手術をしない近視矯正の方法「オルソケラトロジー」、2019年春にはじめました。
いままでたくさんのかたが、手術をせずに裸眼で視力を得ることができています。
でも乱視の強い患者さんには、適用が困難でした。
新しい特別注文品「ブレスオーコレクトTD」の登場により、角膜乱視の強い患者さんにもオルソケラトロジー治療が可能になりました。
従来のオルソケラトロジーでは対応が難しかった乱視の強い患者さんに、新たな治療選択肢を提供できるように出来ました。

間違われやすい「乱視」の意味
乱視の意味、思われているイメージと違うかもしれません。
乱視とは、角膜(黒目)の形がゆがんでいる状態のことです。
ことばから「乱れて見える」というイメージを持たれがちですが、
実際には角膜(くろめ)・水晶体(レンズ)のカーブが方向によって異なることで生じる屈折異常です。

角膜は本来、球面のような形をしていますが、乱視がある場合は楕円形やラグビーボールのような形になっています。
どなたにでも必ず乱視はありますが、問題となるのは矯正を必要とする程度の乱視です。


(角膜形状解析により、円錐角膜が発見されることがあります)
ブレスオーコレクトTDとは
ブレスオーコレクトTDは、角膜乱視の強い患者さん(1.50D以上が目安)に適用される特別注文品のオルソケラトロジーレンズです。
従来のブレスオーコレクト(BOC)では安定した装用が困難だった患者さんに対応するため、レンズデザインが工夫されています。
従来品との違い

従来のオルソケラトロジーレンズは球面デザインでしたが、ブレスオーコレクトTDは:
- リバースカーブから外側部分がトーリックデザイン(経線によって異なる形状)
- 光学部は球面のまま維持
- 弱主経線・強主経線のデザインは従来品を踏襲
この設計により、角膜乱視の大きい患者さんでもレンズの安定位置が改善されます。
対象となるかた
ブレスオーコレクトTDの適用対象は以下の条件を満たすかたです:
主な条件

- 角膜乱視が1.50D以上(ケラト値を参照)
- 角膜乱視が周辺部まで及んでいる
- 近視度数:-1.00D〜-4.00D
- 円柱度数は球面度数の1/2以下
視能訓練士が行う眼科の検査で、計測をおこないます。

強主経線と弱主経線:乱視の度数「円柱度数」とは
乱視がある角膜では、最もカーブがきつい方向を「強主経線」、最もカーブが緩い方向を「弱主経線」と呼びます。
- 強主経線:角膜のカーブが最も急な方向(屈折力が強い)
- 弱主経線:角膜のカーブが最も緩い方向(屈折力が弱い)
この2つの経線の屈折力の差が乱視の度数(円柱度数)となります。
例えば、強主経線が45.00D、弱主経線が43.00Dの場合、乱視度数は2.00Dとなります。

乱視用のオルソケラトロジー:重要なこと
角膜乱視が1.50D以上でも、
角膜乱視が周辺部まで及ばない場合は、従来のブレスオーコレクト(BOC)を使用します。
角膜の形状を詳しく検査し、角膜乱視の分布パターンを確認します。

OPD (Optical Path Difference) scan III (ニデック社)
治療の進め方
1. 初回検査と適応判定
角膜形状解析装置を用いて、角膜のカーブや乱視の分布を詳細に測定します。
検査結果をもとに、ブレスオーコレクトTDの適応があるかを判定します。
2. レンズ規格の決定
患者さんの状況に応じて、以下のいずれかの方法でレンズ規格を算出します:
裸眼から初めて処方する場合
- フィッティングカーブ:弱主経線値を使用
- ターゲットパワー:他覚的屈折検査値を使用
- 円柱度数(シリンダー):強主経線−弱主経線で算出
- サイズ:標準サイズ(10.6mm)から開始
従来のオルソケラトロジーレンズから切り替える場合
- 初診時のケラト値と従来レンズの情報を使用
- 計算式により適切な規格を算出
3. フィッティング確認
ブレスオーコレクトTDのトライアルレンズも取り寄せました(院内検査用:貸出用ではありません)。
従来のオルソケラトロジーのトライアルレンズも使用して、フィッティングを事前確認します。
実際のブレスオーコレクトTD装用時に、医師は以下の点を確認しています。
フルオレセイン試験紙を使って角膜を染色し、フィッティングの状態を観察します。
- フルオレセイン染色パターンが適正なドーナツパターン
- レンズの位置のセンタリングが良好
- レンズと角膜の間にエアーが入っていない
- 瞬目時のレンズの動きが1〜2mm程度
- 強主経線方向の幅が弱主経線方向に比べ若干太く染まる
保証について
ブレスオーコレクトTDの保証条件:
- 保証期間:新規レンズ出荷日から12か月以内
- 保証回数:片眼2回まで(処方交換・破損交換の区別なし)
- 注文:片眼につき1枚まで
乱視用のオルソケラトロジー:注意すること
治療目的の明確化
ブレスオーコレクトTDは角膜乱視の大きい患者さんの安定位置を改善するためのレンズです。
全乱視(屈折性乱視)の矯正を目的とするレンズではありません。
全乱視(屈折性乱視)は水晶体乱視と角膜乱視を合わせたものです。
オルソケラトロジーは角膜の形状を変化させる治療のため、角膜乱視には効果がありますが、水晶体乱視の矯正はできません。
乱視の程度は?
角膜形状解析装置/全眼球屈折解析(ニデック社のOPD-scan)を使って、乱視の種類を判別します。
トライアル装用について
ブレスオーコレクトTDには貸出用のトライアルレンズがありません。
1週間のお試し装用期間には、従来のトライアルレンズを使用します。
適合検査時の十分な説明と検査が、とても重要です。
規格変更の必要性
初回レンズでフィッティングが不適切な場合は、以下の点を検討して規格変更を行います:
- カーブ変更:フィッティングがスティープやフラットの場合
- 度数変更:低矯正や過矯正の場合
- 円柱度数(シリンダー)変更:強主経線方向にフルオレセインが染まる場合
- サイズ変更:下方安定や水平偏位が認められる場合
まとめ
ブレスオーコレクトTDの登場により、
これまでオルソケラトロジー治療が困難だった角膜乱視の強い患者さんにも、治療選択肢を提供できるようになりました。
詳細な検査、正確な規格算出により、良好な治療結果が期待できます。
角膜乱視が強くてオルソケラトロジーを諦めていた患者さんも、
新しい治療選択肢について検討してみる価値があるのかもしれません。
治療を検討される場合は、角膜形状の詳細な検査と十分な説明を受けることが大切です。