“Choosing Wisely” :コロナ禍の「賢明な選択」

今月のNature Medicine誌からのご紹介です。
(私見は含みません)
2021年8月現在、科学的に最も信用できる情報と思われます。

Choosing Wisely for COVID-19: ten evidence-based recommendations for patients and physicians
“Choosing Wisely” 新型コロナウイルス感染症に対して科学的根拠の高い推奨「賢明な選択」10点

Most importantly, this list emphasizes the critical role that evidence-based medicine should serve, even during a raging pandemic.
最も重要なことは、このリストが、猛烈なパンデミックの際にも、エビデンスに基づく医療が果たすべき重要な役割を強調していることです。

Choosing Wiselyとは、

・証拠による裏付け(evidence based)
・既に受けている他の検査や処置と重複していないこと(not duplicative)
・害がないこと(free from harm)
・真に必要であること(truly necessary)

米国内科専門医認定機構財団(American Board of Internal Medicine Foundation:ABIM)により2012年に発足した活動です。

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今回、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対してChoosing Wiselyの組織が作られました。

Choosing Wisely for COVID-19 Task Force
2021年4月、18名のメンバー:

公衆衛生、疫学、総合診療、プライマリーケア、感染症、ウイルス学、クリティカルケア、内科、呼吸器科、小児科、腫瘍科、医療経済、臨床研究、実施科学、医療政策の各分野から選ばれました。

* マルチステークホルダーの考え方(内閣府)

https://www5.cao.go.jp/npc/sustainability/concept/index.html

目次

“Choosing Wisely” 新型コロナウイルス感染症に対して科学的根拠の高い「賢明な選択」10点

以下、下記論文の翻訳です。

Pramesh, C.S., Babu, G.R., Basu, J., Bhushan, I., Booth, C.M., Chinnaswamy, G., Guleria, R., Kalantri, S.P., Kang, G., Mohan, P., Mor, N., Pai, M., Prakash, M., Rupali, P., Sampathkumar, P., Sengar, M., Sullivan, R., Ranganathan, P., 2021. Choosing Wisely for COVID-19: ten evidence-based recommendations for patients and physicians. Nat Med 27, 1324–1327. https://doi.org/10.1038/s41591-021-01439-x

COVID-19に対しての予防・治療・疾患の適切なコントロールに関するChoosing Wiselyの推奨事項は、現時点で入手可能な最善のエビデンスを含んでいます。

いくつかの国でCOVID-19への対応において一般的であったり、効果がなかったり、価値が低かったり、有害であったりする慣行を取り上げています。

すべての推奨事項は強固な科学的証拠に基づいており、世界的なパンデミック対策の成果を向上させ得ます。

一般の方へ:

(1) 公衆の面前では、フィットしたマスクを適切に使用してください。

調整済み10件(n=2,647)および未調整29件(n=10,170)の観察研究を対象としたシステマティックレビューおよびメタアナリシスの結果、
フェイスマスクによって感染リスクが有意に低下することが示された。
調整済み研究:調整済みオッズ比(aOR)0.15、95%信頼区間(CI)0.07~0.34、
未調整研究:オッズ比(OR)0.34、95%CI0.26~0.45
N95マスクは、サージカルマスクやその他のマスクに比べて、より感染症リスク減少と関連していた。
N95のマスクでなければ、1枚のマスクよりも2枚のマスクの方が望ましい。

(2) 人混みを避ける/特に屋内の人混みには注意してください。

調整後9件(n=7,782)および未調整29件(n=10,736)の観察研究を対象としたシステマティックレビューおよびメタアナリシスの結果、
1メートル以上の物理的距離をとることで、感染のリスクが有意に低下することが示されています。
調整済み研究:aOR、0.18、95%CI、0.09-0.38、
未調整研究:OR、0.30、95%CI、0.20-0.44
物理的な距離を置くほど、感染の可能性は低くなりました。
ドアや窓を開けて十分な換気を保つことは、感染の拡大を減少させるための重要な対策である。

(3) COVID-19の症状がある場合は検査を受け、症状が軽い場合は自宅隔離としてください。

発熱・喉の痛み・咳・嗅覚や味覚の喪失などCOVID-19の症状が見られる場合は、
早期に検査を行い、自宅に隔離することが望ましいです。
検査〜追跡〜隔離の戦略が可能となり、さらなる感染拡大を抑制するのに有効です。
これらの症状があっても、信頼できる検査施設を利用できない場合は、症候群としての診断を行うことができます。
ほとんどの患者は自宅で管理でき、体温と酸素飽和度を定期的にモニタリングすることで順調に回復します。
必要な介入は、水分補給の維持(大量の経口飲料)と、発熱や体の痛みに対するアセトアミノフェン(パラセタモール)のみです。

(4) 呼吸困難に陥ったり、酸素飽和度が92%以下になったりした場合は、医師の助けを求めてください。

安静時または運動後に息切れする患者、酸素飽和度が92%未満の患者、または運動負荷試験a 後に酸素飽和度が4%以上低下した患者は、医師の助けを求めるべきです。
病院・病院外(自宅療養など)を問わず、適切なトリアージを行って医療処置を受けるべきである。
うつ伏せに寝ること(prone position)で、酸素飽和度を高めることができます。
a. 運動負荷試験の例: 1分間の座位・立位試験や6分間の歩行試験など。

(5) 過去にCOVID-19に罹患したことがあっても、対象者となりしだいすぐにワクチンを接種してください。

いくつかの無作為化試験によって、
SARS-CoV-2への感染、COVID-19による重症化や死亡の予防には、
承認された各種ワクチンの有効性が実証されています。
集団レベルの戦略として、ワクチン接種はCOVID-19の予防と緩和のための極めて効果的です。
この推奨事項は、過去にCOVID-19に罹患したことがある人であっても適用されます。

医療従事者の方へ:

(6) COVID-19に対して、実績のない、あるいは効果のない治療法を処方しないようにしてください。

COVID-19の治療において、ファビピラビル、イベルメクチン、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、オセルタミビル、ロピナビル・リトナビル、ヒドロキシクロロキン、イトリズマブ、ベバシズマブ、IFN-α2b、フルボキサミン、療養血漿、漢方製剤などの使用を支持するデータは現在のところありません。
上記はいずれも、現在WHOが推奨しているものではありません。
このリストは、新しいエビデンスが出てきたときに改訂する必要があります。

(9) レムデシビルやトシリズマブなどの薬剤は、使用可能な特定の状況を除き、使用しないでください。

トシリズマブ(抗IL-6抗体)は、重症でステロイドを投与されている/炎症の兆候がある/酸素の必要量が急速に増加している患者さんにのみ有用です。
他の臨床状況での使用は有益ではなく、おそらく有害です。
レムデシベルは、成人で酸素を必要とする患者に早期に投与した場合、回復までの期間を短縮する効果は、一部の試験ではわずかですが、他の試験では認められませんでした。
死亡率を低下させるものではなく、他の臨床状況では適応されません。

(8) 低酸素症の患者にのみステロイドを慎重に使用し、血糖値を正常範囲に保つように監視されてください。

無作為化試験では、酸素を必要とするCOVID-19患者において、デキサメタゾン(1日6mg)などのステロイドを短期間(5~10日間)使用することで効果があることが示されています。
患者が重症であればあるほど、その効果は大きくなります。
他のステロイド同等の薬物:メチルプレドニゾロン(16mgを1日2回)やプレドニゾロン(20mgを1日2回)などを使用するのも良いです。
ステロイドは、酸素を必要としない患者には有益ではなく、むしろ害となる可能性もあります。
ステロイドを長期間(10日以上)使用したり、高用量を使用することを支持するデータはありません。
ステロイドを使用している患者さんでは、粘膜病などの二次的な真菌感染症のリスクを減らすために、血糖値のコントロールを維持することが重要です。
5~10日間ステロイドを使用した後、ステロイドを漸減する必要はありません。

(9) CTスキャンや炎症性バイオマーカーなど、治療の指針とならない検査はルーチンとして行わないようにしてください。

COVID-19の重症度の評価や治療プロトコルの指針として、胸部CTスキャン、CTスコア、またはフェリチン・IL-6・LDH・プロカルシトニンなどの炎症性バイオマーカーをルーチンとして使用することを支持するデータはありません。

(10) COVID-19以外の重要な疾患の管理は、パンデミックの期間でも無視すべきではありません

がん・結核・心疾患・腎疾患などの病気のケアや、メンタルヘルス・出産・周産期医療・小児の予防接種などがパンデミックの間に損なわれたことが多くの研究からわかっています。
そして、その後の転帰にも深刻な影響を与えています。
パンデミックが発生しても、必要不可欠な医療サービスは継続して提供されるべきです。
例えばパンデミック時にがん治療を停止すると、がんの死亡者数はCOVID-19の死亡者数よりも多くなると推定されています。

参考文献(Nat Med 27, 1324–1327. )

  1. Choosing Wisely. https://www.choosingwisely.org/our-mission/ (accessed 20 May 2021).
  2. Choosing Wisely Campaigns. Choosing Wisely https:// choosingwiselycanada.org/perspective/cw-covid-19/ (accessed 25 April 2021).
  3. Pramesh, C. S. et al. Lancet Oncol. 20, e218–e223 (2019).
  4. 4. Chu, D. K. et al. Lancet 395, 1973–1987 (2020).
  5. He, B. et al. R. Soc. Open Sci. 8, 201491 (2021).
  6. Directorate General of Health Services, Ministry of Health
    and Family Welfare, Government of India.
    https://www.dghs.gov.in/WriteReadData/News202105270436027770348ComprehensiveGuidelinesforManagementofCOVID-1927May2021DteGHS.pdf(accessed 9 June 2021).
  7. National Institutes of Health. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/ (accessed 20 May 2021).
  8. McDonald, I. et al. Vaccines (Basel) 6, 74 (2021).
  9. Rochwerg, B. et al. Br. Med. J. 370, m3379 (2020).
  10. Ranganathan, P. et al. Lancet Oncol. https://doi.org/10.1016/S1470-2045(21)00240-0 (2021).

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