「メガネの度数は上がっていないと言われたのに、本当に近視は落ち着いてきているのでしょうか」
たける眼科では2026年7月、こどもの近視管理で使う眼軸長(がんじくちょう、axial length)の測定装置として、トーメー社の光学式眼軸長測定装置「OA-1」の運用を始めました。
導入の主な目的は二つあります。
一つは、近視が「今どのくらいか」だけでなく「どのくらいの速さで進んでいるか」を、保護者の方と一緒にその場で確認できるようにすること。
もう一つは、お子さんの眼軸長が日本の同じ年ごろのこどものなかでどのあたりにあるかを、成長曲線のように見られるようにすることです。
近視管理は、進行を止めるのではなく、進む速さをゆるやかにすることを目的とした治療です。この前提に立つと、治療がうまくいっているかどうかは、「近視進行の速さが落ちてきたか」を見て初めて判断できます。
以下では、そもそもなぜ眼軸長を見るのか、AL/CR比という指標、「速さ」を見ることの意味、そしてOA-1という装置について、順番にご説明します。

「眼軸長」とは — 近視の「本体」に近い数字

眼軸長とは、目の前後方向の長さ、つまり角膜の表面から網膜までの距離です。大人でおおよそ24mm前後です。
近視の多くは、眼軸長が伸びすぎることで起こります。目を横から見たとき、ボールのように丸い眼球が、前後に少し長い卵のような形に変わっていくイメージです。
目が前後に長くなると、ピントの合う位置が網膜より手前になり、遠くがぼやけて見えます。
眼軸長は、近視の「本体」に近い数字です。視力検査の数字(1.0や0.5など)や、メガネの度数(屈折度数)は、近視の程度を知る手がかりにはなります。
しかし、視力はその日の体調や集中力、部屋の明るさでも変わりますし、度数は目のピント合わせの力(調節)の影響を受けます。子どもの度数を正確に測るには、調節を止める目薬(調節麻痺薬、サイプレジンなど)が必要で、時間も負担もかかります。

一方で眼軸長は、目の構造そのものの長さです。目薬を使わずに測れて、その日の体調にも左右されにくく、しかも0.01mm単位という細かさで追えます。
近視の進行を追ううえで、屈折度数の変化よりも細かく、再現性よく追える指標として、国際的な近視研究の指針(IMI)でも重視されています¹。だからこそ、近視管理では眼軸長を目盛りとして追いかけます。
📌 なぜ度数ではなく眼軸長で追うのか(臨床的な補足)
屈折度数は0.25Dきざみで、眼軸長にすると約0.08mmに相当します。眼軸長は0.01mm以下の分解能で測れるため、進行を約10倍細かくとらえられます¹。
加えて、調節麻痺の前後で眼軸長はほとんど変わらないため、来院のたびにサイプレジンを使わずに繰り返し測れます。初診時の近視の評価には調節麻痺下の屈折検査が欠かせませんが、その後の進行フォローは眼軸長が向いています。
眼軸長を大切にする理由は、もう一つあります。眼軸長が長くなるほど、将来、網膜や視神経の病気(網膜剥離、近視性の黄斑症、緑内障など)が起こりやすくなることが報告されているためです。

ヨーロッパの大規模な研究では、眼軸長が26mmを超えるあたりから、生涯のうちに矯正では回復できない視力低下を起こす割合が段階的に高くなることが示されています²。また、近視は低年齢で始まるほど、将来的に強い近視(強度近視)に至りやすいことも報告されています³。
近視管理の本当の目的は、大人になったときのメガネの度数を1段2段軽くすることよりも、将来のリスクを少しでも下げることにあります。近視が進むことと将来の眼の病気(緑内障・網膜疾患)のリスクについては、近視−1.00D進行:将来の眼のリスクは?(緑内障・網膜疾患)でも解説しています。
近視の進行抑制という治療全体の考え方については、当院の以下のページにまとめています。
眼軸長だけでは足りない — AL/CR比という考え方
眼軸長は近視の本体に近い数字ですが、それだけでは説明しきれない部分があります。目の大きさや角膜のカーブには個人差があり、背の高い子は眼軸長も長めになりやすいからです。
同じ25mmでも、角膜がゆるやかにカーブしている目とそうでない目では、近視の程度が違います。
そこで使われるのが、眼軸長(AL)と角膜のカーブ(角膜曲率半径、CR)の比、AL/CR比です。AL/CR比は、眼軸長そのものよりも近視の度数(屈折)とよく対応することが、古くから知られています⁴。
中国の学童を対象にした研究でも、AL/CR比は眼軸長単独より屈折度数との相関が強く(説明力がおよそ44%から66%へ向上)、近視の判定に役立つと報告されています⁵。調節麻痺の目薬が使いにくい学校健診のような場面でも、AL/CR比は近視のスクリーニングに使える指標です。
📌 AL/CR比の目安と、年齢による読み方(臨床的な補足)
学童の近視スクリーニングでは、AL/CR比がおよそ3.0を上回るかどうかが一つの目安として使われます⁵ ⁶(最適な値は年齢や集団によって変わります)。ただし解釈には注意が必要です。
同じ1mmの眼軸長の伸びでも、年齢が低いうちは角膜が平らになり水晶体の屈折力も下がるため、度数の変化は小さく、年齢が上がるほど度数の変化が大きくなります。AL/CR比は、こうした成長に伴う目の変化をならして見るための指標であり、年齢を踏まえて読む必要があります。
もう一つ大切なのが、集団によって近視の起こりやすさが違うという点です。東アジアのこどもは、欧米のこどもより近視の割合が高いことが、複数の研究をまとめた解析で示されています⁷。
目の伸び方や成長のしかたにも集団による違いがあると考えられており、同じ眼軸長でも、背景となる集団が違えば意味が変わります。
こどもの近視を評価するときは、日本・アジアのこどものデータと比べることに意味があります。
OA-1では、眼軸長に加えてAL/CR比も自動で計算することができます。
何が変わったのか — 「今の数字」から「進む速さ」へ
たける眼科は、眼軸長をもとにした近視管理に早くから取り組み、光学式の眼軸長測定装置(ニデック社のAL-Scan M)と近視管理ソフト(MV-1)で、近視のお子さん一人ひとりの眼軸長を記録してきました。導入したときのことは、以前の記事にまとめています。
今回、測定の装置を新しいOA-1に切り替えます。測定そのものは、これまでの装置でも正確に行えており、装置の画面やグラフの見やすさにも不満はありませんでした。

変えたかったのは、近視の進み方を「速さ」として示す部分です。
眼軸長は、3か月ごと、半年ごとと測定を重ねると、記録の数字が並んでいきます。たとえば「24.10mm → 24.28mm → 24.40mm」という具合です。
これまでのデータ管理ソフトでも、こうした数字や、時間に沿った折れ線グラフは表示できました。ただし、「1年あたり何ミリ伸びているか」という進む速さ(進行率、mm/年)を、傾きとしてはっきり示す機能はありませんでした。そのため、手動で計算する必要がありました。

なぜ 眼軸長が伸びる「速さ」が大切なのでしょうか:
お子さんの身長の記録を思い浮かべてください。母子手帳の成長曲線では、今日の身長そのものよりも、「線がどれくらいの角度で上を向いているか」を見ます。
ぐんぐん伸びている時期は線が急な坂になり、落ち着いてくると坂がゆるやかになります。眼軸長も一緒です。
近視管理でいちばん知りたいのは、「治療を始めてから、伸びる坂がゆるやかになったかどうか」です。
数字の羅列だけを見ていると、坂の傾きは頭の中で計算しないと分かりません。「24.10から24.28まで半年で0.18mm、では1年だと……」と暗算で把握するのは、保護者の方にとっても医療者側にとっても容易ではありません。
ところが、進む速さ(たとえば「昨年は0.30mm/年、今年は0.12mm/年」)を傾きとして示せると、坂がゆるやかになってきたことが一目でわかります。
速さを見ることには、もう一つの意味があります。治療の効果は、選んだ治療法そのものと、それをどれだけ続けられているか(コンプライアンス)の掛け算で決まります。
オルソケラトロジーを毎晩きちんと使えているか、点眼を続けられているか。進む速さが急に変わったときは、治療が合っていない可能性だけでなく、続け方が難しくなっているサインのこともあります。
速さが見えることで、眼軸長の変化を早めに気づき 保護者の方と一緒に振り返ることができます。
📌 当院で治療の開始・見直しを考える目安(当院の運用)
文献が唯一の数字を定めているわけではありませんが、当院では一つの運用の目安をもっています。まだ治療をしていない方では、眼軸長が1年に0.20mm以上のびるとき、治療の選択肢をご説明します。すでに治療をしている方では、1年に0.22mm以上のびる状態が続く場合に、治療の見直しや強化を検討します。数字そのものより、「治療を始める前とくらべて、のびる速さが落ちているか」を重視します。
あわせて、OA-1では「今どのあたりにいるか」も見やすくなりました。OA-1のソフトウェア(アキシャルマネージャー2)は、日本の全国的な近視調査(文部科学省 児童生徒の近視実態調査)と未就学児の検診データをもとにした、4〜15歳の日本のこどもの眼軸長パーセンタイル曲線を表示します⁸。
身長の成長曲線と同じように、お子さんの眼軸長が、日本の同じ年ごろのこどものなかでどのあたりに位置し、どの帯を通っていくかを確認できます。この曲線は、東北大学が主導する学校健診研究(COY-NEXT)でもOA-1が用いられて整えられてきたものです。
これまで使ってきた装置では、主に欧州のこどものデータをもとにした成長曲線と照らし合わせる形でした。日本のこどもを診るうえで、日本のデータと比べられることには意味があると考えます。
「近視治療が効いていないのかもしれない」というサインの読み取り方や、そのときにどう治療を組み立て直すかという考え方は、当院の以下の記事でも触れています。

OA-1の装置は、何をしているのか


画像提供:トーメーコーポレーション
OA-1は、目に触れずに眼軸長を測定する装置です。メーカーによれば、光干渉(OCT)という光を使った方式で測定します。
ごく弱い赤外線に近い光を目に当て、光が目の奥の網膜で跳ね返ってくるまでのわずかな差を利用して、前後の長さを計算します。痛みはなく、目薬でしびれさせる必要もありません。
もちろん空気を吹きかける仕組み(エアパフ)もありません。1回の測定は十数秒ほどで終わります。
眼軸長のようにわずかな伸びを追いかける検査では、装置がぶれないこと(再現性)が何より大切になります。
OA-1のもう一つの特徴は、こどもが測定しやすいように設計された形です。あごを固定する台がなく、こども自身が自然にのぞき込める形で、画面には動物のアニメーションが出て、視線を集めやすい工夫があります。
しゃべっていても測定に影響しにくく、小さなお子さんや、これまで測定が難しかった目でも測りやすいよう作られています。OA-1の設計は、2025年度のグッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会)に選ばれています⁹。
実際の検査は、視能訓練士がお子さんの状態を確認しながら、無理のない範囲で行います。パターンが変わる楽しい画像が見えます。

画像提供:トーメーコーポレーション
「こども向けにデザインされている」というのは、使い心地の話です。
測定できる範囲に年齢制限はありません。OA-1は大人の目も同じように測定できます。(見つめる目標の絵は変えられます)
眼軸長が長いこと(近視が強いこと)は緑内障や網膜の病気とも関わるため、強度近視の方の経過を追うときにも眼軸長測定は大事な検査です。
こどもから大人まで、OA-1で対応できます。
わかっていること、わかっていないこと
OA-1は登場したばかりの装置です。これまで使ってきたニデック社の装置と測定値を突き合わせて比較した公表データは、現時点ではありません。
そのため「OA-1のほうが正確です」といった言い方はできません。光を使った眼軸長の測定は一般に再現性が高いとされますが、OA-1そのものの精度を単独で確かめた公表データは、まだ限られます。
実際の使用のなかで確かめていく段階だと考えています。
もう一つ、これまで治療を続けてきたお子さんに関わる実際的な注意点があります。
測定装置が変わると、同じ目を測定しても、測定値がほんのわずかにずれることがあります。
装置ごとの光学的な設計の違いによるもので、どちらかが間違っているという話ではありません。
そのため、これまでニデック社の装置で記録してきたお子さんの眼軸長のグラフは、OA-1に切り替わる時点で、線がわずかに段差のように動いて見えることがあるかもしれません。
段差は「目が急に変化した」のではなく「装置が変わった」ことによるものです。当院では切り替えの時期を記録し、段差を差し引いて、伸びる速さそのものが変わっていないかを見ていきます。
グラフに小さな段差が見えても、多くは装置の切り替えによる影響です。気になる点があれば、診察のときに遠慮なくお聞きになってください。
当院での実際
たける眼科(福岡市早良区高取商店街)は、2018年の開院以来、世界の近視研究の流れを追い、近視管理のプログラムを整えてきました。
オルソケラトロジー、リジュセア®ミニ(低濃度アトロピン点眼)、マイサイト(MiSight®)、近視抑制メガネ(MiYOSMART®・Stellest®)と、複数の選択肢をそろえています。
どの治療を選んでも、共通して行うのが眼軸長の測定です。3か月ごとの測定で、伸びる速さがゆるやかになっているかを確認し、必要に応じて治療を見直します。
OA-1の導入で、「速さ」の共有が、これまでよりわかりやすくなります。検査の結果は、保護者への説明用のレポートとして印刷することもできます。
治療法の選び方は、進行の速さ・年齢・生活スタイル・ご家庭の考えを一緒に並べて決めていきます。選択肢の全体像は、以下の記事にまとめています。


なお、当院では眼軸長のデータをご家庭でも確認できる管理アプリ(近視進行抑制 管理アプリ)も運用しています。
眼軸長を入力していくことで、診察室で見た「速さ」を、ご自身のスマホでも振り返ることができます。

画像提供:トーメーコーポレーション
OA-1を選んだ理由
たける眼科が今まで運用した機械からOA-1へ入れ替えた理由は、主に次の点からです。
- 近視の進む速さ(mm/年)を傾きとして示せて、治療が効いているかを保護者の方と共有しやすいこと
- 日本のこども(4〜15歳)のパーセンタイル曲線に対応し、日本のデータと比べられること
- 眼軸長に加えて、AL/CR比も自動で計算できること
- 目に触れず十数秒で測れ、こどもが自然にのぞき込める設計であること
いずれも、進行の速さと、日本のこどものなかでの位置づけを、保護者の方と一緒に見ていきたいという方針に沿うものです。
患者さん・保護者の方へ
近視管理で本当に見たいのは、今日の度数や視力の数字そのものではありません。「近視が進む速さが、ゆるやかになってきているか」です。
眼軸長の伸びる速さを傾きとして見られるようになったこと、そして日本のこどものなかでの位置を確認できるようになったことで、治療の効果が出ているかどうかを、これまでより一緒に確かめやすくなりました。
眼軸長の見方や、近視の進み方について疑問のある方は、診察のときにお尋ねください。お子さんの検査の際に、実際のグラフをお見せしながらご説明します。
参考文献
- Wolffsohn JS, Kollbaum PS, Berntsen DA, et al. IMI – Clinical Myopia Control Trials and Instrumentation Report. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2019;60(3):M132-M160. https://doi.org/10.1167/iovs.18-25955
- Tideman JWL, Snabel MCC, Tedja MS, et al. Association of Axial Length With Risk of Uncorrectable Visual Impairment for Europeans With Myopia. JAMA Ophthalmol. 2016;134(12):1355-1363. https://jamanetwork.com/journals/jamaophthalmology/fullarticle/2569443
- Hu Y, Ding X, Guo X, et al. Association of Age at Myopia Onset With Risk of High Myopia in Adulthood in a 12-Year Follow-up of a Chinese Cohort. JAMA Ophthalmol. 2020;138(11):1129-1134. https://doi.org/10.1001/jamaophthalmol.2020.3451
- Grosvenor T, Scott R. Role of the axial length/corneal radius ratio in determining the refractive state of the eye. Optom Vis Sci. 1994;71(9):573-579. https://doi.org/10.1097/00006324-199409000-00005
- He X, Zou H, Lu L, et al. Axial Length/Corneal Radius Ratio: Association with Refractive State and Role on Myopia Detection Combined with Visual Acuity in Chinese Schoolchildren. PLoS One. 2015;10(2):e0111766. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0111766
- Mu J, Zeng D, Fan J, et al. The accuracy of the axial length and axial length/corneal radius ratio for myopia assessment among Chinese children. Front Pediatr. 2022;10:859944. https://doi.org/10.3389/fped.2022.859944
- Rudnicka AR, Kapetanakis VV, Wathern AK, et al. Global variations and time trends in the prevalence of childhood myopia, a systematic review and quantitative meta-analysis: implications for aetiology and early prevention. Br J Ophthalmol. 2016;100(7):882-890. https://doi.org/10.1136/bjophthalmol-2015-307724
- 文部科学省. 令和3年度 児童生徒の近視実態調査 調査結果報告書. 2023. https://www.mext.go.jp/content/20230911-mxt_kenshoku-000031776_1.pdf
- 公益財団法人日本デザイン振興会. グッドデザイン賞 受賞対象一覧「光学式眼軸長測定装置[OA-1]」(2025年度). https://www.g-mark.org/gallery/winners/29522?years=2025
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