目の中のゼリー(硝子体)の正常な変化である「後部硝子体剥離」は、どなたにでも起こります。
後部硝子体剥離が起こる際に、急に飛蚊症が増えます。
後部硝子体剥離(こうぶしょうしたいはくり:posterior vitreous detachment, PVD)
眼科を受診した際には、網膜・硝子体の包括的/全体的な検査をおこないます。
(2021.9月〜 瞳孔を開かずに詳細な眼底検査ができるようになりました。)
その際、網膜剥離・網膜裂孔が発見されることもときどきあります。
後部硝子体剥離:網膜剥離・網膜裂孔をきたす確率(リスク)
後部硝子体剥離の症状
飛蚊症(floaters)
:“myodesopias”
:“entopsias”
光が走って見える・点滅して見える(light flashes)
:“photopsias”
✔️みえない部分(中心暗点)がある場合、網膜剥離を伴っている可能性があります。
:“scotoma”
後部硝子体剥離と網膜裂孔・網膜剥離:大規模な臨床研究結果のご紹介
昨年と今年のOphthalmology誌に、大規模な研究結果が発表されています。
2020年のOphthalmology誌1:
ペンシルバニア州の医療機関(Wills Eye Hospital)より
[対象]飛蚊症など、後部硝子体剥離の急性症状を呈した7,999人の患者さん
[目的]網膜裂孔・網膜剥離の発生率と合併症の要因を調査
[結果]初診時に網膜裂孔と診断されたのは1280人(16.0%)、網膜剥離と診断されたのは499人(6.2%)
その後に遅れて網膜裂孔と診断されたのは209人(2.6%)、網膜剥離と診断されたのは80人(1.0%)
うち、
6週間以内:網膜裂孔116人(55.5%)、網膜剥離26人(32.5%)
6週間以降:網膜裂孔93人(32.5%)、網膜剥離54人(66.6%)
2021年 Ophthalmology誌2:
カリフォルニア州の医療機関の電子カルテ(Kaiser Permanente Northern California)より
[対象]飛蚊症など、後部硝子体剥離の急性症状を呈した8,305人の患者さん
[目的]網膜裂孔・網膜剥離の発生率と合併症の要因を調査
[結果]初診時に網膜裂孔と診断されたのは448人(5.4%)、網膜剥離と診断されたのは335人(4%)
飛蚊症にともなう網膜剥離・網膜裂孔:急ぎの電話でわかるリスクの高さ
眼科にアクセスしづらい状況である場合、電話による問診も役立ちます2。
【後部硝子体剥離による網膜剥離・網膜裂孔のリスク】
○ 視力低下をきたしている・みえづらくなった
○ 男性であること
○ 家族に網膜裂孔・網膜剥離と診断されたかたがいる
○ 角膜矯正手術(レーシック)を受けたことがある
○ 白内障手術を受けたことがある
このような方はリスクが高いと考えられます。
受診後、各種眼科検査および眼科医の目(細隙灯顕微鏡)により:
網膜剥離・網膜裂孔のリスクはさらに分別されます2。
硝子体色素細胞:眼科散瞳前にわかること
眼科診察では必ず水晶体の後ろ(前部硝子体細胞の有無)をチェックしています。
散瞳をする検査の前に、すぐわかる所見です。
硝子体に色素細胞(網膜色素上皮細胞)がある場合、網膜裂孔・網膜剥離をきたしているリスクが高いと判断されます2。
後日に発見されることもある網膜裂孔・網膜剥離
上記ペンシルバニアの論文1では、総数7,999人のうち
平均101日後に、
網膜裂孔:209人(2.6%)
網膜剥離:80人(1.0%)
の診断となりました。
リスク因子として、以下が挙げられています。
○ 硝子体出血(vitreous hemorrhage)
○ 網膜内出血(intraretinal hemorrhage)
○ 網膜格子状変性(lattice retinal degeneration)
○ 眼内レンズ挿入眼/白内障手術後(pseudophakia)
○ 男性(male gender)
受診時に上記の項目がみられた場合、
眼科医は網膜裂孔/網膜剥離のやや高い危険性を念頭において、経過観察をします。
飛蚊症で気をつけること(チェック項目)
リスクが高い目であるかどうか、を把握しておくことが重要です。
- 近視が強い
- 男性
- 網膜裂孔・網膜剥離の家族歴がある
- 目の手術を受けたことがある
2020年と2021年Ophthalmology誌:2つの論文で、数字が大きく違う理由
アメリカは眼科が細分化されており、
Retina specialist(網膜専門医)
Cataract specialist(白内障専門医)
Glaucoma specialist(緑内障専門医)
Cornea specialist(角膜専門医)
など、それぞれの医師がいます。
そのため、
網膜専門医は白内障手術・緑内障手術をしない 等
が通常です。
硝子体手術後の合併症、緑内障になった際には
数週間後の緑内障専門医の予約を取る必要がある
ことも、日常でした。
Wills Eye Hospitalはアメリカで最も有名な眼科研究所・眼科病院のひとつで、
全米から来院・網膜専門医を受診します。
カリフォルニアの電子カルテの解析では、
Kaiser Permanente Northern California:保険会社が保有する400万人の情報
全体的・包括的な眼科情報が含まれています。
母集団の違いにより、大きな差があるものと考えられます。
本邦の眼科医(クリニック・総合病院・眼科病院)は、全ての眼疾患を診察します。
そのため、今回のカリフォルニア州の研究の結果がより近いと考えられます。
飛蚊症の治療と合併症:リスクを考えた決断
飛蚊症の治療は、主に2つあります。
(* 後部硝子体剥離による飛蚊症:前述の網膜裂孔・網膜剥離等がない場合)
- 「硝子体手術」:混濁した硝子体を取り除く
- 「レーザービトレオライシス」:厚くなった硝子体膜を衝撃波のレーザー(YAGレーザー)で粉々にする
医原性(手術をおこなったため)の合併症を受け入れることができるか、慎重な決断が必要となります。
参考文献
- Uhr, J.H., Obeid, A., Wibbelsman, T.D., Wu, C.M., Levin, H.J., Garrigan, H., Spirn, M.J., Chiang, A., Sivalingam, A., Hsu, J., 2020. Delayed Retinal Breaks and Detachments after Acute Posterior Vitreous Detachment. Ophthalmology 127, 516–522. https://doi.org/10.1016/j.ophtha.2019.10.020
- Seider, M.I., Conell, C., Melles, R.B., 2021. Complications of Acute Posterior Vitreous Detachment. Ophthalmology 0. https://doi.org/10.1016/j.ophtha.2021.07.020