酸素不足で黒目に血管が生える(角膜パンヌス)

目が澄んでいて綺麗な理由は、

黒目(角膜)が、本来血管がない透明な組織だからです。

透明な角膜を通して奥にある「虹彩」が透けて見えているため、黒目または茶目と呼ばれます。

虹彩が青いアメリカ人やヨーロッパ人は青い目、北欧の人は緑色など。

角膜の炎症は、透明性を保ったまま治癒させることが重要です。

「血管新生」をおこさないよう、生体は恒常性(ホメオスタシス)を保っています。

角膜の透明性を保つためには、酸素が必要です。

コンタクトレンズの長期使用で、角膜が酸素不足になる

 ↓

苦しくなった角膜の細胞は、

・角膜輪部(黒目と白目の境目)から血管を生やす

・白血球をよびよせる

 ↓

VEGFと呼ばれる蛋白(サイトカイン)を産生

 ↓

白目(結膜)から血管を引き寄せてきます(Angiogenesis, 血管新生)

目次

コンタクトレンズ:酸素不足で黒目に血管が生える

角膜パンヌス(角膜血管新生)

コンタクトレンズ装用時間が長いひとに起こってきます。

顕微鏡で見ると、角膜の周辺部から血管が生えてきています

コンタクトレンズ装用者の20%に起こるとの記載があります1

白目(結膜)の血管拡張である「目の充血」と違い、「角膜パンヌス」は黒目に入ってくる血管が特徴です。

血管が中心部(瞳孔領)にかからなければ、視力に影響することはありません。

もっと大事なこと:

酸素が少ないと、角膜内皮細胞の障害にも繋がります2

角膜内皮細胞が障害されていないかを重視して、日常診療をおこなっています。

人魚のモデル「フロリダマナティ」の目

フロリダマナティは目がみえていません3。 

角膜の中央部まで血管が生えてきているのが原因です。

遺伝学的に、VEGFに関連した蛋白(sVEGFR1)が存在していないことがわかっています4

みえていないまま、海の中を泳いでいます。

血管新生をすすめる「VEGF」

VEGF(Vascular endothelial growth factor, 血管内皮細胞増殖因子):

がんの転移・網膜血管新生等において重要な蛋白(サイトカイン)として知られています。

サリドマイド内服による薬害(催奇形性/手足の成長障害)は、VEGFが原因であることがわかっています5

(いまは多発性骨髄腫の治療として復活しています)

基礎研究では、動物の角膜に血管新生を起こす方法があります6

生体の血管がよく見やすい実験方法で、今までにもたくさんの薬剤が試されています。

VEGFに対する治療薬:

ステロイド・免疫抑制剤・生物学的製剤(抗VEGF抗体、炎症性サイトカインに対する抗体等)

アイリーア・ルセンティス・ベオビュなどの抗VEGF生物学的製剤は、加齢黄斑変性・糖尿病黄斑浮腫・網膜静脈閉塞症・血管新生緑内障の治療に使われます。

抗VEGF抗体が臨床に使えるようになってまだ10年程度ですが、劇的な効果に皆で驚いたことはまだ記憶に新しいです。

角膜パンヌスをどう防げば良いか(予防)

○ 酸素透過性の高いコンタクトレンズを使用する

 HEMA素材よりも、シリコーンハイドロゲル素材のコンタクトレンズを使用する。

○ コンタクトレンズの使用時間を短くする

 帰宅後はすぐにコンタクトレンズをはずす

治療は、ステロイド点眼の使用で炎症を抑えることをはかります。

抗VEGF生物学的製剤は、角膜パンヌスに対しては保険適応はありません。

角膜パンヌス(角膜血管新生)を起こさないと同時に、

角膜内皮細胞を減らさないため、

「予防」が最も大切と考えます。

(参考)

1.Rolfsen, M.L., Frisard, N.E., Stern, E.M., Foster, T.P., Bhattacharjee, P.S., McFerrin Jr, H.E., Clement, C., Rodriguez, P.C., Lukiw, W.J., Bergsma, D.R., Ochoa, A.C., Hill, J.M., 2013. Corneal neovascularization: a review of the molecular biology and current therapies. Expert Review of Ophthalmology 8, 167–189. https://doi.org/10.1586/eop.13.8

2.Liesegang, T.J., 2002. Physiologic Changes of the Cornea with Contact Lens Wear. Eye & Contact Lens 28, 12–27.

Alipour, F., Khaheshi, S., Soleimanzadeh, M., Heidarzadeh, S., Heydarzadeh, S., 2017. Contact Lens-related Complications: A Review. J Ophthalmic Vis Res 12, 193–204. https://doi.org/10.4103/jovr.jovr_159_16

3.Harper, J.Y., Samuelson, D.A., Reep, R.L., 2005. Corneal vascularization in the Florida manatee (Trichechus manatus latirostris) and three-dimensional reconstruction of vessels. Veterinary Ophthalmology 8, 89–99. https://doi.org/10.1111/j.1463-5224.2005.00351.x

4.Ambati, B.K., Nozaki, M., Singh, N., Takeda, A., Jani, P.D., Suthar, T., Albuquerque, R.J.C., Richter, E., Sakurai, E., Newcomb, M.T., Kleinman, M.E., Caldwell, R.B., Lin, Q., Ogura, Y., Orecchia, A., Samuelson, D.A., Agnew, D.W., Leger, J.St., Green, W.R., Mahasreshti, P.J., Curiel, D.T., Kwan, D., Marsh, H., Ikeda, S., Leiper, L.J., Collinson, J.M., Bogdanovich, S., Khurana, T.S., Shibuya, M., Baldwin, M.E., Ferrara, N., Gerber, H.-P., Falco, S.D., Witta, J., Baffi, J.Z., Raisler, B.J., Ambati, J., 2006. Corneal avascularity is due to soluble VEGF receptor-1. Nature 443, 993–997. https://doi.org/10.1038/nature05249

5.D’Amato, R.J., Loughnan, M.S., Flynn, E., Folkman, J., 1994. Thalidomide is an inhibitor of angiogenesis. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91, 4082–4085. https://doi.org/10.1073/pnas.91.9.4082

6.Rogers, M.S., Birsner, A.E., D’Amato, R.J., 2007. The mouse cornea micropocket angiogenesis assay. Nature Protocols 2, 2545–2550. https://doi.org/10.1038/nprot.2007.368

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次