MAO(モノアミン酸化酵素、Monoamine Oxidase)阻害薬(セレギリン・ラサギリン・サフィナミドなど、主にパーキンソン病治療に用いられる薬)は、急激な血圧上昇を引き起こす恐れがあるためアップニーク®と併用注意とされています⁴。当院では安全性を重視し、これらのお薬を内服中の方へのアップニーク®処方は原則として行いません。現在これらのお薬を飲んでいる方は、必ず事前にお申し出ください。


手術との関係について

アップニーク®は手術の代替ではなく、選択肢のひとつです。

MRD-1が1.5mm以下の中等度から重度の眼瞼下垂では、点眼による約1mmの改善では視野・機能の回復が不十分なことが多く、挙筋前転術やMMCRなど外科的治療が優先されます¹。

一方で、アップニーク®を手術のシミュレーションとして用いる活用方法も報告されています。点眼後の状態を患者さんに実際に体感してもらうことで、手術後の見え方や外見のイメージを事前に共有できます³。

ヘリング法則(Hering’s law of equal innervation)にも注意が必要です。片眼の下垂をアップニーク®で改善すると、脳が両眼への挙上指令を弱め、反対側のまぶたが下がって見えることがあります。これは手術でも点眼でも起こりうる現象で、事前にお伝えしておくことが大切です³。


自由診療としての位置づけ

アップニーク®ミニ点眼液は薬価未収載であり、全額自己負担の自由診療となります。

(費用の詳細については、発売開始(2026年5月15日)に合わせて当記事をアップデートします)

緑内障・白内障などの保険診療と同日にアップニーク®をご希望の場合も対応できます。その際は保険診療と自由診療のカルテを別々に作成します。受診の際に受付スタッフにお申し出ください。

1箱30本入りで、1本が1回使い切りです。点眼前に最初の1〜2滴を捨てるよう添付文書に記載されています。遮光保存が必要なため、アルミピロー包装のまま室温で保管してください⁴。


当院での流れ

初診時に前眼部写真によるMRD-1の計測を行い、眼瞼下垂の程度と原因を確認します。その場で1滴トライアル点眼を行い、15〜30分後の反応を確認することで、ミュラー筋の反応性を評価できます。

効果を実感していただいたうえで処方を検討します。まずは10本(10日分)からの処方も可能です。

フォローアップは、点眼開始後1〜2週間、1ヶ月、3〜6ヶ月を目安に経過を確認しています。特に高度近視や心血管疾患がある方には、眼底や血圧の評価を含めた慎重な観察を行います。


要点

後天性眼瞼下垂に対する、手術以外の選択肢が初めて登場しました。

「わずかな下垂にとどまる」「手術は避けたい」「まずは試したい」などの方に対して、眼科医として新しいお話ができるようになったと感じています。

適応の見極めと安全性の評価をしっかり行ったうえで、患者さん一人ひとりに合った方法をお話していきたいと考えます。


参考文献

  1. Slonim CB, Foster S, Jaros M, et al. Association of Oxymetazoline Hydrochloride, 0.1%, Solution Administration With Visual Field in Acquired Ptosis: A Pooled Analysis of 2 Randomized Clinical Trials. JAMA Ophthalmol. 2020;138(11):1168-1175. doi:10.1001/jamaophthalmol.2020.3812
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7530825/
  2. Cahill KV, Bradley EA, Meyer DR, et al. Functional indications for upper eyelid ptosis and blepharoplasty surgery: a report by the American Academy of Ophthalmology. Ophthalmology. 2011;118(12):2510-2517. doi:10.1016/j.ophtha.2011.09.029
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22019388/
  3. Bacharach J, Lee WW, Harrison AR, Freddo TF. A review of acquired blepharoptosis: prevalence, diagnosis, and current treatment options. Eye (Lond). 2021;35(9):2468-2481. doi:10.1038/s41433-021-01547-5
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33927356/
  4. 参天製薬株式会社. アップニーク®ミニ点眼液0.1% 添付文書・インタビューフォーム. 2026.
    https://www.santen.co.jp/
  5. Haenisch B, Walstab J, Herberhold S, et al. Alpha-adrenoceptor agonistic activity of oxymetazoline and xylometazoline. Fundam Clin Pharmacol. 2010;24(6):729-739. doi:10.1111/j.1472-8206.2009.00805.x
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20030735/
  6. Ishikawa H, Oka K, Inoue H. Six-month efficacy and safety of oxymetazoline hydrochloride 0.1% in Japanese patients with acquired blepharoptosis: a phase 3 study. Jpn J Ophthalmol. Published online April 10, 2026. doi:10.1007/s10384-026-01340-5
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41961227/
  7. Slonim CB, Foster S, Jaros M, et al. Association of Oxymetazoline Hydrochloride, 0.1%, Solution Administration With Visual Field in Acquired Ptosis: A Pooled Analysis of 2 Randomized Clinical Trials. JAMA Ophthalmol. 2020;138(11):1168-1175. doi:10.1001/jamaophthalmol.2020.3812
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33001144/
  8. Azzam DB, Hong JD, Chen TH, et al. Safety Analysis of Oxymetazoline Eye Drops for Blepharoptosis Using the FDA Adverse Event Reporting System. Ophthalmic Plast Reconstr Surg. Published online April 8, 2026. doi:10.1097/IOP.0000000000003226
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41949436/
  9. Putterman AM, Urist MJ. Müller muscle-conjunctiva resection. Technique for treatment of blepharoptosis. Arch Ophthalmol. 1975;93(8):619-623. doi:10.1001/archopht.1975.01010020595007
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1156223/
  10. Ben Simon GJ, Lee S, Schwarcz RM, McCann JD, Goldberg RA. External levator advancement vs Müller’s muscle-conjunctival resection for correction of upper eyelid involutional ptosis. Am J Ophthalmol. 2005;140(3):426-432. doi:10.1016/j.ajo.2005.03.033
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16083839/

Takeru Yoshimura, M.D., Ph.D.

たける眼科
takeru-eye.com
福岡市早良区「高取商店街」
西新駅/藤崎駅(福岡市地下鉄)

日本眼科学会 眼科専門医
医学博士(九州大学)

当ウェブサイトに掲載されている情報は、一般的な情報提供のみを目的としており、個別の医療アドバイスに代わるものではありません。ご自身の健康状態や治療に関するご質問は、必ず眼科専門医・医療専門家にご相談ください。

「症状」を“Googleする”:医療情報を正しくつかうために
https://takeru-eye.com/blog/04102021-never-google-your-symptoms/

目の炎症とは? https://takeru-eye.com/ocularinflammation/

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
Table of Contents