妊娠中に視力が下がる(目の度数の変化)

妊娠中に
・見えづらくなった、視力が落ちた
・コンタクトや眼鏡が合わなくなった
・視界がおかしい
ということがあるかもしれません。

目に入ってくる光の屈折を担う組織として、
角膜(くろめ)と水晶体(レンズ)があります。

双方とも、妊娠中に一時的な厚みが変化することがあります。

妊娠中は、体の免疫システムが大きく変化する時期でもあります。

眼球の前半分(前眼部):角膜・水晶体
の一時的な変化が、妊娠中の視力低下の原因となっている可能性があります1

妊娠中の目の合併症のほとんどは、軽度で一過性のものであり、治療の必要はありません。
ときに重く永続的なものもあり、眼科医の速やかな判断が必要とされることもあります。

しかし、目の中の病的な変化に留意する必要もあります。

目次

妊娠中に視力が下がる(目の度数の変化)

主に前眼部(角膜・水晶体)の変化について記載します。

一次的な屈折(目の度数)の変化:妊娠中の角膜・水晶体

・角膜の厚みが増す
・角膜・水晶体の湾曲が増す

いずれも、一時的な屈折の変化を引き起こすことがあります。
→「目が悪くなる」近視寄りになります。

裸眼視力低下/眼鏡・コンタクトレンズの度数の変化
としてあらわれます。

出産後はもとに戻ることが知られています。

角膜の厚み
:1-16ミクロン程度の角膜厚の増加、一次的な角膜浮腫によるものとされています2

角膜曲率
:妊娠後期に平均1D増加することがわかっています3
産後や授乳中止後には解消されます。

水晶体の曲率
:妊娠中や授乳中は水晶体の曲率も大きくなり、一過性の調節力の低下が起こります4

ミクロンとは

マイクロメートル(μm)のことです。
小さいものを比較した、わかりやすい絵がありました。

Visual Capitalist

髪の毛:50-180ミクロン
砂浜の砂1個:90ミクロン
塩一粒:60ミクロン
白血球:25ミクロン
花粉:15ミクロン
ほこり:10ミクロン以下
赤血球:7-8ミクロン
飛沫:5-10ミクロン
ほこり(PM2.5):2.5ミクロン
細菌(バクテリア):1-3ミクロン
山火事の煙:0.4-0.7ミクロン
コロナウイルス:0.1-0.5ミクロン
腸内細菌ウイルスT4:0.225ミクロン
ジカウイルス:0.045ミクロン

妊娠中の角膜厚の変化は、
細菌〜飛沫〜赤血球〜花粉 くらいのサイズの変化
(髪の毛の細さよりもはるかに微細な変化)
と、捉えられます。

屈折(度数)が不安定であるため、
LASIK/ICL(眼内コンタクトレンズ)などの屈折矯正手術は、延期が推奨されます。

円錐角膜:妊娠中の変化

妊娠中に円錐角膜が進行する、との報告があります5,6

エストロゲンとリラキシン(子宮弛緩因子)により、角膜がやわらかくなる
ことが、その原因として説明されています。

角膜形状解析を用いた慎重な経過観察が奨められます。

その他の変化

網膜疾患・緑内障など、重い視力低下をきたす病気が隠れていることもあります。

異常を感じたら、眼科医へ相談することが大切です。

(参考文献)

  1. Sharma, S., Rekha, W., Sharma, T., Downey, G., 2006. Refractive issues in pregnancy. Aust N Z J Obstet Gynaecol 46, 186–188. https://doi.org/10.1111/j.1479-828X.2006.00569.x
  2. Weinreb, R.N., Lu, A., Beeson, C., 1988. Maternal Corneal Thickness During Pregnancy. American Journal of Ophthalmology 105, 258–260. https://doi.org/10.1016/0002-9394(88)90006-2
  3. Park SB, Lindahl KJ, Temnycky GO, Aquavella JV. The effect of pregnancy on corneal curvature. CLAO J 1992; 18: 256– 259.
  4. Duane’s Ophthalmology: Pregnancy and the Mother’s Eye (CD- ROM). Clinical volume 5, Chapter 32. Hagerstown, MD: Lippincott Williams & Wilkins, 2001.
  5. Naderan, M., Jahanrad, A., 2017. Topographic, tomographic and biomechanical corneal changes during pregnancy in patients with keratoconus: a cohort study. Acta Ophthalmologica 95, e291–e296. https://doi.org/10.1111/aos.13296
  6. Bilgihan, K., Hondur, A., Sul, S., Ozturk, S., 2011. Pregnancy-induced Progression of Keratoconus. Cornea 30, 991–994. https://doi.org/10.1097/ICO.0b013e3182068adc
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