「近視進行抑制治療、どれが一番効きますか?」
近視の治療についてご相談いただくとき、保護者の方からよくいただく言葉です。
「これが一番」という唯一の正解はありません。
お子様の眼軸長の伸び方や年齢、ライフスタイル、ご家族の価値観によって、適した選択は変わります。たける眼科では、医師が一方的に「これにしてください」と決めるのではなく、ご家族と一緒に考えて選ぶプロセスを大切にしています。
この記事では、その考え方と、実際に院内でどう進めているかをお伝えします。
はじめに、近視についての認識を整理します
近視進行抑制治療の話に入る前に、一度立ち止まって確認します。
「メガネをかけると目が悪くなる」「近視は仕方ない」「コンタクトはまだ早い」といった言葉を、保護者の方からよく聞きます。長年そう信じてきたという方も多いかと思います。
実は、これらには強い科学的根拠はありませんでした。
この10〜15年で、こどもの近視に対する考え方は大きく変わりました。「近視進行抑制(myopia control)」という考え方自体、比較的新しい概念です。それまでの生活指導の多くは、印象や習慣に基づいたものでした。
そして現在は、近視の進行を実際に抑えることができる治療を複数選べる時代になりました。
診察の最初に、この話を必ずお伝えしています。数十年分の思い込みをそのままにして治療の説明を始めても、「そんなに大げさな」と受け流されてしまうからです。まず認識を整理してから、一緒に選びます。

近視管理の治療:なぜ「一緒に決める」のか
近視管理の治療は、一度始めたら数年間続くものです。オルソケラトロジーなら毎晩のレンズ管理、点眼薬なら毎日の継続、近視管理眼鏡なら1日12時間以上の装用が求められます。
どれだけ効果が高い治療でも、続けられなければ意味がありません。そして続けやすさは、「自分たちで選んだ」という納得感に大きく左右されます。
2025年にBMC Ophthalmologyに掲載された台湾の研究(保護者314名が対象)では、近視管理においてSDMが「後悔しにくさ」を最も強く予測する要因であることが示されています。治療の種類(アトロピンかオルソケラトロジーか)より、「どう選んだか」の方が、保護者の後悔と満足度に強く影響していたということでした¹。
こうした医療の考え方を、SDM(Shared Decision Making=共同意思決定)と呼びます。
「近視管理治療はお子様への将来のプレゼントです。焦って選ぶより、納得して選ぶ方が長続きします。」
— 倉知先生(日本近視学会 第8回学術総会 2026年6月)
2026年の近視学会で講演を聞いて、この考え方「SDM」を改めて学びました。
たける眼科で説明の進め方を、SDMの枠組みに沿って整理しました。
「治療が必要か」を確認する
選択肢をご説明する前に、はじめに「今すぐ介入(治療)が必要な状態かどうか」を確認します。以下の基準を参考にします。
いずれか一つでも、治療の選択肢をご説明します。一方、該当しない場合でも、3ヶ月ごとに眼軸長を測定しながら経過を見ていきます。
弱視がある場合は、近視管理より弱視治療が優先されます。また、未熟児由来の近視や病的近視は通常の近視管理とは病態が異なるため、個別の対応が必要です。詳しくは診察でお話します。

近視抑制治療の選択肢を知る:「何もしない」を含む6つの選択肢

たける眼科で現在提供している治療は5種類です。これに「経過観察(何もしない)」を加えた6つがすべての選択肢です。
どの治療にも一長一短があり、お子様やご家庭によって向き不向きがあります。当院では、扱っていない治療(RLRL赤色光療法など)についてもお伝えした上で、中立的に並べてご説明します(国際品質基準IPDAS*の規定に基づく方針³です)。
- オルソケラトロジー(OrthoK):就寝中に特殊なハードレンズを装用し、日中は裸眼で過ごせます。眼軸長の伸びを抑える効果は最大で約50%とされています。スポーツや水泳に取り組むお子様に選択されることが多い治療です。
- 低濃度アトロピン点眼(リジュセア®ミニ 0.025%):1日1回の点眼のみ。手間が最も少なく、低年齢から開始できます。2025年4月に国内初承認。
- MiSight® 1 day(マイサイト:1日交換ソフトCL):世界初の近視抑制承認ソフトCLです。7年間のエビデンスがあり、屈折進行を59%抑制したという報告があります⁶。
- 近視管理眼鏡(MiYOSMART・Stellest):眼鏡をかけるだけ。目に直接触れないため、最もハードルの低い選択肢です。2026年6月より当院でも取り扱い開始。
- OrthoK+アトロピン併用:現時点で最も効果が高いとされる組み合わせ。両親が強度近視で、お子様が高リスクと考えられる場合に検討します。
- 経過観察(何もしない):通常のメガネ装用もこれに含まれます。治療を行わず、定期的に眼軸を確認します。これも大切な選択肢の一つです。
各治療の効果・手間・費用・年齢別の向き不向きは、以下の資料でご確認ください。
各治療のランダム化比較試験(RCT)データ・文献については、別記事で詳しく解説しています。

*International Patient Decision Aid Standards (IPDAS)
https://decisionaid.ohri.ca/ipdas/
何を大切にするかで、選び方が変わる
眼軸の進み方が同じでも、ご家族によって優先したいことは違います。「効果が高いものを」という方もいれば、「まず手間のかからないものから」という方もいる。どちらも正解です。
以下の軸で、ご家庭のご希望を整理してみてください。
たける眼科での「一緒に決める」流れ
当院では、視能訓練士(Certified Orthoptist, CO)と医師の役割を分けた3ステップで説明・選択を進めています。初回受診で全部を決める必要はありません。2回目以降で納得してから決めていただく流れにしています。
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STEP 1 | 選択肢の存在を知る(視能訓練士・初回)
予備検査のタイミングで、「医師からも詳しくお話がありますが」と前置きした上で、近視の考え方が最近変わってきていることを軽めに導入します。治療を勧めるためではなく、選択肢を知る機会として提示します。近視の説明パンフレットをお渡しします。
STEP 2 | 選択肢を比較・整理する(視能訓練士・初回)
眼軸長の測定結果は、パーセンタイル曲線のプリントと一緒にお渡しします。現在はAL-Scan(Nidek社)で測定し、Tidemanの世界標準曲線を用いて評価しています。OA-1(Tomey社)導入後は、日本人パーセンタイル曲線へ移行する予定です。治療比較シートを使い、6つの選択肢を並列にご説明します。「何もしない(経過観察)」も必ずお伝えします。

STEP 3 | 医師から一通り説明・持ち帰りをお願いします(医師・初回)

「今まで思っていた近視の常識が変わってきた」ことを1枚の絵で改めてご説明します。QRコード(近視が1段階進むと将来の疾患リスクが上がる内容)もお渡しします。

初回は、以上の説明だけにしています。ご家族と「キーパーソン」みなさまでゆっくり読んでいただき、納得されてから次回検査の予定もあわせてまたいらしてください。
2回目以降 | アンケート→CO再確認→医師Decision Talk→治療開始
2回目以降の受診時に、アンケートを使用します(自己記入またはCOが口頭でご確認します)。「十分な説明を受けられたか」「費用・手間は整理できているか」「ご家族の合意はとれているか」など5〜6問です。
COがアンケート結果をもとに再確認し、医師が「まだ迷っている」点だけに絞ってお話しします。医師の診察は長くありません。ただ、それで十分に説明できるよう、視能訓練士との時間を先に確保しています。
ご家族全員が納得できていれば、治療を開始します。まだ迷っている場合は、引き続き持ち帰っていただいて構いません。1〜2週間後にご連絡いただいても差し支えありません。お子様自身がまだ気乗りしていない場合は、もう少し待ちましょう。
近視抑制治療を始めたあとの目安
治療を始めたら終わりではありません。3ヶ月ごとに眼軸長を測定し、進行速度を数値で確認します。
効果を数字で実感できることが、長期の継続につながると考えます。
近視管理プログラムにご参加の保護者の方向けに、眼軸長の変化をスマートフォンで確認できる「近視管理レポート」アプリを独自に開発・提供しています。受診のたびに測定した眼軸長を入力していただくと、推移グラフ、国際標準データ(BHVI/Donovan 2012)とのパーセンタイル比較、進行速度の3段階表示(緑/黄/赤)をその場で確認できます(表示はあくまで参考情報で、最終的な評価は診察で行います)。データはスマートフォン内にのみ保存され、サーバーには送信されません。きょうだいの管理にも対応しています。
まとめ
- 近視は「眼球が伸びる」進行性の変化です。治療で進行を抑えることができるようになりました。
- 治療に唯一の正解はありません。お子様の状況とご家族の価値観によって、それぞれに合った答えは変わります。
- たける眼科では、SDMの考え方に基づき、6つの選択肢を中立的に提示した上で一緒に決めるプロセスを大切にしています。
- 屋外活動を1日2時間以上確保することは、近視抑制治療と並んで重要な生活習慣の基盤です。
- 治療後も3ヶ月ごとに眼軸長を測定し、効果を数値で確認しながら継続します。
- 初診でその日に決める必要はありません。一度持ち帰って、ご家族で納得してから決めてください。それからでも遅くありません。
視力検査とあわせて、
「眼軸長」を測ることが、最も重要です。
初診は保険診療です。予約は必要ありません。
参考文献
- Hung LL, Sun CC, Chang LC, Liao LL. Factors influencing shared decision-making and decision regret in parents of children undergoing myopia control within one year. BMC Ophthalmol. 2025;25(1):609. doi:10.1186/s12886-025-04433-w https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41174703/
- Stacey D, Lewis KB, Smith M, et al. Decision aids for people facing health treatment or screening decisions. Cochrane Database Syst Rev. 2024;1:CD001431. doi:10.1002/14651858.CD001431.pub6 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38284415/
- Stacey D, Volk RJ. The International Patient Decision Aid Standards (IPDAS) Collaboration: Evidence Update 2.0. Med Decis Making. 2021;41(7):729-733. doi:10.1177/0272989X211035681 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34416841/
- Bullimore MA, Saunders KJ, Baraas RC, et al. IMI—Interventions for Controlling Myopia Onset and Progression 2025. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2025;66(12):39. doi:10.1167/iovs.66.12.39 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40960225/
- Bullimore MA, Brennan NA. Myopia control: why each diopter matters. Optom Vis Sci. 2019;96(6):463-465. doi:10.1097/OPX.0000000000001367 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31116165/
- Lawrenson JG, Huntjens B, Virgili G, et al. Interventions for myopia control in children: a living systematic review and network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2025;2:CD014758. doi:10.1002/14651858.CD014758.pub3 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39945354/
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