加齢にともない水晶体は変化し、白内障と呼ばれる状態になります。
「白内障と診断されること」=「手術を必要とすること」ではありません。
まだ白内障手術をしたくない、という方も多くいらっしゃいます。
早い段階の白内障では見え方の変化は軽微で、適切に処方されたメガネで対応できることも多いです。
遠くと近くにピントを合わせる「調節力」も、自然な水晶体が持つ 非常に重要な機能です。
若いうちの白内障手術では、調節力が失われます。
そのため、早いタイミングでの手術をすすめるお話をしておりません。
白内障が進んで「成熟白内障」になると、著しく視力を損ない日常生活に多大な影響を及ぼします。
まだ手術しなくても良い白内障
最も多く生命保険が支払われるのは、白内障手術です1,2。
生活の質を改善し、転倒や交通事故を減らすことが示されています3。
白内障手術後の人は、手術をしていない人に比べて40%低い長期死亡率であったことも示されています4。
【白内障手術を検討する際の4つの質問】
アメリカ眼科学会(American academy of ophthalmology)の記載です。
1. 日常生活に大きな影響がありますか?
Are your cataracts impacting your daily or occupational activities?
ものがぼやけてみえる、黄色く見える、片目で二重にみえる、などの症状:
運転をするお仕事をされている方や、読書・料理・裁縫、
クリアでコントラストのはっきりした見え方が必要なかたには、特に重要です。
2. 夜の運転に影響していますか?
Are your cataracts affecting your ability to drive safely at night?
白内障では光の周りにハロー(光の輪)がみえるようにもなり、
暗いところの運転に支障をきたすことがあります。
進行した白内障では、運転免許更新に必要とされる視力が出ないことがあります。
3. アウトドアで楽しい時間を過ごす邪魔になっていますか?
Are your cataracts interfering with the outdoor activities you enjoy?
白内障はグレア(光のまぶしさ)を生じ、スキーやゴルフ、サーフィンなどの楽しみを障害することがあります。
片方ずつの目でみた距離感にも影響し、とくにゴルフで影響が大きくなります。
4. 他の方法でどうにかなりますか?
Can you manage your cataracts in other ways?
照明を明るくすること、家にあるものはコントラストがはっきりした色を使うこと
偏光サングラスやつばの広い帽子は、グレアを軽減させてくれます。
拡大鏡を使うことで、読書が楽になります。
白内障が、他の病気の治療に影響されることは避けなければなりません:
白内障手術をする時期・タイミング
手術によって「見え方」が改善すると判断されたときのみ、手術が推奨されます。
診断された白内障を、手術しないとどうなるか?:
白内障の進行段階を通じて、手遅れになることはありません。
日本眼科医会の記載をご紹介します:
いつ手術を受けたら良いの?
白内障は薬では治りません。進行した白内障を治療する方法は、手術しかありません。では、いつ手術を受けたらよいのでしょうか。
白内障は手遅れになる病気ではないので、急いで手術を受ける必要はありません。視力がいくつまで低下したから手術を受けなければいけない、ということもありません。
ご本人が生活上、不便を感じるようになったときが、手術を受ける時期になります。これは、お一人お一人の生活パターンによって異なってきます。細かいものを見ることが多い方や、車を運転する機会が多い方は、早めに手術を受けられるとよいでしょう。逆に、部屋の中で過ごすことが多く、あまり細かい字などを読んだりすることがない方は、手術を急ぐ必要はありません。
検査したときの視力結果が良くても、実は屋外ではまぶしくて見づらいとか、ものがだぶってしまい生活に支障がある、といったこともあります。たとえ視力が良くても何らかの不自由を感じておられるのなら、眼科で相談してください。
日本眼科医会HPより
最近20-30年の著しい手術機械の発展は、医師の技術向上に寄与し
白内障の日帰り手術が一般的になり、
手術が必要な患者さんにとっては、とても良い時代になりました。
その一方、多くの医療経済資源を使うことにもなります。
眼科に入局したころ、「ボリュームサージャン」という言葉をききました。
限られた著名な術者が毎日数十例の手術をこなす、という時代もあったそうです。
まだ手術しなくても良い白内障は、たくさんあります。
定期的な経過観察をおこなうことで、手遅れになる(手術が非常に困難になる/手術のタイミングを逃す・遅い)ことはありません。
急ぎの白内障手術が必要になることは、ほとんどありません。
見え方が不自由であれば、身体が健康なうちの治療をお話することもあります。
✔ 白内障手術をする時期・タイミング
(いつから手術を検討するか・白内障手術のリスクが高くならないために)
白内障手術をしない方がいいのでしょうか、と聞かれることも多くあります。
現代の眼科は画像診断が発達して、いまの「目の状態」を詳細に把握することが可能になりました。
それぞれの患者さんと、時間をかけて白内障の手術適応/時期を一緒に相談しています。
参考文献
1. Schein, O.D., Cassard, S.D., Tielsch, J.M., Gower, E.W., 2012. Cataract surgery among Medicare beneficiaries. Ophthalmic Epidemiol 19, 257–264. https://doi.org/10.3109/09286586.2012.698692
2. Tseng, V.L., Yu, F., Lum, F., Coleman, A.L., 2012. Risk of fractures following cataract surgery in Medicare beneficiaries. JAMA 308, 493–501. https://doi.org/10.1001/jama.2012.9014
3. Meuleners, L.B., Hendrie, D., Lee, A.H., Ng, J.Q., Morlet, N., 2012. The effectiveness of cataract surgery in reducing motor vehicle crashes: a whole population study using linked data. Ophthalmic Epidemiol 19, 23–28. https://doi.org/10.3109/09286586.2011.628776
4. Fong, C.S., Mitchell, P., Rochtchina, E., Teber, E.T., Hong, T., Wang, J.J., 2013. Correction of Visual Impairment by Cataract Surgery and Improved Survival in Older Persons: The Blue Mountains Eye Study Cohort. Ophthalmology 120, 1720–1727. https://doi.org/10.1016/j.ophtha.2013.02.009
* 以上は加齢に伴う白内障のお話です:
その他の白内障は、別の判断になります。
・開放隅角緑内障に伴う白内障
・緑内障発作の危険のある白内障(狭隅角・閉塞隅角)
・先天白内障、小児の白内障
・糖尿病に伴う白内障(糖尿病網膜症の眼底管理)
・ぶどう膜炎に伴う白内障
・アトピー性皮膚炎に伴う白内障
・目のけがをしたあとの白内障(外傷性白内障) 等