はやり目(流行性角結膜炎、EKC, epidemic keratoconjunctivitis)はアデノウイルスによる炎症です。
アレルギー性結膜炎と違い、2週間程度で自然に治ります(self-limiting disease)。
はやり目(流行性角結膜炎)は、
強い充血・痛みが強い・多量の目やに・目が開かない、などの症状があります。
細隙灯顕微鏡による眼科医からみた所見を前提に、必要があれば抗原を検出する検査キットを用いることもあります。
陰性の結果でも、アデノウイルス感染を否定するものではありません(偽陰性)。
とても伝染しやすいので、正確な診断および生活上の注意が重要です。
また、アデノウイルスに直接作用する薬剤はありません。
ステロイド点眼を処方する理由は、炎症を軽減するためです。
細菌による炎症もともなっていると判断された場合は、抗生剤を使用することもあります。
治ったあと、黒目が濁ってしまうことがあります(Nummular keratitis; 貨幣状角膜炎)。
その場合、充血がおさまった後に まぶしい/ものがぼやけてみえる/みづらい などの症状が続きます。
角膜は皮膚の400倍程度の知覚神経が存在することが知られています1。
神経終末(末端)からは多くの神経伝達物質・ペプチドが産生され、角膜を透明に保つ働きがあると考えられています2。
角膜上皮にひそんだアデノウイルスに対する免疫反応が、角膜のにごり(角膜混濁)の本態です。
アデノウイルスにより、角膜実質内に炎症細胞が誘導されます。
生体共焦点顕微鏡を用いた解析:アデノウイルスによる炎症により角膜神経叢が障害され、にごりの原因にも関与していることが示されています3。
いったん生じた角膜のにごりは、数か月から数年残存します。
炎症がおさまったあとは瘢痕(きずあと)となってしまうため、早めの対応が大切:
角膜の炎症は、治るときに透明性を戻していることが とても大事です。
神経にはリモデリング(再構築)する機能があることが知られています4。
長い間をかけて角膜の神経叢が回復して、透明性が戻る可能性も考えられます。
以下を診療方針としています。
適切に炎症を鎮めて再発に留意、後遺症(角膜混濁)が続かないようにします。
○ はやり目が治る前から、ステロイド点眼により炎症を抑える
○ 混濁が消えてもステロイド点眼の減量(テーパリング)は慎重におこなう
:減量を早めたことにより、角膜炎が再発することもよくみられます
○ 混濁が残ったあとも、点眼をできる限り減らしつつ角膜神経叢の回復を待つ。
○ 角膜炎による角膜形状の変化(不正乱視)に対して、角膜形状解析装置を用いた経過観察をおこなう。
* 不正乱視が強く視力が出づらい場合、ハードコンタクトレンズによる矯正も考慮します。
はやり目による充血・眼脂(めやに)や痛みが消えたあとも、
「にごり(角膜混濁)が残っていないかどうか」
留意します。
(参考)
1. Rózsa, A.J., Beuerman, R.W., 1982. Density and organization of free nerve endings in the corneal epithelium of the rabbit. Pain 14, 105–120. https://doi.org/10.1016/0304-3959(82)90092-6
2. Muller LJ, Marfurt CF, KruseF, Tervo TM. Corneal nerves: structure, contents and function. Exp Eye Res 76: 521-542, 2003.
3. Dosso AA, Rungger-Brandel E. Clinical course of epidemic keratoconjunctivitis evaluation by in vivo confocal microscopy. Cornea 27: 263-268, 2008.
4. Patel DV, McGhee CNJ. In vivo laser scanning confocal microscopy confirms that the human corneal sub-basal nerve plexus is dynamic structure. Invest Ophthalmol Vis Sci 49: 3409-3412, 2008.