「緑内障」の意味とは?ことばの定義・進行具合に合わせた検査方法

緑内障は、特に言葉のイメージが強いかとおもいます。

「緑内障の定義」とは?

緑内障は,
視神経と視野に特徴的変化を有し
通常、眼圧を十分に下降させることにより
視神経障害改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である。

日本眼科学会のガイドラインを、そのまま引用しました1

緑内障診療ガイドライン(第5版).日眼会誌.126巻2号
https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/glaucoma5th.pdf

患者さんにとって、わかりづらい文章と思います。
本記事で、緑内障を定義に沿ってわかりやすく解説します。

グラデーションのある「緑内障」の言葉の意味:
それぞれの状態を把握して、
心配なのかそうでないのか? 眼科の診療でお話します。

目次

「緑内障」の意味とは?ことばの定義・進行具合に合わせた検査方法

目の奥の神経「網膜」のこと:かたちから機能障害に至るプロセス

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のWeinreb先生が2004年に発表された論文2に、重要な図があります。

先に形の変化が出てきて、しばらくして機能の変化が出てくる。
「Glaucoma continuum」

現在でも支持されている考え方です。

上述の緑内障診療ガイドライン(第5版)より、
眼の機能的構造的異常に一致します。

形の変化とは?
網膜が薄くなっている部分、のことです。
網膜は、カメラのフィルムに例えられます。
(フィルムを見たことない→ レトロなカメラを想像してみてください📷)

機能の変化とは?
視野の変化です。

視野という言葉を聞くと、

視野が狭くなっている?
視野が欠けている?

が瞬時に思い浮かびます。

眼科の診療では、
視野の感度が影響を受けているかどうか
を、細かく検査します。

視野障害の検出→ 「緑内障が進んでいる」 
ことを意味します。

実際に視野が狭くなっていたり、視野が欠けていたりした場合、
「進行した緑内障」に分類されるかもしれません。

「緑内障の早期発見」
早めに構造的異常を検出するのが大事です。
眼底写真を撮ることで、ある程度わかります。
会社の検診・人間ドックで発見される段階です。

詳しい検査:
眼科ではOCT(Optical Coherence Tomography, 光干渉断層計・三次元網膜画像解析)を用います。

定性的・定量的におこなう緑内障の判断(評価)とは?

患者さんそれぞれの状態を理解するために、2つの方向からアプローチします。

・定性的評価
・定量的評価

定性的評価は、現象の背景や理由を深く理解するために用いられ、言葉や記述を通じてデータを収集します。
一方、
定量的評価は、現象の数量や頻度を測定し、数値データを通じて統計的に分析します。
両者を組み合わせることで、より包括的な評価が可能となります。

それぞれ異なる目的と方法を持ち、緑内障の診断や進行のモニタリングに役立ちます。

緑内障の定性的評価

光干渉断層撮影(OCT)

  • OCTを用いた定性的評価は、広視野のスキャンを用いて緑内障の進行を検出する方法です。
    スキャン結果を重ね合わせて変化を評価することにより、定量的評価よりも頻繁に進行を検出することができます。

視野検査

  • 10-2および24-2視野検査・ゴールドマン視野計(GP)は、視野の中心部および周辺部の異常を検出するために使用されます。

患者さんの知識評価

  • 患者さんの緑内障に関する知識を評価するための質問票も定性的評価の一部です。
    これにより、患者さん説明の効果や理解度を評価することができます。
  • 実際には、お話しながらの説明につなげます。

緑内障の定量的評価

眼圧測定

  • 眼圧(IOP)の測定は、緑内障の診断と管理において重要な指標です。
    高眼圧は緑内障の主要なリスク要因であり、定量的に測定されます。

OCTによる網膜神経線維層厚の測定

  • 網膜神経線維層(RNFL)の厚さを定量的に測定することで、緑内障の進行を評価します。特に、cpRNFL(円周網膜神経線維層)の厚さの変化を追跡することが一般的です

視野検査の定量的解析

  • 視野検査の結果を数値化し、視野欠損の程度を評価します。これにより、緑内障の進行度を客観的に把握することができます

OCTアンギオグラフィー(OCTアンジオグラフィー)

  • OCTアンギオグラフィーを用いて、眼内の血流を定量的に評価します。
  • 緑内障患者さんと健康なかたの血流の違いを明らかにすることができます。

緑内障の評価には、定性的評価と定量的評価の両方が重要です。

定性的評価は視覚的な変化や患者さんの知識を評価するのに対し、
定量的評価は数値データを用いて客観的に状態を把握します。

眼科検査全般は、視能訓練士が担当します。

定性的評価・定量的評価
2つを組み合わせることで、緑内障のより正確な診断と効果的な治療が可能となります。

視野検査の種類と違い

視野検査は、緑内障の診断と進行のモニタリングに非常に重要です。
(視神経炎・網膜疾患・脳腫瘍・脳卒中・多発性硬化症・甲状腺眼症などでも、視野検査は重要です)

自動視野計の’ハンフリー‘、手動の’GP‘に大別されます。

ハンフリー視野計(HFA24-2とHFA10-2)とゴールドマン視野計(GP)の特徴と違い・使い分け

ハンフリー視野計(HFA)24-2:

  • 利点: 高精度で標準化された検査が可能。中心視野と周辺視野の両方を評価できる。
  • 欠点: 周辺視野の評価がGPほど広範囲ではない。

ハンフリー視野計(HFA)10-2:

  • 利点: 中心視野の詳細な評価に優れている。初期緑内障の中心視野欠損を早期に検出可能。
  • 欠点: 視野全体の評価には適していない。

ゴールドマン視野計(GP):

  • 利点: 視野全体を広範囲に評価でき、周辺視野の欠損を詳細に把握できる。患者の状態に応じた柔軟な対応が可能。
  • 欠点: 検査に時間がかかり、結果が検者の技術に依存するため標準化が難しいこともある。

HFA24-2は視野全体の欠損を把握し、HFA10-2は中心視野の詳細な評価を行います。
ゴールドマン視野計(GP)は視野全体の感度と範囲を広範囲に評価するため、特に周辺視野の評価に優れています。

もう少し詳しく解説します。

ハンフリー視野計(HFA)

ハンフリー視野計は、静的視野検査の一種で、コンピューター制御による自動視野計です。

HFA24-2 視野検査

  • 範囲: 中心から30度以内の視野をカバーします。
  • 特徴: 6度間隔で54点の測定ポイントがあり、中心視野と周辺視野の両方を評価します。緑内障の全体的な視野欠損を把握するのに適しています。
  • 用途: 緑内障の全体像を把握し、視野欠損の進行をモニタリングするために使用されます。

HFA10-2 視野検査

  • 範囲: 中心から10度以内の視野を詳細に検査します。
  • 特徴: 2度間隔で68点の測定ポイントがあり、中心視野の詳細な評価が可能です。中心部の視野欠損を早期に検出するために有効です。
  • 用途: 初期緑内障や中心視野に異常がある場合に特に有用です。中心視野の変化を詳細に把握するために使用されます。

ゴールドマン視野計(GP)

ゴールドマン視野計は、動的視野検査の一種で、視能訓練士が手動で行う視野検査です。

  • 範囲: 視野全体を広範囲にわたって検査します。特に周辺視野の評価に優れています。
  • 特徴: 動いている光を用いて視野の範囲と感度を調べます。光の強さや大きさを変えて感度を評価するため、「動的量的視野検査」とも表現されます。
  • 用途: 視野全体の感度と範囲を評価するため、進行した緑内障の評価に適しています。特に、視覚障害の等級判定や詳細な視野評価が必要な場合に有用です。


以上の視野検査を組み合わせることで、緑内障の進行を正確にモニタリングします。

中心視野と周辺視野の役割と実生活での重要性

視覚には、
物の姿形や細部を正確に認識する「中心視野」と、
広い範囲をぼんやりと捉える「周辺視野」があります。

みたい部分を見るのに必要な「中心視野」
まわりを見るのに必要な「周辺視野」

これらの視野はそれぞれ異なる役割を持ち、日常生活においても重要な役割を果たしています3, 4

中心視野

役割

  • 詳細な認識: 中心視野は、物の形や色、細部を正確に認識するために重要です。例えば、読書をする際に文字を認識する、標識の文字を読む、顔を識別するなどの活動に使われます。
  • 高い視覚解像度: 中心視野は視覚解像度が高く、細かい作業や精密な視覚情報の処理に適しています。

範囲

中心視野の範囲は非常に狭く、視野の中心からわずか1~2度程度です。

  • 詳細な認識: 中心視野は、物の形や色、細部を正確に認識するために重要です。例えば、読書をする際に文字を認識する、標識の文字を読む、顔を識別するなどの活動に使われます。
  • 高い視覚解像度: 中心視野は視覚解像度が高く、細かい作業や精密な視覚情報の処理に適しています。
  • 範囲: 中心視野の範囲は非常に狭く、視野の中心からわずか1~2度程度です。5

周辺視野

役割
  • 広範囲の認識: 周辺視野は、視野の広い範囲をぼんやりと捉えることができ、動く物体や環境の変化に気づくのに役立ちます。例えば、運転中に歩行者や他の車両の動きを察知する、スポーツで周囲の選手の動きを把握するなどの活動に使われます。
  • 動きの検出: 周辺視野は動く物体を検出する能力に優れており、危険を早期に察知するのに役立ちます。
範囲
  • 周辺視野は中心視野の外側に広がり、視野全体をカバーします。左右の眼を合わせると、視野は180度以上に達します6

中心と周辺視野がどちらが重要か? 実生活における重要性

実生活では、中心視野と周辺視野それぞれの役割が異なります。

中心視野の重要性
  • 詳細な作業: 読書、書類の確認、顔の識別、細かい作業など、詳細な視覚情報が必要な活動において中心視野が不可欠です。
  • 精密な視覚情報の処理: 中心視野は視覚解像度が高いため、精密な視覚情報の処理に適しています。
周辺視野の重要性
  • 安全確保: 運転中や歩行中に周囲の動きを察知することで、事故を防ぐ役割を果たします。周辺視野が広いと、環境の変化や動く物体に早く気づくことができます。
  • スポーツや日常活動: スポーツでは、周辺視野を使って他の選手の動きを把握し、迅速な判断を行うことが重要です。また、日常生活でも、周辺視野を使って環境の変化に対応することが求められます。

実生活においては、中心視野と周辺視野の両方が重要です。
中心視野は詳細な視覚情報の認識に不可欠であり、周辺視野は広範囲の環境認識や動きの検出に役立ちます。
中心と周辺視野は相互に補完し合い、生活の質と安全を確保するために協調的に働いています。
どちらか一方だけが重要というわけではなく、両方の視野がバランスよく機能することが重要です。

進行した緑内障を評価:中心と全体の視野検査/「フロア効果」とは

進行した緑内障では、網膜神経線維層(RNFL)が非常に薄くなっています7
(目をカメラに例えると、フィルムが傷んで薄くなってしまった状態です)

視野検査と眼内血流の評価が主な評価手段となります。

視野検査:
ゴールドマン視野計(GP)で広い範囲の視野を把握して、
ハンフリー視野計(HFA)10-2で、中心部の視野を把握します。

進行した緑内障では、
視能訓練士が患者さんの反応を確かめながら行うゴールドマン視野計(GP)が、より重要となってきます。
生活をするために必要な中心視野を評価するために、中心10度の評価を組み合わせます。

中心と全体の視野検査:組み合わせの利点

進行した緑内障の評価において、GPとHFA 10-2の組み合わせは以下の点で有効です:

広範囲な視野評価:

  • GPは視野全体を広範囲にわたって評価できるため、周辺視野の欠損や感度の低下を詳細に把握できます。これにより、視野全体の状態を総合的に評価することが可能です。

中心視野の詳細な評価:

  • HFA 10-2は中心視野の詳細な評価に優れており、進行した緑内障で特に重要な中心視野の変化を正確に検出できます。中心から10度以内の視野欠損を詳細に把握することで、治療の効果や進行の度合いを評価できます。

補完的な情報提供:

  • GPとHFA 10-2の組み合わせにより、視野全体の広範囲な情報と中心視野の詳細な情報の両方を得ることができます。これにより、進行した緑内障の評価がより正確かつ包括的になります。

進行した緑内障の評価:網膜の厚みのフロア効果に対応する

フロア効果とは、網膜神経線維層(RNFL)の厚さがある一定の値以下に達すると、それ以上の構造的な損傷が測定できなくなる現象を指します。
緑内障の進行に伴いRNFLが薄くなり続けるものの、完全にゼロにはならず、ある程度の厚さで止まるためです。
特に進行した緑内障の評価において、フロア効果を判定します8

進行した緑内障では網膜神経線維層(RNFL)が非常に薄くなっているため、眼内血流の評価も重要です。

OCTアンギオグラフィー(OCTA)を用います9

  • 特徴: 非侵襲的に眼内の血流を評価する技術です。特に視神経乳頭や網膜の血流を詳細に評価できます。
  • 用途: 血流の変化を検出することで、緑内障の進行を早期に発見することが可能です。OCTAは、網膜神経線維層の厚さが「フロア効果」に達した場合でも、血流の変化を通じて進行を評価するのに有用です。

OCTアンギオグラフィーなどの血流評価技術を用いることで、網膜神経線維層の厚さが限界に達した場合でも、進行をモニタリングできます。

参考文献

  1. 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会.緑内障診療ガイドライン(第5版).日眼会誌.126巻2号.2022年2月10日.
  2. Weinreb, R.N., Friedman, D.S., Fechtner, R.D., Cioffi, G.A., Coleman, A.L., Girkin, C.A., Liebmann, J.M., Singh, K., Wilson, M.R., Wilson, R., Kannel, W.B., 2004. Risk assessment in the management of patients with ocular hypertension. American Journal of Ophthalmology 138, 458–467. https://doi.org/10.1016/j.ajo.2004.04.054
  3. Rehman, I., Mahabadi, N., Motlagh, M., Ali, T., 2024. Anatomy, Head and Neck, Eye Fovea, in: StatPearls. StatPearls Publishing, Treasure Island (FL).
  4. Bernard, J.-B., Chung, S.T.L., 2016. The Role of External Features in Face Recognition with Central Vision Loss. Optom Vis Sci 93, 510–520. https://doi.org/10.1097/OPX.0000000000000819
  5. Loschky, L.C., Nuthmann, A., Fortenbaugh, F.C., Levi, D.M., 2017. Scene perception from central to peripheral vision. Journal of Vision 17, 6. https://doi.org/10.1167/17.1.6
  6. Vater, C., Wolfe, B., Rosenholtz, R., 2022. Peripheral vision in real-world tasks: A systematic review. Psychon Bull Rev 29, 1531–1557. https://doi.org/10.3758/s13423-022-02117-w
  7. Leung, C.K., Cheung, C.Y.L., Weinreb, R.N., Qiu, K., Liu, S., Li, H., Xu, G., Fan, N., Pang, C.P., Tse, K.K., Lam, D.S.C., 2010. Evaluation of Retinal Nerve Fiber Layer Progression in Glaucoma: A Study on Optical Coherence Tomography Guided Progression Analysis. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 51, 217. https://doi.org/10.1167/iovs.09-3468
  8. Tomita, R., Rawlyk, B., Sharpe, G.P., Hutchison, D.M., Shuba, L.M., Nicolela, M.T., Chauhan, B.C., 2024. Progressive Changes in the Neuroretinal Rim and Retinal Nerve Fiber Layer in Glaucoma: Impact of Baseline Values and Floor Effects. Ophthalmology 131, 700–707. https://doi.org/10.1016/j.ophtha.2023.12.032
  9. Werner, A.C., Shen, L.Q., 2019. A Review of OCT Angiography in Glaucoma. Seminars in Ophthalmology 34, 279–286. https://doi.org/10.1080/08820538.2019.1620807
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次