SLTはぶどう膜炎続発緑内障にも有効 – 2025年の論文より

ぶどう膜炎による続発緑内障は、眼科医にとって治療困難な疾患の一つです。
炎症コントロールと眼圧管理の両立が求められ、薬物療法だけでは限界があるケースが多く存在します。

2025年2月に発表された研究1により、選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT:Selective Laser Trabeculoplasty)がぶどう膜炎続発緑内障に対して有効性と安全性を示すことが改めて実証されました。

SLTはこれまでにも同疾患に対する研究が行われていましたが、今回の研究はより詳細な分析と新たなエビデンスを提供しています。

目次

SLT:ぶどう膜炎続発緑内障治療の新たな選択肢として

Nature Publishing Groupの「Scientific Reports」に掲載された研究(横浜市立大学眼科)では、薬物療法で十分な眼圧コントロールが得られなかった17眼(13名の患者)を対象に、SLTの効果を検証しました。

SLTを行うことにより、統計学的に有意な眼圧低下が実証されました。

治療前の平均眼圧28.4±6.5mmHgが、SLT施行6か月後には17.3±9.4mmHgまで低下しました(P < 0.0001)。

大事な点は、SLT後に眼内炎症の有意な増悪やステロイド使用量の有意な増加が認められなかった点です。
ただし、過去の研究では約10%のぶどう膜炎眼でSLT後の炎症増悪が報告されており、特に炎症が十分に沈静化していない場合にリスクが高まる可能性があります。

成功率と薬物負担への影響

6か月後の臨床成功率は64.7%でした。
臨床成功は、眼圧21mmHg以下かつベースラインから20%以上の眼圧下降を追加緑内障手術なしで達成することと定義され、両方の条件を満たす必要があります。

眼圧コントロール不良の場合、アセタゾラミド(ダイアモックス)の内服を追加することがあります。
手足のしびれなどの副作用があり、なるべく使わずに眼圧を下降させるように考えます。

今回の研究で、アセタゾラミドの必要錠数は全ての追跡観察期間で有意に減少しました。
SLT単独で無投薬状態を達成した患者はおらず、6か月時点で無投薬だった1名の患者はSLT後に追加で線維柱帯切開術(trabeculotomy)も受けていました。

治療効果に影響する要因

研究では治療成功に関わる予測因子も明らかになりました。

ぶどう膜炎の罹病期間が短く、ベースライン眼圧が低い患者ほど良好な治療効果が得られました。
前部ぶどう膜炎の患者では良好な反応を示しましたが、症例数の制約により統計学的結論には至っていません。

他の緑内障型との比較

研究チームは、SLTがステロイド誘発性緑内障に対して効果的であることも報告しています。
一方で、ぶどう膜炎続発緑内障における治療失敗率は原発開放隅角緑内障(POAG)よりも高い可能性があることも示唆されています。

今回の2025年研究では予想以上に良好な結果が得られましたが、
長期効果については不明な部分が残っています。

安全性について

今回の研究では、炎症がよくコントロールされた症例群において重篤な合併症や炎症の有意な増悪は観察されませんでした。

SLTの安全性は、炎症がよくコントロールされた症例で最も良好であり、
炎症が十分に沈静化していない場合にはリスクが高まる可能性があります。
炎症増悪のリスクは、SLT施行前に少なくとも90日間は炎症が静止状態にある場合に最も低くなります。

治療の個別化が重要

今回の研究結果は有望ですが、ぶどう膜炎続発緑内障に対するSLTの適用は患者さん個別の状態を慎重に評価した上で決定する必要があります。

炎症状態、疾患の罹病期間、ベースライン眼圧などの要因を総合的に判断し、適切な症例を選択することが重要です。

今後の課題と展望

研究には限界も存在します。

症例数が17眼と限定的であり、追跡観察期間が6か月間に留まっているため、6か月を超える期間での有効性については不明です。ぶどう膜炎続発緑内障におけるSLTの長期効果については、さらなる検証が必要とされています。

また、より大規模な研究により、治療成功の予測因子や最適な治療タイミングについてさらなる知見が得られることが期待されます。

まとめ

2025年の最新研究により、SLTがぶどう膜炎続発緑内障に対して有効性を示すことが科学的に証明されました。

眼圧の有意な改善、薬物負担の軽減、小規模研究ながら良好な安全性が確認されました。
これらの結果は、治療に難渋することの多いぶどう膜炎続発緑内障の管理に有用な治療選択肢を提供しています。

特に罹病期間が短く、ベースラインの眼圧が比較的低い患者さんでは、より良好な治療効果が期待できます。
早期からの治療介入が、適切な症例において患者予後の改善につながる可能性が示唆されています。

ただし、治療適応は患者さん個別の状態を慎重に評価し、炎症が十分にコントロールされた状態で施行することが重要です。
今後のより大規模で長期的な研究結果により、SLTの位置づけがさらに明確になることが期待されます。

参考文献

  1. Suzuki, M., Takeuchi, M., Meguro, A., Nakamura, J., Tateishi, M., Fukuda, M., Kamata, A., Mizuki, Y., Yamada, K., Shibuya, E., Yamada, N., Ishihara, M., Mizuki, N., 2025. Efficacy and safety of selective laser trabeculoplasty for uveitic glaucoma. Sci Rep 15, 4077. https://doi.org/10.1038/s41598-025-88354-0

Takeru Yoshimura, M.D., Ph.D.

たける眼科
takeru-eye.com
福岡市早良区「高取商店街」
西新駅/藤崎駅(福岡市地下鉄)

日本眼科学会 眼科専門医
医学博士(九州大学)

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