糖尿病と目:網膜症を早期に見つける”FAZ”の重要性

血糖値が上昇すると、血管は内側から少しずつ傷んできます。

体内で最も細い血管が、最も影響を受けやすいことがわかっています。

最も細い血管の一つが、網膜の血管:
糖尿病は目の中の血管「網膜血管」に影響を与え、気づかないうちに視力に影響が出る可能性があります。

糖尿病の方にとって、目の健康管理はとても重要です。

目の検査で特に注目されているのが「FAZ(ファズ)」と呼ばれる部分です。
これは私たちが物をはっきり見るために使う網膜の中心部にある特別な領域です。

このFAZの状態を調べることで、目の異常を早い段階で見つけることができることがわかってきています。

OCTアンギオグラフィーを用いた検査です。

糖尿病と目:網膜症を早期に見つける”FAZ”の重要性

血糖値の上昇は血管に影響を与え、特に網膜の細い血管は早期から障害を受けやすいことが知られています¹。近年、網膜の微細な変化を検出する手段として、中心窩無血管領域(FAZ: Foveal Avascular Zone)の評価が注目を集めています。

目次

FAZとは

FAZは、網膜の中心部「黄斑部」に位置する特殊な無血管領域です。

この部分は私たちが物をはっきりと見るために重要な役割を果たしています。

光が視細胞に効率よく到達できるよう、血管による光の散乱や吸収を防ぐ構造となっています²。

発生過程と構造

FAZの形成は胎児期から始まる精密な過程です。胎生24-26週頃にFAZの形成が始まり、これが中心窩陥凹の形成開始のトリガーとなります³。出生時までにFAZは完全な形態を形成し、その後も発達を続けます。

FAZの基本構造は以下の特徴を持ちます:

  • 網膜内層が緩やかに傾斜して陥凹を形成
  • 中心部には錐体視細胞とミュラー細胞のみが存在
  • 視細胞軸索が放射状に走行してHenle神経線維層を形成

糖尿病による網膜の変化

糖尿病網膜症では、FAZに特徴的な変化が観察されます⁴。特に、網膜血流密度(Flow Density)の低下が重要な指標となることが最近の研究で明らかになっています⁶。主な変化として:

  1. FAZ面積の拡大
  2. 血管密度の低下
  3. 毛細血管ネットワークの変化
  4. 血管構造の不整化

これらの変化は、臨床的に明らかな網膜症の所見が現れる前から検出可能であることが報告されています。

最新の画像診断技術

従来のフルオレセイン蛍光眼底造影(FAG)に代わり、現在では光干渉断層血管撮影(OCTA)が主流となっています⁵。

OCTAの特徴は:

  • 造影剤不要の非侵襲的検査
  • 短時間での検査完了
  • 網膜血管層の個別評価が可能
  • 定量的な評価が可能

OCTAによる評価では、特に以下の点に注目します:

  • FAZ面積の測定
  • 血管密度の定量評価
  • 形状の不整度評価
  • 経時的な変化の検出

特筆すべきは、OCTAによる血流密度測定が糖尿病網膜症の診断において有用なバイオマーカーとなることが示されている点です⁶。

この手法により、従来よりも早期に病変を検出できる可能性が広がっています。

まとめ

FAZの評価は、糖尿病網膜症の早期発見と経過観察において重要な役割を果たしています。最新の画像診断技術により、より正確な診断と効果的な治療が可能となってきています。

定期的な眼科検査による早期発見が、視機能の維持には不可欠です。

参考文献

  1. Antonetti DA, Klein R, Gardner TW (2012) ‘Diabetic retinopathy’, New England Journal of Medicine, 366(13), pp. 1227-1239.
  2. Provis JM, Dubis AM, Maddess T, Carroll J (2013) ‘Adaptation of the central retina for high acuity vision: Cones, the fovea and the avascular zone’, Progress in Retinal and Eye Research, 35, pp. 63-81.
  3. Hendrickson AE, Yuodelis C (1984) ‘The morphological development of the human fovea’, Ophthalmology, 91(6), pp. 603-612.
  4. Durbin MK, An L, Shemonski ND, Soares M, Santos T, Lopes M, Neves C, Cunha-Vaz J (2017) ‘Quantification of Retinal Microvascular Density in Optical Coherence Tomographic Angiography Images in Diabetic Retinopathy’, JAMA Ophthalmology, 135(4), pp. 370-376.
  5. Spaide RF, Fujimoto JG, Waheed NK, Sadda SR, Staurenghi G (2018) ‘Optical coherence tomography angiography’, Progress in Retinal and Eye Research, 64, pp. 1-55.
  6. Kaizu Y, Nakao S, Arima M, et al. (2019) ‘Flow Density in Optical Coherence Tomography Angiography is Useful for Retinopathy Diagnosis in Diabetic Patients’, Scientific Reports, 9, 8668.

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