飛蚊症は、目の中(眼球内)の炎症に伴うこともあります。
飛蚊症の症状から「後部ぶどう膜炎」が発見されるお話です。
目の中の炎症を写し出す「飛蚊症」:後部ぶどう膜炎
非炎症性の“生理的飛蚊症”
生理的飛蚊症の原因「後部硝子体剥離(こうぶしょうしたいはくり)」
ほとんどの飛蚊症は「後部硝子体剥離」です。
目の中の濁りの正体は、
目の中のゼリーを包む膜「硝子体膜」や硝子体の線維が、目の中の濁りとなって自覚されます。
この場合、炎症を伴いません。
炎症性の飛蚊症
目の中の炎症が起こると、炎症細胞たちが硝子体内に集まってきます。
クラスター:「細胞集団」を作った免疫細胞集団(白血球)が、飛蚊症の原因となります。
硝子体内の濁りを伴うぶどう膜炎のことを、後部ぶどう膜炎と呼びます。
その他 目の中(硝子体)の濁りの正体は、
・出血にともなう赤血球
・穴が空いた網膜の下に存在していた網膜色素上皮細胞
炎症には
・感染性(微生物による炎症)
・非感染性(自己免疫:自分の組織に対する炎症)
があります。
感染性ぶどう膜炎かどうか?「SSTTEEVE」
微生物によるぶどう膜炎:「感染性ぶどう膜炎」かどうか?
感染性ぶどう膜炎のほとんどは、片眼性です。
片目だけの飛蚊症から、感染性ぶどう膜炎が発見されることがあります。
SSTTEEVEを念頭において、目の中をみています1。
SSTTEEVEとは、下記の疾患の頭文字:
- サルコイドーシス(Sarcoidosis)2
- 梅毒(Syphilis)3
- トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)4
- 結核(Tuberculosis)5
- 内因性眼内炎(Endogenous Endophthalmitis)6
- ウイルス(Virus)
:単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus)・水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella zoster virus, Herpes zoster virus)・サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus) - その他(Et cetera)
各疾患の特徴的な所見に基づいて、次の検査・診療の判断がされます。
PCRによって、微生物の存在を確定することができます7, 8。
その他では、
真菌(カビ)・トキソカラによる後部ぶどう膜炎も、稀にあります。
また、抗がん剤が引き起こすぶどう膜炎もあります。
未治療でかなり進行した糖尿病網膜症の「増殖膜」が飛蚊症の原因となっていた、という経験もありました。
刺青によるぶどう膜炎9 もあるようです。みたことがありません。
非感染性/自己免疫性のぶどう膜炎
ぶどう膜炎の多くでは、全身の炎症を反映します。
眼科の“内科”と呼ばれる所以です。
両眼性の炎症である場合、非感染性/自己免疫性のぶどう膜炎を考えます。
○ 腸管の炎症:
潰瘍性大腸炎、クローン病
○ 背骨(脊椎)の炎症:
強直性脊椎炎
○ 関節の炎症:
慢性関節リウマチ、若年性特発性関節炎
○ 皮膚・粘膜の炎症:
乾癬、ベーチェット病
○ 全身多発性の炎症:
サルコイドーシス(肺・リンパ節・心臓・目など)
ベーチェット病(口内炎・皮膚炎など)
問診の上、必要があれば内科医師と連携した診療が行われます。
網膜に穴が開いたあと(網膜裂孔・網膜剥離)、目の中で炎症反応がはじまる
裂孔をきたした網膜の下からは、網膜色素上皮細胞が散布されます。
裂孔と一緒に細い血管が破けて、硝子体出血の状態になっていることもあります。
飛蚊症の原因(その他):
・穴が空いた網膜の下に存在していた網膜色素上皮細胞
・出血にともなう赤血球
網膜色素上皮細胞は炎症性のタンパク質(サイトカイン)を多く産生します。
九州大学眼科での研究で、網膜剥離眼の硝子体を解析しました。
炎症性であったことがわかりました10。
難治性の増殖硝子体網膜症の状態にまで進行してしまうと、さらに炎症性サイトカインが上がることも同時にわかりました。
増殖硝子体網膜症:
網膜剥離の手術後、巨大裂孔による網膜剥離、網膜剥離を放置したあとなどに増殖膜が形成され、
非常に難治の状態となってしまうこと。
網膜色素上皮細胞による炎症性の変化が原因とされています11。
網膜裂孔・網膜剥離による飛蚊症も、炎症性の飛蚊症なのかもしれません。
(網膜裂孔・網膜剥離は、後部ぶどう膜炎とは区別されます)
炎症を進ませて増殖硝子体網膜症の状態になることを避ける対応が必要です。
飛蚊症の症状に、早めの対応が望まれます。
心配しすぎないでくださいね
医師は上記のことを想像しながら、除外診断を含めて判断していきます12。
ご自身で医療情報を検索して全部を心配してしまうのは、過剰になってしまいます。
» 「症状」を“Googleする”:医療情報を正しくつかうために
飛蚊症は、眼科の日常診療でとても多く見られます。
重い病気が隠されていないか?
悪い病気のサインではないか?
眼科専門医が顕微鏡で目の中をみることで、その危険性が判別されます。
瞳孔を開かない診察でも、目の中のかなりの部分がわかる時代にもなりました。
参考文献
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