白内障が進むと、水晶体は大きくなります。
大きくなった水晶体は、目の中の水の通り道「隅角」を狭くしてしまうことがあります:
眼圧が上がる
→目の中の神経「網膜」へのダメージが進む
そのため、
「眼圧を下げるために水晶体を取る」
=「早めの白内障手術をおこなう」
→ “白内障から緑内障への移行”を防ぐ
という考え方があります。
白内障の進行時期は、まだ生活に不自由がない程度であることも多くあります。
手術を決定するにあたっては、慎重な判断が必要です。
「白内障が進行すると緑内障になる」とは
眼圧:目の中の水の通り道「隅角」の広さ/狭さとの関連
多くの方は、開放隅角です。
目の前の方の栄養もつかさどる「房水」は、毛様体上皮から産生されます。
隅角線維柱帯の網目構造から流出し、静脈に還っていきます。
このバランスが保たれた状態が、正常眼圧です。
眼圧の正常値は10-20mmHg(ミリメートル水銀柱)程度です。
隅角に詰まった色素が、房水の流れを妨げて眼圧が上がっていることがあります(他の要因もあります):
「開放隅角緑内障」
一方で、
隅角が狭い場合も房水が流れづらくなり、眼圧が上がっていることがあります:
「閉塞隅角緑内障」
房水が流れづらい状態が続いた後に、突然全周の隅角が閉塞してしまうことがあります:
「急性緑内障/急性閉塞隅角緑内障」
眼圧が急激に上昇し、頭痛・嘔吐などの激しい症状が出現します。
白内障が進むと緑内障になりやすい“体質”
目の奥行きが短い「遠視の眼」では、水晶体の相対的なスペースは大きくなっています。
隅角を水晶体が占有するため、水の通り道「隅角」が狭くなっていることが多くあります。
「狭隅角」とよばれます。
眼圧が少し上がっていることもあります。
白内障から緑内障になりやすいかどうか:「狭隅角」を区別する方法
ご自身で自覚しておくことができるのは、
遠視眼であるかどうか
ということです。
「目がいい」
「老眼が早かった」
などは、遠視眼の傾向があり
狭隅角の可能性があります。
白内障の進行に応じて、眼圧が上がることが予想されます。
眼科の診察では、
狭隅角の判断を全員の患者さんに対しておこない、カルテに記載しています。
スリットランプ顕微鏡(細隙灯顕微鏡)を用いた判断です(Van Herick法)。
必要に応じて、隅角鏡・前眼部OCTを用いた評価もおこないます。
狭隅角眼:日常生活で気をつけること
使えない薬があります。
眼科で狭隅角と判断された方には、「緑内障カード」をお渡しします。
でも、“狭隅角=緑内障” ではありません。
過度な心配をされなくて良いように、お話をします。
暗い中での読書・スマホ操作等
・暗くなると瞳孔が少し開く
・下を向くことで水晶体が下がる
2つの相乗効果で、急性閉塞隅角緑内障発症の危険性が高くなります。
緑内障発作の予防的対処:2つの方法
狭隅角眼であることがわかれば、慎重な経過観察の他に
予防的対処をおこなうことが考慮されます。
主に2つあります。
「レーザー虹彩切開術」「白内障手術」
レーザー虹彩切開術
レーザーで虹彩を切開する際には、大きなエネルギーを必要とします。
レーザー虹彩切開術の大きな問題点は、数十年後に角膜内皮障害を起こしてしまうことです1,2。
角膜内皮細胞にはポンプ機能があり、房水が角膜内に入ることを防いでいます。
このポンプ機能が落ちてしまうと、角膜がふやけてしまう状態(=水疱性角膜症)になってしまいます。
ふやけてしまった角膜は透明性が低下、濁った角膜は高度な視力低下の原因となります。
角膜移植を必要とする状態であり、大きな負担が生じます。
以上のように、
レーザー虹彩切開術は、数十年後の角膜内皮障害/水疱性角膜症発症の危険性があります。
白内障手術
代わりに、水晶体を取ることでそのリスクを下げることができます。
早めの白内障手術です。
Currently, early phacoemulsification appears to be superior to LI not only in terms of IOP control, but also in protecting the corneal endothelium.
早期の超音波乳化吸引術は、眼圧コントロールだけでなく角膜内皮の保護という点でもレーザー虹彩切開術より優れていると思われる3。
Wang, P.X., et al., 2014. Laser iridotomy and the corneal endothelium: a systemic review. Acta Ophthalmologica 92, 604–616. https://doi.org/10.1111/aos.12367
白内障手術後に眼圧が下がる
白内障手術をすることで、どの程度眼圧が下がるのか
眼圧の正常値は10-20mmHg(ミリメートル水銀柱)程度です。
白内障手術をおこなった眼では、2-4mmHg程度の眼圧下降が見込まれます4。
狭隅角に対してレーザー虹彩切開術が有用か?:2つの重要な臨床研究のご紹介
EAGLE trial5
ZAP trial6
以上の結果、
予防的な「レーザー虹彩切開術」は、現在は推奨されていません。
“緑内障になりやすい目”に白内障手術をおこなう際のデメリット
急性緑内障になりやすい目は「遠視眼」:
いわゆる「目がいい」状態です。
それでも、
「隅角が狭い」
=「眼圧が上がりやすい」
ハイリスクな眼と判断されています。
それでも、
見えている目になぜ手術をする必要があるのか
=「目がいいのに白内障手術/緑内障なのに白内障手術」の意味とは
デメリットは、
- 手術後、むしろ少しみづらくなるかもしれない
眼内レンズの度数を決めるために、術前検査をおこないます。
眼内レンズの計算式には、統計学に基づいた数字を使っています。
遠視(=眼軸が短い)の目に対して適切なレンズを決めるのは、やや難しいです。
遠視眼のデータは少なく、予想からややずれる可能性が示唆されます。
- すでに緑内障発作を起こした目では、眼内レンズが不安定になるかもしれない
レンズを支える場所「チン小帯」が弱くなっている可能性があります。
(長期間経過後の、眼内レンズ脱臼・落下の危険性)
過去に緑内障発作を起こしていても、自覚症状に乏しく気づかれていないこともあります。
以上も考慮の上、手術を決定する必要があります。
参考文献
- Ang, L.P.K., Higashihara, H., Sotozono, C., Shanmuganathan, V.A., Dua, H., Tan, D.T.H., Kinoshita, S., 2007. Argon laser iridotomy‐induced bullous keratopathy—a growing problem in Japan. Br J Ophthalmol 91, 1613–1615. https://doi.org/10.1136/bjo.2007.120261
- Wang, P.X., Koh, V.T.C., Loon, S.C., 2014. Laser iridotomy and the corneal endothelium: a systemic review. Acta Ophthalmologica 92, 604–616. https://doi.org/10.1111/aos.12367
- Wang, P.X., Koh, V.T.C., Loon, S.C., 2014. Laser iridotomy and the corneal endothelium: a systemic review. Acta Ophthalmologica 92, 604–616. https://doi.org/10.1111/aos.12367
- Shrivastava, A., Singh, K., 2014. The impact of cataract surgery on glaucoma care. Curr Opin Ophthalmol 25, 19–25. https://doi.org/10.1097/ICU.0000000000000010
- Azuara-Blanco, A., Burr, J., Ramsay, C., Cooper, D., Foster, P.J., Friedman, D.S., Scotland, G., Javanbakht, M., Cochrane, C., Norrie, J., 2016. Effectiveness of early lens extraction for the treatment of primary angle-closure glaucoma (EAGLE): a randomised controlled trial. The Lancet 388, 1389–1397. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(16)30956-4
- He, M., Jiang, Y., Huang, S., Chang, D.S., Munoz, B., Aung, T., Foster, P.J., Friedman, D.S., 2019. Laser peripheral iridotomy for the prevention of angle closure: a single-centre, randomised controlled trial. The Lancet 393, 1609–1618. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)32607-2