「視界にゴミが飛んで見える」「視力が下がったように感じる」
飛蚊症の原因:「硝子体」の濁りに対しては、
治療する方法があります。
硝子体の濁りを、気づかないくらいに粉々にする
:レーザービトレオライシス
硝子体そのものをとってしまう
:硝子体手術
現在は主に2つです。
いずれも重い合併症を引き起こす可能性が少しだけあります。
生理的(正常の)飛蚊症に対して、
自分がどの程度のリスクを取れるかを考えた判断が必要です。
飛蚊症の2つの治療と合併症:リスクを考えた判断
![](https://takeru-eye.com/wp-content/uploads/2022/09/dimitar-belchev-fRBpWLAcWIY-unsplash-1024x683.webp)
飛蚊症の原因
「後部硝子体剥離」によるものがほとんどです。
目の中のゼリー「硝子体」は膜に包まれています。
はがれた硝子体膜が、飛蚊症の原因となります。
![](https://takeru-eye.com/wp-content/uploads/2021/08/後部硝子体剥離-2.jpeg)
ストレスそのものから、飛蚊症が起こることはありません。
心の変化と関係なく、硝子体の変化から飛蚊症が生じます。
![](https://takeru-eye.com/wp-content/uploads/2022/09/eye-floaters-1024x768.webp)
![](https://takeru-eye.com/wp-content/uploads/2023/01/background-floaters-in-the-eye-1024x1024.webp)
以下の疾患の可能性もあり、その場合はとても危険です。
・網膜裂孔、網膜剥離
・目の中の炎症(ぶどう膜炎)
・進行した糖尿病網膜症:増殖膜・硝子体出血
眼科を受診して、異常がないことを確認することはとても大事です。
ほとんどは生理的(正常の)飛蚊症で、正常と判断されます。
でも飛蚊症は考えられている以上に、見え方の質を阻害するものとの研究結果があります。
(生理的)飛蚊症はときにとても煩わしく、きれいになくなってしまわせたいと思われます。
飛蚊症のわずらわしさに関する研究
![](https://takeru-eye.com/wp-content/uploads/2022/09/Utility-values-associated-with-vitreous-floaters-1024x408.webp)
266名の飛蚊症患者(21歳〜97歳:平均年齢52.9歳)に対しての研究。
飛蚊症のわずらわしさは生活の質(Quality of life, QOL)に直結する。
若い患者さんほど、
リスクをとってでも飛蚊症をなくしてしまいたい
と考えている1。
生活の質に関わることは、大きな問題となります。
眼科学でも、飛蚊症とQOLについては重要な課題となっています2。
飛蚊症に対して:2つの治療
硝子体の濁りを、気づかないくらいに粉々にする
:レーザービトレオライシス
硝子体そのものをとってしまう
:硝子体手術
医原性(手術をおこなったため)の合併症を受け入れることができるか、慎重な判断が必要となります。
YAGレーザーによる生理的飛蚊症の治療:レーザービトレオライシス
レーザービトレオライシス(Laser vitreolysis)
Vitreo(硝子体を)lysis(溶かす)
YAG (yttrium-alminium-garnet) レーザーは、衝撃波を用いる治療です。
眼科では、
・後発白内障
・緑内障のレーザー治療(SLT)
に、一般的に使われています。
同じYAGレーザーを使って、硝子体の濁った部分に衝撃波を当てます。
固形の濁りは粉々になって、わかりづらくなるようになります。
「飛蚊症が消えた」ことを、実感されるかもしれません3。
でも、濁りが全部取れるのではありません。
レーザービトレオライシスの合併症
・白内障
・網膜裂孔、網膜剥離
・網膜出血
水晶体や網膜、網膜血管へ、
YAGレーザーが誤って当たることによる合併症です。
・眼圧上昇
・緑内障
・ぶどう膜炎
の記載もありました4。
レーザービトレオライシスの長期的な合併症は、まだ十分に検討されていません5。
レーザービトレオライシスは、保険適応外の治療です。
合併症が起こった際の治療も、自由診療となってしまいます。
高額な治療費負担につながる可能性があります。
外科的手術による生理的飛蚊症の治療:硝子体手術
![](https://takeru-eye.com/wp-content/uploads/2022/09/eyesurgery-1024x683.webp)
![](https://takeru-eye.com/wp-content/uploads/2022/07/硝子体手術-1024x768.webp)
硝子体手術の対象:
・糖尿病網膜症
・網膜剥離
・硝子体出血
・ぶどう膜炎
・眼内の感染症
・眼外傷
・黄斑円孔
・黄斑上膜
・白内障手術後の合併症 など
眼科手術の中では、大掛かりな部類の手術です。
さまざまなリスクと引き換えに、硝子体手術が行われます。
硝子体手術では、眼内の悪い変化の足場となる「硝子体」の完全郭清をはかります(全部とってしまう)。
悪い変化とは
・残った硝子体が網膜を引っ張って網膜剥離を引き起こす
・硝子体中の蛋白「サイトカイン」がさらに眼内環境を悪くする
飛蚊症に対する硝子体手術
硝子体そのものがなくなることで、飛蚊症の症状改善が期待できます。
硝子体はゼリー状になっています。
そのまま吸引することはできません。
くっついている網膜を引っ張ってしまうことになるためです。
そのため、「硝子体カッター」を使います6。
![](https://takeru-eye.com/wp-content/uploads/2022/09/硝子体カッター-1024x768.webp)
硝子体カッターは、細い管の中に入っています。
入ってきた硝子体をギロチン式で切断し、吸引します。
水(灌流液)に置き換わります。
手術中に網膜裂孔・網膜剥離などの合併症が生じた場合には、
・(滅菌フィルターを通した)空気
・ガス
・シリコンオイル
で置き換える場合もあります。
1分程度のビデオ:
硝子体の濁りをとって、
完全に硝子体を取るために懸濁ステロイドを眼内に注入
硝子体膜ごと、取り去っています。
黄斑部に残った硝子体は、黄斑円孔を引き起こすこともあります。
そのため、徹底的に硝子体を取り去る方法を講じます。
懸濁ステロイド(トリアムシノロンアセトニド)は、その大きな助けになります7。
硝子体手術の合併症
・白内障8
・網膜裂孔・網膜剥離9
・感染症(眼内炎)
術後のマスク使用が眼内炎の危険性を増加させる10
・出血(硝子体出血)
・黄斑円孔11
目の状態は正常と判断されていても、(生理的)飛蚊症は生活の質に大きな影響を及ぼしてしまいます。
飛蚊症に硝子体手術をおこなうことに対して、どの程度のリスクを許容できるかの判断が重要となります。
参考文献
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- Sebag, J., 2011. Floaters and the Quality of Life. American Journal of Ophthalmology 152, 3-4.e1. https://doi.org/10.1016/j.ajo.2011.02.015
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