梅毒がひきおこす、多彩な目の炎症

梅毒の拡大が盛んに報道されます。

目にも梅毒の合併症が出ることがあります。
未治療の梅毒で、どの段階でも目の炎症が発生する可能性があります1

目の“いずれの組織”にも、影響が出ることが特徴的です。

目次

梅毒がひきおこす、多彩な目の炎症

梅毒がひきおこす、多彩な目の炎症 〜 Great imitator「模倣の達人」

・後部ぶどう膜炎
・汎ぶどう膜炎

が、最も一般的な症状として知られています2

その他、

・前部ぶどう膜炎
・視神経障害
・網膜血管炎
・間質性角膜炎
・角膜混濁
・白内障
・緑内障
・網膜上膜
・黄斑浮腫
・視神経萎縮
・脈絡膜瘢痕
・脈絡膜新生血管

などが現れることがあります。

Great imitator(模倣の達人/マネすることがとても上手)と呼ばれ、他の疾患と見分けるのが困難であることがしばしばです。
梅毒による目の炎症を、眼科医が正確に判断するのが難しいこともあります。

梅毒の目の症状も、あらゆる形で出現します。

・目の痛み、充血
・飛蚊症/ゴミが飛んで見える
・光がまぶしく感じる
・ものがかすんで見える
・視力低下 等

様々な眼科検査をおこなうことと併せて、
採血等の検査結果から、梅毒が判定されます。

梅毒の原因:細菌「Treponema pallidum」の感染

梅毒は、Treponema pallidum(トレポネーマ・パリダム)という細菌によって引き起こされます。

Cellular Architecture of Treponema pallidum: Novel Flagellum, Periplasmic Cone, and Cell Envelope as Revealed by Cryo-Electron Tomography

直径0.2um, 長さ6-15umくらいです3

https://www.visualcapitalist.com/visualizing-relative-size-of-particles/

直径はウイルスくらいの大きさ
長さは赤血球〜花粉くらいの大きさ
(髪の毛よりもはるかに細い大きさ)

この特徴的な形で、身体中のあらゆる組織の中に入り込んでいきます。
入り込んで行ったTreponema pallidumは、さまざまな免疫応答を引き起こします。

梅毒のTreponema pallidumが、血管を傷付けます。
目には体内の最も細い血管が分布しているため、影響を受けやすい部分と捉えられます。
そして体のあらゆる場所に、炎症を起こします。

炎症を起こした後には、組織が傷んでしまいます。

・視神経障害
・角膜混濁
・白内障
・緑内障
・網膜上膜
・黄斑浮腫
・視神経萎縮
・脈絡膜瘢痕
・脈絡膜新生血管

さまざまな後遺症となって、あらわれます。

梅毒が脳に影響を及ぼしていたときの、目の症状

梅毒が脳に影響を及ぼすと、瞳孔が極度に小さくなります。
(Argyll Robertson pupil, アーガイルロバートソン瞳孔4

瞳孔の大きさから、梅毒がわかることもあります。

胎盤から梅毒が胎児に感染する「先天梅毒」

黒目(角膜)の炎症:間質性角膜炎 が、特徴的です5

角膜炎の結果、目が白く濁ってしまっていることがあります:角膜混濁

角膜ぶどう膜炎によって、続発緑内障を起こしてしまうこともあります。

梅毒がひきおこす、多彩な目の炎症:時間経過からみて

第1期梅毒:目の症状

最初の段階・第1期梅毒(primary syphilis)では
Treponema pallidumが入ってきた場所:
・結膜
・眼瞼
が病変部「初期硬結」となります。
分泌物の接触、または汚染された指を介して感染するものとされています。

第2期梅毒:目の症状

梅毒が治療されないままになると、4-10週間後(1か月〜2か月半)で第2期梅毒の状態となります。
まぶたにもばら疹が生じることがあり、

・眼瞼炎
・まつ毛やまゆ毛の脱毛

としてあらわれます。

そして、

・結膜炎
・強膜炎
・角膜炎
・虹彩毛様体炎

いずれも、第2期梅毒の目の炎症です。

他の感染性ぶどう膜炎と同様、
前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)は、通常片目だけの炎症としてあらわれます。
炎症に伴って、眼圧がかなり上がることもあります。

目の後ろの方まで炎症が波及する「後部ぶどう膜炎」は、第2期梅毒の遅い段階に発症してくることが一般的です。
網膜の複数箇所に炎症病変をつくることは、「急性網膜壊死」の状態ととても類似しています6

「急性網膜壊死」は、ヘルペスウイルスの一種「水痘帯状疱疹ウイルス」による目の炎症です。
短期間で不可逆的な視力障害に至ってしまうため、眼科ではとても恐れられている疾患です。

「急性網膜壊死」は網膜の周辺部から強い炎症病変が次々に生じてくるのに対して、
「梅毒性網膜壊死」の場合は、網膜の後極部から炎症病変が生じるのが特徴とされています7

ヘルペスウイルスによる炎症と、細菌Treponema pallidumによる炎症の表現の違いと考えられます。

急性髄膜炎は、第2期梅毒に至った1-2%の患者さんに発症することがあります8
梅毒による脳の合併症です。

前述の通り、
極端に小さくなった瞳孔の状態から、梅毒の炎症がわかることがあります。
(Argyll Robertson pupil, アーガイルロバートソン瞳孔)

第3期梅毒:目の症状

炎症をおこした組織は、瘢痕化と呼ばれる”きずあと”になります。
皮膚に発生し、「ゴム腫」と消されます。
まぶたの皮膚も、ゴム腫の状態となります。

その他:

・睫毛脱落を伴う眼瞼炎
・角膜炎
・虹彩毛様体炎
・血管炎
・脈絡網膜炎
・網膜静脈閉塞性疾患および網膜動脈閉塞性疾患
・脈絡膜滲出を伴う網膜剥離
・黄斑浮腫
・視神経炎
・神経網膜炎
・中間部ぶどう膜炎
・偽性網膜色素変性症

「先天梅毒」の3徴候

胎盤から梅毒が胎児に感染する「先天梅毒」の徴候:

ハッチンソンの3徴候と呼ばれ、
・間質性角膜炎
・ハッチンソン歯(切歯欠刻)
・難聴(感音性)

その他、
色素性網膜炎
続発性緑内障

を併発することもあります。

参考文献

  1. Dutta Majumder, P., Chen, E.J., Shah, J., Ching Wen Ho, D., Biswas, J., See Yin, L., Gupta, V., Pavesio, C., Agrawal, R., 2019. Ocular Syphilis: An Update. Ocular Immunology and Inflammation 27, 117–125. https://doi.org/10.1080/09273948.2017.1371765
  2. Koundanya, V.V., Tripathy, K., 2023. Syphilis Ocular Manifestations, in: StatPearls. StatPearls Publishing, Treasure Island (FL).
  3. Liu, J., Howell, J.K., Bradley, S.D., Zheng, Y., Zhou, Z.H., Norris, S.J., 2010. Cellular Architecture of Treponema pallidum: Novel Flagellum, Periplasmic Cone, and Cell Envelope as Revealed by Cryo-Electron Tomography. J Mol Biol 403, 546–561. https://doi.org/10.1016/j.jmb.2010.09.020
  4. Robertson, D.A., 1869. Four Cases of Spinal Myosis; with Remarks on the Action of Light on the Pupil. Edinb Med J 15, 487–493.
  5. Keuning, M.W., Kamp, G.A., Schonenberg-Meinema, D., Dorigo-Zetsma, J.W., van Zuiden, J.M., Pajkrt, D., 2020. Congenital syphilis, the great imitator-case report and review. Lancet Infect Dis 20, e173–e179. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30268-1
  6. Tamesis, R.R., Foster, C.S., 1990. Ocular syphilis. Ophthalmology 97, 1281–1287. https://doi.org/10.1016/s0161-6420(90)32419-3
  7. Fu, E.X., Geraets, R.L., Dodds, E.M., Echandi, L.V., Colombero, D., McDonald, H.R., Jumper, J.M., Cunningham, E.T., 2010. Superficial retinal precipitates in patients with syphilitic retinitis. Retina 30, 1135–1143. https://doi.org/10.1097/IAE.0b013e3181cdf3ae
  8. Smith, G.T., Goldmeier, D., Migdal, C., 2006. Neurosyphilis with optic neuritis: an update. Postgrad Med J 82, 36–39. https://doi.org/10.1136/pgmj.2004.020875
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