「マイサイト、オルソケラトロジーと、近視抑制メガネ:見た目も使い方も全然違いますが、何がどのように違いますか?」
近視進行抑制の診療で、保護者の方からよくいただく質問です。
見た目がバラバラな3つの治療法は、実は「網膜の周辺部に、近視性のデフォーカス(ピントのずれ)を作る」という共通の理論に基づいています。
同じ設計思想から生まれた、兄弟のような治療法です。
一方、低濃度アトロピン点眼(リジュセア®ミニ点眼液)だけは、光学的な仕組みではなく「薬」として働く、別ルートの治療です。
今回は、近視抑制治療の背骨にあたる「周辺部デフォーカス理論」と、アトロピンという別のブレーキについて、順番にご説明します。
眼は「ピントのぼやけ」を手がかりにしている
「デフォーカス」とは、「ピントのぼやけ」のことです。カメラのピントがずれると写真がぼやけるように、眼の中でも光が網膜の手前や後ろで結ぶと像がぼやけます。
成長期の眼は、この小さな「ぼやけ」を手がかりに使っています。近視の治療は、それを味方につける工夫です。
こどもの近視の多くは、眼球が前後方向に伸びること(眼軸長の延長)で進みます。

眼軸長(axial length)は、角膜の頂点から網膜までの距離です。眼軸長が伸びすぎると、ピントが網膜の手前で結ばれてしまい、遠くがぼやけます。近視の進行を抑えるとは、眼軸長の伸びをゆるやかにすることだと言い換えられます。
では、眼はどうやって「伸びるスピード」を決めているのでしょうか。
答えの手がかりは、ヒヨコやサルを使った動物実験の積み重ねから見えてきました。動物実験と聞くと、複雑な気持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。現在世界中で行われている近視抑制治療は、こうした研究の蓄積の上に成り立っています。
分かってきたのは、次のような仕組みです。
成長期の眼は、網膜に届く「ピントの状態」を手がかりに、自分自身の伸びるスピードを調整しています1。
ピントが網膜より後ろにずれている状態(遠視性デフォーカス)を検知すると、眼は「もっと伸びてピントに追いつこう」と伸びを速めます。逆に、ピントが網膜より手前にずれている状態(近視性デフォーカス)を検知すると、伸びにブレーキがかかります。
📌 デフォーカスとは:ピントのずれのことです。ピントが網膜の「後ろ」にずれた状態を遠視性デフォーカス、「手前」にずれた状態を近視性デフォーカスと呼びます。眼にとって、遠視性デフォーカスは「伸びよ」のサイン、近視性デフォーカスは「伸びるな」のサインとして働くと考えられています。
さらに重要な発見が、サルの実験から得られました。
視力検査で測っているのは、網膜の中心(中心窩)の性能です。ところが、中心窩が働かない状態にしたサルの眼でも、眼の伸び方の調整は保たれていました2,3。眼の成長をコントロールしているのは、視野の「中心」ではなく、面積の大きい「周辺部」の網膜だったのです。
面白い逆転現象があったことに、驚きました。
私たちが「視力」として意識するのは中心の1点なのに、眼の成長のハンドルを握っているのは、ふだん意識しない周辺の視野でした。
そこから、ひとつの治療戦略が導かれました4。
中心はきちんと矯正して見えるようにする。そのうえで、周辺部の網膜にだけ「近視性デフォーカス」、つまりブレーキのサインを意図的に作れば、視力を保ったまま眼軸長の伸びを抑えられるのではないか。
さきほどの3つの治療法は、いずれも同じ戦略を、別々の道具で実現したものです。なお、動物実験で明らかにされてきた仕組みは、ヒヨコ・ツパイ・マーモセット・アカゲザルなど幅広い動物種で共通することが確認されています5。

3つの治療法:作り方は違っても、作っているものは同じ
それぞれの治療法が、どうやって周辺部に近視性デフォーカスを作っているかを見てみます。
マイサイト(MiSight 1 day) は、1日使い捨てのソフトコンタクトレンズです。レンズの中心には近視を矯正する度数、周りには同心円状の「治療ゾーン」が配置されていて、周辺部の光を網膜の手前に集めます。コンタクトレンズは眼の動きと一緒に動くため、どの方向を見ても治療ゾーンが瞳の上にとどまるのが特長です6。
オルソケラトロジー は、夜寝ている間に特殊なハードレンズを装用し、角膜の形そのものを変える治療です。角膜の中心は平らになって近視が矯正され、中間周辺部は相対的に急な形になります。装用後の眼では、周辺部の屈折が近視性デフォーカスの方向に反転することが測定で確認されています7。日中は裸眼で過ごしながら、周辺部にはブレーキのサインが出続けている、という状態です。
近視抑制メガネ(MiYOSMART・Stellest) は、レンズ中央の普通に見えるゾーンの周りに、多数の微小なレンズを敷き詰めたメガネです。MiYOSMARTのDIMSレンズでは+3.50Dの微小レンズが8、Stellestでは非球面の微小レンズが、周辺部の光を網膜の手前に集めます。メガネはフレームに固定されているため、視線がレンズの中を動き回るという点がコンタクトレンズとの違いです。
3つの治療法の臨床試験の結果を並べてみます。
| 治療法 | 試験(対象年齢) | 期間 | 屈折値の進行抑制 | 眼軸長の伸びの抑制 |
|---|---|---|---|---|
| マイサイト | Chamberlain 2019(8〜12歳) | 3年 | −0.73D(59%) | −0.32mm(52%) |
| オルソケラトロジー | ROMIO試験 2012(6〜10歳) | 2年 | (測定不能※) | 43%(0.36mm vs 0.63mm) |
| MiYOSMART(DIMS) | Lam 2020(8〜13歳) | 2年 | −0.44D(52%) | −0.34mm(62%) |
| Stellest(HAL) | Bao 2022(8〜13歳) | 2年 | −0.80D | −0.35mm |
出典:Chamberlain 20196、Cho & Cheung 20129、Lam 20208、Bao 202210。※オルソケラトロジーは角膜の形を変えるため屈折値では評価できず、眼軸長で評価します。Stellestの試験は対照群の進行(−1.46D/0.69mm)に対する差として報告されており、割合に換算するとおよそ半分程度の抑制に相当します。
数字の並び方から、「別々の治療」というより「同じ原理の別バージョン」であることが伝わるでしょうか。
長期のデータも集まりつつあります。マイサイトは6年間の追跡で効果の持続が報告されています11。MiYOSMARTは6年間の追跡で、装用を中止した後に進行が急に速まる現象(リバウンド)がみられなかったことが報告されています12。
ここで、正直に書いておきたいことがあります。
「効くこと」のエビデンスに比べると、「なぜ効くのか」の解明は、まだ途上です。
動物実験では周辺部デフォーカスの仕組みがはっきり確認されている一方、ヒトのこどもで「周辺部デフォーカスこそが効き目の正体だ」と証明しきれているわけではありません。微小レンズが像のコントラストを下げること自体が効いているのではないか、という別の仮説(コントラスト理論)もあり、実際にコントラストを下げる設計のメガネで進行抑制を報告した試験も存在します13。
また、抑制率のパーセント表示は試験ごとの集団に依存する数字であり、効果には個人差があります14。マイサイトの試験でも、約1割のこどもには効果がはっきりしなかったと報告されています11。「誰にでも同じだけ効く」治療ではないことは、お伝えしておきたい点です。



低濃度アトロピンだけは別ルート:光ではなく薬のブレーキ
低濃度アトロピン点眼は、上の3つとは仕組みが異なります。レンズのように光の通り道を変えるのではなく、薬として眼の組織に働きかけます。
かつては「ピント合わせの筋肉を休ませるから効く」と考えられていました。アトロピンには、ピント調節を一時的に休ませる作用があるからです。
ところが、動物実験がその説明を覆しました。ヒヨコのピント調節の筋肉は、ヒトと種類が違い、アトロピンでは麻痺しません。それにもかかわらず、ヒヨコの実験的近視はアトロピンで抑制されました15。ピント調節を介さない、別の経路で効いていることになります。
現在は、網膜・網膜色素上皮・脈絡膜・強膜にあるムスカリン受容体という受け皿に作用し、眼球の壁(強膜)が伸びていく過程を緩めるのではないか、と考えられています16。
脈絡膜の血流や厚みの変化、神経伝達物質ドパミンの関与等も研究されていますが、作用機序の全体像はまだ確定していません。
整理すると、周辺部デフォーカス系の治療が「光の信号」で眼の成長制御システムに語りかけるのに対し、アトロピンは「薬理作用」で同じシステムの別の入り口から働きかける、という関係です。入り口は別でも、「眼軸長の伸びをゆるめる」という出口は共通しています。
入り口が別だからこそ、両者の併用が研究されている、という位置づけも理解しやすくなります。
アトロピンの濃度:「ブレーキの踏み方」で考える
アトロピンには、1%という高濃度から、0.01%・0.025%・0.05%といった低濃度まで、さまざまな濃度が研究されてきました。
濃度の話は、車のブレーキに例えると整理しやすいと考えています。
高濃度(1%)は、ブレーキを強く踏み込むイメージです。
シンガポールのATOM試験では、1%アトロピンは2年間で近視の進行をおよそ77%抑えました17。効き目の強さは、歴代の研究の中でも際立っています。
ただし、強く踏んだブレーキから急に足を離すと、反動が来ます。1%を2年間使って中止したところ、その後の1年間は、治療しなかった場合よりも速いペースで近視が進みました18。中止後の急な進行、いわゆるリバウンドです。加えて、1%はまぶしさや手元のぼやけといった、ブレーキの「踏み心地の重さ」にあたる副作用も無視できません。
低濃度は、ブレーキを軽く、一定の力で踏み続けるイメージです。
ATOM2試験では、0.5%・0.1%・0.01%の3濃度を2年間使った後に中止し、その後の1年間を観察しました。近視の進行は0.5%群で−0.87D、0.1%群で−0.68D、0.01%群で−0.28Dと、濃度が高かった群ほど反動が大きく出ました19,20。
その結果、5年間の通算では、いちばん「やさしいブレーキ」だった0.01%群の進行が最も少ない、という逆転が起きています21。
一方で、効き目そのものは濃度に応じて強くなることも確認されています。香港のLAMP試験では、0.01%・0.025%・0.05%を比べ、濃度が高いほど抑制効果が大きいという、きれいな濃度依存性が示されました22。
つまり、こう整理できます。
濃度が高いほど、ブレーキは強く効きます。ただし、足を離したときの反動も大きくなります。低濃度は効き目こそ穏やかですが、続けやすく、離したときの反動も小さくなります。長い目で見ると、軽いブレーキを踏み続けるほうが得をする場合があります。ここまでは、臨床試験のデータがブレーキのたとえをよく支持しています。
ただし、たとえをそのまま信じると誤解につながる点が3つあるので、補足させてください。
(1) リバウンドが来ても、「治療しなかった場合より損をする」わけではありません。 1%中止後の反動が大きかったATOM試験でも、3年間の通算では治療した群のほうが進行が少ないままでした18。ブレーキで稼いだ「貯金」の一部が目減りするイメージであって、借金になるわけではありません。
(2) 実際の治療では、ブレーキから急に足を離しません。 LAMP試験の3年目の解析では、年齢が上がってから、低い濃度で中止した場合ほど、反動が小さいことが示されています。低濃度であれば、中止後の反動は臨床的に小さい範囲だったとも報告されています23。近視の進行がもともと落ち着いてくる年代まで続けて、時期を選んでゆるやかに減らしていく。それが現在の標準的な考え方です。
(3) 低濃度の中でも、0.01%の効き目については試験によって結果が割れています。 日本で行われたATOM-J試験では0.01%の効果は統計的に有意でしたが控えめであり24、米国の試験では有意な効果が確認できなかったという報告もあります25。0.01%という「いちばん軽いブレーキ」は、こどもによっては軽すぎる可能性がある、というのが現時点での正直な評価です。
日本で近視進行抑制の薬として初めて承認されたリジュセア®ミニ点眼液の濃度が、0.01%ではなく0.025%であること26は、効き目と反動・副作用のバランスを踏まえた設定と理解できます。



たける眼科(福岡市早良区高取商店街)での近視管理
当院では、2つの系統の”ブレーキ”を、いずれも扱っています。
光のブレーキ、つまり周辺部デフォーカス系の治療としては、オルソケラトロジー(2019年〜)、マイサイト(2026年2月〜)、近視抑制メガネのMiYOSMART(2026年6月〜)を次々と開始することになりました。
薬のブレーキとしては、低濃度アトロピンのリジュセア®ミニ点眼液0.025%(2025年〜、自費診療)を扱っています。
(2018年開院時まもなく〜2025年リジュセア®ミニ点眼液が始まるまでは、0.01%のアトロピン点眼液を使っていました。)
同じ理論に基づく光のブレーキ同士は、効き方の原理が重なるため、基本的にどれか1つを生活スタイルに合わせて選ぶ、という考え方になります。コンタクトレンズの管理ができる年齢か、夜間装用に向いた角膜の形か、メガネのほうが安心して使えるか。ご家族との相談で決まる部分が大きいところです。
一方、入り口の違う薬のブレーキは、光のブレーキとの併用が選択肢になり得ます。
そして、どのブレーキを選んだ場合でも、効き目の確認方法は共通です。当院では眼軸長測定装置で眼軸長の伸びを定期的に測り、治療が実際にブレーキとして働いているかを、数字で確認しながら管理しています。

治療の選び方そのものは、別の記事で詳しくまとめています。

患者さんへお伝えしたいこと
マイサイト・オルソケラトロジー・近視抑制メガネは、それぞれ見た目が違いますが、
「周辺部の網膜に近視性デフォーカス(ぼやけ)を作る」という共通の理論に基づく治療です。
低濃度アトロピンは、薬理作用という別の入り口から、同じ「眼軸長の伸びをゆるめる」という出口に向かう治療です。
アトロピンの濃度は、ブレーキの踏み方に例えられます。強く踏めばよく効きますが、急に離すと反動が来ます。軽く踏み続けて、時期を選んでゆるやかに離す。長期のデータが支持しているのは、そのような使い方です。
なぜ効くのかという仕組みの解明は、まだ研究の途上にあります。効果には個人差があり、同じ治療でも伸び方の変化はそれぞれ異なります。
理屈を理解したうえで治療を選び、眼軸長という数字で効き目を確かめていくことが大切だと考えています。
近視進行抑制について気になる方は、診察のときになんでもお聴きになってください。
学会に参加し勉強を続ける視能訓練士も、いつも新しい知識を得ています。
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