小児近視進行抑制:マイサイト(MiSight® )の開始

「視力検査の結果が下がっていた」「メガネを作るたびに度数が強くなる」。

かつて近視は、単に「ピントが合わない状態」であり、メガネで補正すれば済むものと考えられてきました。

しかし現在、医学の世界では、近視は「眼球の奥行き(眼軸長)が過度に伸びる」ことで進行し、
将来的な網膜剥離や視力障害のリスクを高める、進行性の疾患として捉えられています。

2017年から開院準備をしていたら、眼科学で近視の分野がとても進んでいることがわかりました。
長い間免疫学に関わってきて、眼光学はわからないことばかりでした。

こどもの近視に関して、2018年開院当初より ホームページに記載・説明を続けてきました。

今まで長年思っていたことを更新して、新しいことを理解するために:
強調したいのは、「近視に対するこれまでの常識をリセットする必要がある」ということです。

時代の変化とともに、眼科医療は大きく進化しました。
「視力が下がったら度数を合わせるだけ」というかつての常識のままでは、
近視進行を抑えるための治療が必要なのか、その重要性を理解しづらくなります。

2025年は、国際的にも新しい治療基準が提示されるなど、「近視進行抑制元年」と位置付けられました。
今までの考え方では捉えきれない、新しい時代になりました。

当院でも国内で初めて承認された抑制用ソフトコンタクトレンズ 「MiSight® 1 day(マイサイト ワンデー)」 を導入することにしました。
アメリカやその他の先進国ではすでに5年以上の臨床経験があり、安全性の高さと効果の持続性が世界的に証明された治療法です。

マイサイト(MiSight® 1 day)は2026.2月より開始予定、価格/診療体系はまだ未定です。
決まり次第更新します。

Table of Contents

眼軸長伸長の抑制することで、将来の眼疾患を予防する

眼軸の長さ

現代の小児近視管理における至上命題は、単なる屈折補正ではなく、近視の根本要因とされる「眼球の伸び」をいかに抑制するかという点にあります。

マイサイト(MiSight® 1 day)は、後述する独自の光学設計により、良好な視界を確保しながら、眼に対して「成長を抑制する信号」を送り続けることが可能です。

3年間の厳格な国際的臨床試験において、近視の度数進行を 59% 、眼球の成長(眼軸長の伸び)を 52% 抑制するという有意な結果が示されており、こどもの将来の眼の健康を守るための有力な手段となります1。


医学的根拠に基づく近視抑制メカニズムと、臨床成果

Image adapted from Chen et al., Scientific Reports volume 12, Article number: 6573 (2022), licensed under CC BY 4.0 International.

1. 「周辺部デフォーカス」理論と独自のレンズ設計

なぜ、近視は進行しやすいのでしょうか。その大きな理由の一つに、網膜の周辺部における「ピントのずれ」が関係していると考えられています。
通常のメガネやコンタクトレンズで視力を補正すると、網膜の中心にはピントが合いますが、周辺部ではピントが網膜の後ろにずれてしまいます(遠視性デフォーカス)。

この状態が、眼に対して「もっと後ろへ成長しなさい」という誤った信号(進行信号)となり、眼軸長を伸ばして近視をさらに進行させてしまうことが分かってきました。

マイサイト(MiSight® 1 day)は、この課題に対応するために「デュアルフォーカス設計」を採用しています。

  • 矯正ゾーン:網膜の中心にピントを合わせ、はっきりとした視界を確保します。
  • 治療ゾーン:あえて網膜の前方にピントを合わせることで、眼に対して「これ以上成長しなくてよい」という停止信号を送ります。

2. 臨床データが示す効果の持続性と安全性

マイサイト(MiSight® 1 day)の効果は、長期にわたる臨床試験によって裏付けられています。

  • 長期的な抑制効果の持続:3年間の高い抑制効果 1 に加え、6年間の長期装用においてもその効果が持続することが確認されています2。
  • リバウンド現象の不在:治療中止後に進行が加速する「リバウンド」についても検証されており、中止後も急激な進行は見られず、治療期間中に得られた抑制効果は維持されることが報告されています3。
  • 小児における安全性:清潔な1日使い捨てタイプであり、6年間の試験期間中に重篤な角膜感染症は一例も報告されていません4。

3. 国内における近視抑制治療の体系的比較

現在、日本で選択可能な、エビデンスに基づく主要な治療法は、主に3つの柱が揃っています1, 2, 7。

治療法MiSight® 1 dayオルソケラトロジー低濃度アトロピン点眼
分類ソフトコンタクトハードコンタクト点眼薬
使用時間日中(10時間以上)就寝時1日1回(就寝前)
視力補正装用中に補正日中の裸眼視力を補正補正効果なし
主な特徴衛生的で、安全性にも優れる 4, 7日中、裸眼で過ごせる他の治療法との併用も可能

まとめ:生涯にわたる眼の健康を見据える

マイサイト(MiSight® 1 day)は、近視を完全に「治す」ものではありません。

将来的な視力障害のリスクを低減するための、非常に有力な選択肢です 。
これまでの「度数を合わせるだけ」という常識から一歩進んで、こどもの生涯にわたる眼の健康を守るための、新しい管理方法となりました。

効果を最大限に引き出すためには、推奨される装用時間を遵守することや、眼科専門医による定期的な検査が不可欠です。

近視になっているかどうか?
視能訓練士による正確な視力検査と、眼軸長の測定をすることがとても大事です。


参考文献

  1. Chamberlain P, Peixoto-de-Matos SC, Logan NS, Ngo C, Jones D, Young G. A 3-year Randomized Clinical Trial of MiSight Lenses for Myopia Control. Optom Vis Sci. 2019;96(8):556-567. doi:10.1097/OPX.0000000000001410
  2. Chamberlain P, Bradley A, Arumugam B, et al. Long-term Effect of Dual-focus Contact Lenses on Myopia Progression in Children: A 6-year Multicenter Clinical Trial. Optom Vis Sci. 2022;99(3):204-212. doi:10.1097/OPX.0000000000001873
  3. Chamberlain P, Hammond DS, Bradley A, et al. Eye growth and myopia progression following cessation of myopia control therapy with a dual-focus soft contact lens. Optom Vis Sci. 2025;102(5):353-358. doi:10.1097/OPX.0000000000002244
  4. Lumb E, Sulley A, Logan NS, Jones D, Chamberlain P. Six years of wearer experience in children participating in a myopia control study of MiSight® 1 day. Cont Lens Anterior Eye. 2023;46(4):101849. doi:10.1016/j.clae.2023.101849
  5. World Society of Paediatric Ophthalmology & Strabismus. Myopia Consensus Statement 2025.
    https://wspos.org/myopia-consensus-statement-2025/
  6. International Myopia Institute. IMI – Clinical Management Guidelines Report. 2020.
    https://myopiainstitute.org/wp-content/uploads/2020/09/IMI-Clinical-Myopia-Management-Guidelines_FINALv2.pdf
  7. CooperVision. MiSight® 1 day Becomes First Soft Contact Lens for Myopia Control Approved in Japan. 2025.
    https://coopervision.com/our-company/news-center/press-release/misight-1-day-becomes-first-soft-contact-lens-myopia-control
  8. Bullimore MA, Saunders KJ, Baraas RC, et al. IMI-Interventions for Controlling Myopia Onset and Progression 2025. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2025;66(12):39. doi:10.1167/iovs.66.12.39
  9. Lanca C, Pang CP, Grzybowski A. Effectiveness of myopia control interventions: A systematic review of 12 randomized control trials published between 2019 and 2021. Front Public Health. 2023;11:1125000. Published 2023 Mar 23. doi:10.3389/fpubh.2023.1125000
  10. Erdinest N, London N, Lavy I, et al. Peripheral Defocus and Myopia Management: A Mini-Review. Korean J Ophthalmol. 2023;37(1):70-81. doi:10.3341/kjo.2022.0125

Takeru Yoshimura, M.D., Ph.D.

たける眼科
takeru-eye.com
福岡市早良区「高取商店街」
西新駅/藤崎駅(福岡市地下鉄)

日本眼科学会 眼科専門医
医学博士(九州大学)

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「症状」を“Googleする”:医療情報を正しくつかうために
https://takeru-eye.com/blog/04102021-never-google-your-symptoms/

目の炎症とは? https://takeru-eye.com/ocularinflammation/

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