サイトカイン(IL-6)生物学的製剤がコロナウイルス感染症に奏功する可能性

白血球が分泌する低分子のタンパク質を「サイトカイン」と呼びます。

「炎症性サイトカイン」と「抗炎症サイトカイン」がバランスをとって、生体の機能が調節されています。

炎症性サイトカインのうち、インターロイキン6(IL-6)は1980年代に大阪大学の岸本忠三先生により発見されました。

https://chugai-pharm.jp/contents/zb/013/01/

今までわたしたちも眼科関連で考えてきたIL-6が、現在新型コロナウイルス肺炎の治療の可能性につながっているというお話です。

目次

サイトカイン(IL-6)生物学的製剤がコロナウイルス感染症に奏功する可能性

眼球の中の手術(網膜硝子体手術)で得た硝子体からサイトカインを調べたところ、IL-6がほとんどの疾患(網膜剥離、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症)で多く目の中に溜まってきていることがわかりました。

Comprehensive Analysis of Inflammatory Immune Mediators in Vitreoretinal Diseases1

IL-6を抗体製剤で抑えることにより、ぶどう膜炎の治療への可能性を示しました(2009年)。

Involvement of Th17 cells and the effect of anti-IL-6 therapy in autoimmune uveitis2

この論文では、IL-6は炎症を悪化させる白血球の集団「Th17」を増やしてしまう”諸悪の根源”という記載をしました。

Google scholarをみると、いまでも世界中で多く引用されているようです。

IL-6受容体に対する抗体:tocilizumab(トシリズマブ; アクテムラ®)、
中外製薬の大杉義征先生、大阪大学の大黒伸行先生との共同研究でした。

アクテムラ®は、慢性関節リウマチの治療に実際に使われている生物学的製剤(抗体製剤)です。

他に、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎全身型若年性特発性関節炎成人スチル病キャッスルマン病

腫瘍特異的T細胞輸注療法に伴うサイトカイン放出症候群

* 生物学的製剤のうち眼科関連で使われているのは、ぶどう膜炎に対するレミケード®・ヒュミラ®、加齢黄斑変性・黄斑浮腫に対するルセンティス®・アイリーア®です。

重症化した新型コロナウイルス肺炎では、サイトカインストーム(サイトカイン放出症候群:サイトカインの嵐)の状態になっていると言われています。

COVID-19: consider cytokine storm syndromes and immunosuppression3

”免疫システムの暴走”:炎症性サイトカインが突然多く産生され、体のあらゆる組織を壊してしまいます。

トシリズマブ(アクテムラ®)は、サイトカインストームに奏功しCOVID-19; 新型コロナウイルス肺炎の重症化を防ぐことが注目されています。

Effective treatment of severe COVID-19 patients with tocilizumab4

(参考文献)
1. Yoshimura, T., Sonoda, K.-H., Sugahara, M., Mochizuki, Y., Enaida, H., Oshima, Y., Ueno, A., Hata, Y., Yoshida, H., Ishibashi, T., 2009. Comprehensive Analysis of Inflammatory Immune Mediators in Vitreoretinal Diseases. PLoS ONE 4, e8158. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0008158
2. Yoshimura, T., Sonoda, K.-H., Ohguro, N., Ohsugi, Y., Ishibashi, T., Cua, D.J., Kobayashi, T., Yoshida, H., Yoshimura, A., 2009. Involvement of Th17 cells and the effect of anti-IL-6 therapy in autoimmune uveitis. Rheumatology 48, 347–354. https://doi.org/10.1093/rheumatology/ken489
3. Mehta, P., McAuley, D.F., Brown, M., Sanchez, E., Tattersall, R.S., Manson, J.J., 2020. COVID-19: consider cytokine storm syndromes and immunosuppression. The Lancet 395, 1033–1034. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30628-0
4. Xu, X., Han, M., Li, T., Sun, W., Wang, D., Fu, B., Zhou, Y., Zheng, X., Yang, Y., Li, X., Zhang, X., Pan, A., Wei, H., 2020. Effective treatment of severe COVID-19 patients with tocilizumab. Proc Natl Acad Sci USA 202005615. https://doi.org/10.1073/pnas.2005615117

免疫学をわかりやすく書いた本のご紹介:

» 休み時間の免疫学 第3版

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