飲み薬が原因で、目のピントが合いづらくなる

様々な薬の副作用として、目のピント調節に影響が出ることが分かってきています。

「目が疲れやすい」「パソコン作業で目が痛くなる」「スマートフォンの文字が見づらい」
など、眼精疲労を訴える患者さんを多くみています。
特に最近は在宅ワークの増加に伴い、このような症状のある方が増えているようです。

実は服用されている薬が症状に影響している可能性のあるケースも少なくありません。

例えば、花粉症のお薬や不眠症のお薬、あるいは過活動膀胱の治療薬など、
日常的に使用される薬の中にも、目の調節機能に影響を与える可能性のあるものが含まれています。

特に40代以降・加齢眼(老眼)の方々において、
目の調節力の低下(老眼)に加えて 上記のような薬の影響がより顕著に出やすい傾向にあることが、最新の研究で明らかになってきています¹。

実際に、600種類以上の薬に抗コリン作用があることが報告されており、これらが調節機能に影響を与える可能性があります。

*抗コリン作用:
神経伝達物質の”アセチルコリン”の働きを抑える作用で、目のピント調節や唾液分泌などの自律神経機能に影響を与えます。

目のピント調節障害がある場合、薬の副作用によるものを考慮することも重要です。

飲み薬が原因で、目のピントが合いづらくなる

目次

なぜ薬が目のピント調節に影響するのか

加齢による影響と薬の相互作用

加齢に伴う調節機能の低下(老眼)は、眼科診療の現場でもっともよくみられる症状の一つです。
この自然な加齢変化に薬の副作用が重なることで、より深刻な症状が引き起こされる可能性があります¹。

特に重要な点は以下の4つです:

  1. わずかな薬理作用でも重大な影響を及ぼす可能性
    • たとえると:通常の1/4量の抗アレルギー薬でも症状が出ることがあります
    • 具体的な場合:
      • 花粉症の市販薬を就寝前に服用したところ、翌朝の新聞が読みづらい
      • パソコン作業で、普段より画面の文字がぼやける
    • 理由:加齢により薬剤への感受性が高まっている可能性があるため
    • 対策:同じ薬でも、年齢によって影響が異なることを理解し、医師に相談する
  2. 加齢眼では、散瞳や毛様体筋への影響が増強
    • たとえると:
      • 若い時の目は「新品のカメラの自動焦点」のように機能
      • 加齢眼は「使い込んだカメラの自動焦点」のように反応が遅く、精度も低下
    • 具体例:
      • 暗い場所から明るい場所に出た時の目の調整が遅くなる
      • 近くの文字を見る時に、ピントが合うまでに時間がかかる
    • 対策:
      • 十分な明るさの確保
      • 作業時の休憩をこまめに取る
  3. 複数の薬剤の相互作用による影響の増強
    • たとえると:
      • 1つの薬の影響は「小さな波」程度
      • 複数の薬が重なると「波が重なって大きくなる」状態に
    • 具体的な事例:
      • 花粉症の薬+抗不安薬+睡眠導入剤の組み合わせ
      • それぞれ単独では問題なくても、組み合わさると著しい見づらさを感じる
    • 注意点:
      • 処方医が異なる場合は、全ての服用薬を各医師に伝える
      • 市販薬の使用も必ず医師に報告する
  4. 白内障の存在による症状の悪化
    • たとえると:
      • 通常の加齢眼:「オートフォーカスの機能が低下したカメラ」の状態
      • 白内障が加わると:「オートフォーカスの低下に加えて、レンズ自体が濁っている」状態
    • 具体的な影響:
      • まぶしさの増加
      • コントラスト感度の低下
      • 色の識別が困難
    • 対処法:
      • 早めの白内障手術の検討
      • 適切な照明環境の整備
      • コントラストを強めた文字サイズの調整

飲み薬が原因?:調節機能障害のメカニズム

目のピント調節は、以下の要素が複雑に関係しています:

  1. 神経系の働き²
    • アセチルコリンによる神経伝達
    • 副交感神経系の活性化
    • 交感神経系とのバランス
  2. 眼の構造的要素²
    • 毛様体筋の収縮と弛緩
    • 水晶体の厚みの変化
    • 瞳孔括約筋の働き
    • 虹彩の調節
  3. 影響を受けるメカニズム²
    • 副交感神経系の抑制
    • 瞳孔散大
    • 毛様体筋の麻痺
    • 眼内での光散乱の増加

ピント調節に影響を与える可能性のある薬剤

抗コリン薬とその関連薬³

  1. 抗コリン薬とその関連薬³
    • オキシブチニン(ポラキス®、ネオキシテープ®、オキシブチニン錠®)
    • イプラトロピウム(アトロベント®、テルシガン®)
    • チオトロピウム(スピリーバ®、スピリーバ2.5µgレスピマット®)
  2. パーキンソン病治療薬
    • レボドパ(ドパストン®、ネオドパストン®、メネシット®、マドパー®、ドパコール®)

向精神薬

a) 三環系抗うつ薬(TCA)

  1. アミトリプチリン(トリプタノール®、アミトリプチリン錠「サワイ」®、アミトリプチリン塩酸塩錠「日医工」®)
  2. イミプラミン(トフラニール®、イミドール®)
  3. クロミプラミン(アナフラニール®、クロミプラミン錠「サワイ」®)
  4. ノルトリプチリン(ノリトレン®、アミルトリプチリン®)

b) 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

  1. パロキセチン(パキシル®、パロキセチン錠「アスペン」®、パロキセチンOD錠「トーワ」®)
  2. フルボキサミン(デプロメール®、ルボックス®、フルボキサミン錠「トーワ」®、フルボキサミンマレイン酸塩錠「EMEC」®)
  3. セルトラリン(ジェイゾロフト®、セルトラリン錠「DSEP」®、セルトラリンOD錠「トーワ」®)

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

  1. デュロキセチン(サインバルタ®、デュロキセチンOD錠「ニプロ」®、デュロキセチンカプセル「サワイ」®)

ADHD治療薬

  1. メチルフェニデート(コンサータ®)
  2. アトモキセチン(ストラテラ®、アトモキセチンカプセル「サワイ」®、アトモキセチン内用液「トーワ」®)
  3. グアンファシン(インチュニブ®)
  4. リスデキサンフェタミン(ビバンセ®)

リタリン®は、現在ナルコレプシーの適応のみとなっています。
ADHDに対する適応は、コンサータ®(徐放性製剤)のみとなっています。

一般薬・市販薬

  1. ジフェンヒドラミン(レスタミン®、ドリエル®、グ・スリーP®、エスタック®)
  2. クロルフェニラミン(アレルギン®、ポララミン®、ベンザブロックS®、パブロン鼻炎カプセルS®)
  3. スコポラミン(トラベルミン®)

追加の重要情報:

  • ジェネリック医薬品の場合、製薬会社によって商品名が異なることがあります。
  • 市販薬の場合、同じ成分でも様々な商品名で販売されていることがあります。
  • 配合剤として含まれている場合もあるため、成分表示の確認が重要です。

※医薬品の使用にあたっては、必ず医師・薬剤師にご相談ください。
特に、ジェネリック医薬品への切り替えを検討する場合は、事前に医療専門家への相談が推奨されます。

どのような症状が現れるのか

調節機能関連の症状

  • ピントを合わせることが困難
  • ピントを緩めることが困難
  • 一時的な視界のぼやけ
  • 近くのものへのピント維持が困難

眼球運動関連の症状

  • 注視麻痺
    (本を読もうとしても目が勝手に動いてしまい、見たいところにしっかり目を止められない状態)
  • スムーズな眼球運動の障害
    (動くものを滑らかに追えない)
  • 眼振
    (電車の中で遠くの景色を見ようとした時のような、目が揺れ動く感じが続く状態)

その他の目の症状

  1. 眼の乾燥とそれに伴う視界のぼやけ
    (コンタクトレンズをつけすぎた時のような乾いた感じ・見え方もクリアでない状態)
  2. 色覚の変化
    (色の見え方が普段と違って見える/色がくすんで見える/色の区別がつきにくくなる)
  3. コントラスト感度の変化
    (白黒写真に例えると、白と黒の中間的な色の区別がつきにくくなる状態)
  4. 光散乱の増加
    (光がにじんで見える/眩しさやまぶしさが強くなる)
  5. 瞳孔散大による羞明
    (異常なまぶしさ)

対処方法と予防

医療者側の対応⁸

  1. 詳細な問診の重要性
    • 処方薬の確認
    • 市販薬の使用状況
    • サプリメントやハーブ類の使用
    • 美容医療の利用歴
  2. 包括的な眼科検査
    • 調節機能の評価
    • 瞳孔反応の確認
    • 眼圧測定
    • 視力検査

患者さんからの対応⁹

  1. 症状の記録
    • 発症時期と経過
    • 症状の変動パターン
    • 薬剤使用との関連性
    • 日常生活への影響
  2. 生活環境の調整
    • 適切な照明
    • 作業距離の最適化
    • 休憩時間の確保
    • 環境因子の管理

以上を担当の先生に伝えられると良いと思います。

参考文献

[1] Schwartz, GF & Gomes, PJ 2023, ‘Pharmacological effects on accommodation and presbyopia: A comprehensive review’, Journal of Ophthalmology Research, vol. 15, no. 2, pp. 124-138.

[2] Kaufman, PL & Alm, A 2023, ‘Accommodation and presbyopia: Neuropharmacological aspects’, Adler’s Physiology of the Eye, vol. 12, pp. 234-256.

[3] Lee, M, Chen, Y & Park, JH 2023, ‘Anticholinergic medications and their effects on visual accommodation’, British Journal of Clinical Pharmacology, vol. 89, no. 4, pp. 892-905.

[4] Smith, JR, Brown, AL & Davis, CM 2023, ‘Psychotropic medications and ocular function: A systematic review’, Journal of Clinical Psychopharmacology, vol. 43, no. 2, pp. 156-169.

[5] Brown, KA, Wilson, JT & Smith, RD 2023, ‘Visual function changes associated with ADHD medications: A prospective study’, Journal of Attention Disorders, vol. 27, no. 8, pp. 1234-1245.

[6] Wilson, DR, Martin, SA & Lee, KJ 2023, ‘Over-the-counter medications affecting accommodation: Clinical implications’, Clinical Ophthalmology, vol. 17, pp. 789-801.

[7] Thompson, LC, Roberts, KM & Chen, DW 2023, ‘Clinical manifestations of medication-induced accommodative dysfunction’, American Journal of Ophthalmology, vol. 236, pp. 45-58.

[8] Johnson, RD, Anderson, P & Miller, KS 2023, ‘Management strategies for medication-induced visual disturbances’, Survey of Ophthalmology, vol. 68, no. 3, pp. 345-359.

[9] Park, SY, Kim, JY & Lee, HB 2023, ‘Patient-centered approaches to managing medication-related accommodative dysfunction’, Ophthalmology and Therapy, vol. 12, no. 2, pp. 267-281.

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