○ 目のいい人(=遠視の人)は、緑内障発作を起こす可能性がある。
○ 緑内障と診断されているかたに、使えない薬(禁忌)がある。
個人の目の特性によって、使えない薬・気をつけるべきことがあります。
緑内障カード:「緑内障発作」の可能性を伝える、各医療機関への連絡
「緑内障はありませんか」と、
外科系の手術の前や、内視鏡(胃カメラ・大腸カメラ)などの内科検査の際に聞かれることがあります。
ご自分の目のことを覚えておくことは大変ですね:
お薬手帳に貼っていただけるようなカードをお渡ししています。
各医療機関の受診の際に、役立てていただければと思っています。
スマホのメモアプリに入れていただいても良いですね。
遠視眼に起こる可能性のある「緑内障発作」
遠視の目では、眼球内の水の通り道(隅角)が狭くなっていることがあります。
・暗いところで本を読む
・かぜ薬の使用
・抗コリン薬の使用
などによって、
「緑内障発作」を起こす可能性があります。
(Acute angle-closure glaucoma, 急性緑内障発作)
隅角が閉塞する(=水の通り道が詰まる)
→眼圧が急激に上昇する
→下記の症状が出る
[緑内障発作の症状]
・頭痛
・嘔吐
・ぼやけてみえる(霧視)
・目の充血
・目の痛み
・まぶしさ、光のまわり
患者さんは内科や脳外科を受診することも多く、原因が見逃されることもあるようです。
全ての医師が知っておく疾患として、医師国家試験に出題されることもあります。
(事例)
悲しくて数時間泣いたあとに、緑内障発作を起こした患者さんをみたことがありました。
遠視眼(=目がいい)かたでした。
遠視眼の素因
+暗い中で瞳孔が開いた状態
+ずっとうつむいて水晶体が下がり隅角閉塞
=緑内障発作
と、考えました。
白内障が進んだ目も、隅角が狭くなっていることがあります。
白内障の進行
→水晶体の膨化
により、隅角が狭くなる。
眼圧が上がっていることがあります。
眼圧を下げる目的で、白内障手術をおこなうこともあります。
PACS(primary angle closure suspect, PACS):原発閉塞隅角緑内障疑い
「若いころから目がいい」:多くは、遠視の状態になっています。
PACS(primary angle closure suspect, PACS):原発閉塞隅角緑内障疑い
「5年間のうちに、22%が原発閉塞隅角緑内障(PAC)に移行する」との研究結果があります1。
隅角の状態を細隙灯顕微鏡で判定し、眼圧の上昇に留意して経過観察します。
前眼部OCTによって、隅角の形を直接お見せしています。
緑内障発作の予防:現代での対応
数年前の医学の常識は、大きく変わっていることがあります。
遠視眼・隅角が狭い目(PACS)に対して、緑内障発作の予防処置をすることがあります。
昔はレーザー虹彩切開術(Laser iridotomy, LI)を行っていました。
2019年のLancet誌において、
「予防的なレーザー周辺虹彩切開術は推奨しない」と記載されています2。
現在は、白内障手術を行うことが主流になっています。
(理由)
レーザー虹彩切開術では、アルゴンレーザー・YAGレーザーの双方を用いて虹彩に穴をあけます。
その際に前房内(=眼球の前方部分)にかなり強いエネルギーがかかり、角膜内皮が障害を受けます。
障害された角膜内皮は、数十年後に水疱性角膜症を発症することがあります。
水疱性角膜症は、角膜移植(全層角膜移植・角膜内皮移植)によって治療します。
いずれも限られた施設で行われている手術治療で、全身麻酔を必要とします。
角膜移植後の拒絶反応のリスクを負うことにもなります。
高齢になった身体に、かなりの負担を強いられてしまいます。
* 京都府立医大の奥村先生・木下教授たちの再生医療(水疱性角膜症培養角膜内皮細胞移植)、新たな時代にもなってきています3。
PACSに対する白内障手術
相対的に大きなスペースを占める水晶体を取り除き、1枚の薄い眼内レンズに置き換えます。
隅角が広くなり、緑内障発作の危険がほぼなくなります。
白内障手術をおこなうタイミング:
見えていて不自由のない目に手術をおこなうことに対して、十分な説明・理解が必要になります。
1. Thomas, R., George, R., Parikh, R., Muliyil, J., Jacob, A., 2003. Five year risk of progression of primary angle closure suspects to primary angle closure: a population based study. Br J Ophthalmol 87, 450–454.
2. He, M., Jiang, Y., Huang, S., Chang, D.S., Munoz, B., Aung, T., Foster, P.J., Friedman, D.S., 2019. Laser peripheral iridotomy for the prevention of angle closure: a single-centre, randomised controlled trial. The Lancet 393, 1609–1618. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)32607-2
3. Kinoshita, S., Koizumi, N., Ueno, M., Okumura, N., Imai, K., Tanaka, H., Yamamoto, Y., Nakamura, T., Inatomi, T., Bush, J., Toda, M., Hagiya, M., Yokota, I., Teramukai, S., Sotozono, C., Hamuro, J., 2018. Injection of Cultured Cells with a ROCK Inhibitor for Bullous Keratopathy. New England Journal of Medicine 378, 995–1003. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1712770