こどもの近視、時代の変化:「目薬と訓練」から「眼軸長測定」へ

「こどもの頃、『仮性近視』と言われて目薬をさしていました。機械をのぞいて遠くの景色を見る訓練にも通いました。あれは何だったのでしょうか」

診察室で、保護者の方から、ときどきいただく質問です。

ご自身がこどもの頃に受けた治療と、いま私たちがお子さんに提供する治療が、あまりに違うからだと思います。

昔の治療が「間違いだった」わけではありません。当時は眼球の長さを簡単に測る技術がなく、その時代の知識では合理的な治療でした。技術と研究が進んで、より確かな方法に置き換わった、ということです。

今回は、近視治療の考え方がどのように変わってきたのかを、文献をたどりながら整理します。

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「仮性近視」という考え方

近くを見る作業が長く続くと、ピント合わせを担う毛様体筋が緊張したままになり、一時的に近視のような状態になることがあります。

調節緊張、いわゆる「仮性近視」と呼ばれてきた状態です1

調節:ピントをあわせるしくみ(毛様体筋と水晶体)

緊張がほぐれれば視力は戻ります。そこから、「近視は調節の緊張から始まる。早い段階でほぐせば、本当の近視にならずにすむのではないか」という考え方が生まれました。

日本ではこの考え方(調節説)が1960年代に体系化され、学校健診で視力低下を指摘されたお子さんへの標準的な対応として、全国に広まりました。

当時の治療:目薬と訓練

仮性近視への治療セットは、長く全国の眼科にありました。

寝る前には調節麻痺の目薬(ミドリンM:トロピカミド)、日中には調節機能改善の目薬(ミオピン・マイピリン:ネオスチグミン)をさします。あわせて週1〜2回通院し、機械をのぞいて遠くの景色を見る調節訓練(ワック)も行われていました。

治療の目標は、毛様体筋の緊張をほぐして視力を取り戻すことでした。

実際、調節緊張がほぐれて視力が改善するお子さんは一定数います。調節緊張という状態そのものは、現在の研究でも確認されている実在の現象です2

一方で、疑問も早くからありました。

日本眼科医会の一般向け資料には、「偽近視の状態が本当にあるかどうかについては、賛否両論があります」「あまり根拠のある治療法ではないので期待しない方がよいと思います」という記載があります1

当時の国内試験で確認されていたのは、「調節緊張が解除されて視力・屈折値が短期的に改善する」ことまででした3

目薬や訓練が、眼球が伸びていく変化そのものを抑えることを示した質の高い臨床試験は、国際的な系統的レビューでも確認されていません4

回り道も含めて:近視治療の変遷

近視治療の歴史をたどると、調節説だけでなく、いくつもの試行錯誤がありました。

時代主流だった考え方・治療いま振り返ると
19世紀〜調節のけいれんによる「見かけの近視」が記載される2仮性近視という概念の原点
1960年代日本で「調節説」が体系化。点眼+訓練による仮性近視治療が学校健診とともに全国へ1,3目標は視力回復。眼軸長はまだ測れなかった
1970〜90年代訓練機器(ワック等)が普及。「メガネは弱めに合わせた方が進まない」という低矯正の考え方も広まる低矯正はその後の試験で、進行をむしろ速める可能性が示された5
同時期(海外)ソ連・中国でも調節説に基づく訓練文化が発達(中国の眼保健操=目のツボ体操は現在も学校で実施)メタ解析では近視の予防・抑制効果は確認されていない6
1977〜2005年動物実験により「視覚の入力が眼球の成長に影響する」ことが示される7,8パラダイム転換の科学的基礎
2003年調節の負担を減らす累進屈折力レンズの大規模試験(COMET)差は統計的には有意だが、臨床的にはわずかだった9
2006〜2019年アトロピン点眼のRCT(ATOM1・ATOM2・LAMP)、オルソケラトロジーのRCTが相次ぐ10,11「眼軸長」が治療評価の主役になる
2019〜2022年マイサイト・近視抑制メガネのRCTと欧米での承認12,13光学デザインで眼軸の伸びを抑える時代へ
2024〜2026年日本でリジュセア®ミニ・マイサイトが承認、近視抑制メガネも国内展開14,15,16日本でも、眼軸長を組み合わせた近視管理が広がる

※右肩の数字は、文末の参考文献の番号に対応します。

回り道の代表例をいくつか挙げます。

かつては「メガネは弱めに合わせた方が近視が進まない」という考え方が広く信じられていました。
しかし2002年に報告された試験では、低矯正のグループの方がむしろ近視の進行が速いという、予想と逆の結果が示されました5
現在は適切な完全矯正が推奨されています。

「近くを見るときの調節の負担を減らせば進行を抑えられるはずだ」という発想から、遠近両用の累進屈折力レンズも大規模に検証されました。
3年間の比較試験(COMET・2003年)で差はわずか0.20Dにとどまり、調節への介入だけで得られる近視進行抑制の効果は、限定的であることが分かりました9

訓練によるアプローチは海外にもありました。中国では「眼保健操」と呼ばれる目の体操が現在も学校で行われていますが、11試験をまとめたメタ解析では、視力にも屈折値にも意味のある効果は確認されていません6

ここで取り上げた試みは、どれも当時の仮説に基づく真剣な取り組みでした。そして、検証の結果「効果が乏しい」とわかったこと自体が、次の一歩につながる大切な知見でした。

わかってきたこと:近視は「眼軸」が伸びる変化

転機は動物実験から訪れました。

1977年、サルの眼で「視覚の遮断だけで眼球が伸びて近視になる」ことが報告され7、その後の一連の研究で、眼球の成長は網膜に届く光の焦点情報によって制御されていることが示されました8

こどもの近視の多くは、眼球が前後方向に伸びる「眼軸長の伸長」によって進みます。

そして、いったん伸びた眼軸を元に戻すことは、きわめて困難です。

昔の考え方(毛様体筋の緊張をほぐす)と現在の考え方(眼軸長の伸びを抑える)を対比した図

眼軸が伸びるほど、将来の強度近視への進行や、近視性黄斑症・網膜剥離・緑内障といった眼合併症のリスクが上がることが知られています。

近視の合併症

そこで世界の研究は、「伸びてから対処する」のではなく「伸びる速度を抑える」方向へ転換しました。

現在の治療:ランダム化比較試験で確認された選択肢

2000年代以降、近視進行抑制治療は、プラセボや通常治療と比較するランダム化比較試験(RCT)で検証されるようになりました。

治療代表的な試験報告された結果(各試験における対照群との差)
低濃度アトロピン点眼LAMP試験(2019年・2年RCT)10濃度依存的に進行を抑制(0.05%で最大)
オルソケラトロジーROMIO試験(2012年・2年RCT)11眼軸伸長を約43%抑制
マイサイト(MiSight®)Chamberlain 2019(3年RCT)12眼軸伸長を約52%抑制
近視抑制メガネ(DIMS)Lam 2020(2年RCT)13眼軸伸長を約62%抑制

※数値は各試験の報告値です。効果には個人差があり、進行を完全に止める治療ではありません。RCT:ランダム化比較試験。試験ごとに対象・条件が異なるため、治療法どうしの数値の単純比較はできません。

近視抑制治療の効果別分類(IMIガイドラインに基づく整理)

日本でも2024年12月、低濃度アトロピン点眼のリジュセア®ミニが、近視の進行抑制を目的とする点眼剤として、日本で初めて承認されました14

2025年にはマイサイトが、近視進行抑制を目的とするソフトコンタクトレンズとして国内承認されました15。2026年6月には、小児近視用の眼鏡レンズ「ミヨスマート(MiYOSMART)」の国内発売も始まっています16。眼鏡レンズは、医薬品やコンタクトレンズとは異なり、同じ形の製造販売承認制度の対象ではありません。

あわせて、1日2時間程度の屋外活動が近視の「発症予防」に有効なことも、大規模な学校ベースの試験で示されています17。ただし、屋外活動だけで発症を完全に防げるわけではありません。屋外活動は、すでに近視になったお子さんの進行抑制よりも、発症の予防で根拠が強い分野です。

昔の近視治療は「間違い」だったのか

昔の近視治療は間違いだったと捉えるのは、不適切と考えます。

理由:

(1) 眼軸長を測る技術が普及していませんでした。光を使って眼軸長を安全に精密測定する装置が臨床に広まったのは2000年代以降です。測れないものは、治療の目標にできません。当時の眼科医が頼れる指標は視力と屈折値だけでした。

(2) 調節説は当時の観察事実と矛盾しない有力な仮説でした。近くを見る作業と近視の関連は古くから知られており、「近業→調節緊張→近視」という説明も自然に受け入れられていました。

(3) 眼軸の伸びを抑える手段が、そもそも世界のどこにも存在しませんでした。視力低下を心配して受診したお子さんと保護者の方に、当時の眼科医が提供できる最善が、調節へのアプローチだったのです。

なお、調節緊張(仮性近視)という現象そのものは、現在も実在するものとして確認されています。ただし、調節緊張がこどもの近視の主な原因というわけではありません。緊張がほぐれて一時的に視力が改善しても、眼軸の伸びが抑えられたことにはなりません。

調節麻痺点眼は、正確な屈折検査や、調節のけいれんが疑われる場合の評価などで、現在も使われています。検査目的の点眼と、近視進行抑制を目的とする低濃度アトロピン治療は、別のものです。

変わったのは、「近視の進行を抑える」という目標に対する答えです。

たける眼科(福岡市早良区高取商店街)での実際

たける眼科は、2018年の開院以来、近視抑制の世界的な動向を追ってきました。
(海外の研究成果も含めて、近視管理の動向を継続的に確認しています)

現在は、眼軸長測定に基づく進行管理を近視診療の土台としています。
眼軸長測定装置で伸びる「速さ」を定期的に確認し、リジュセア®ミニ(2025年4月から取り扱い)やマイサイト(2026年2月の発売初日から取り扱い)、オルソケラトロジー、近視抑制メガネなどの選択肢を、進行速度・年齢・生活スタイルに応じて一緒に考えます。

眼軸長測定装置OA-1で測定を受けるこどもの様子(たける眼科)

小児の近視進行抑制治療は、いずれも保険適用外(自由診療)です。
費用と通院スケジュールは各治療のご案内ページに記載しています。

なお、近視と診断されたすべてのお子さんに、これらの治療が必要というわけではありません。進行がゆるやかな場合には、治療をせずに経過を見ることも大切な選択肢です。年齢・進行の速さ・生活スタイル・費用を含めて、ご家族と一緒に決めていきます。

患者さんへお伝えしたいこと

「昔受けた治療は、意味がなかったのでしょうか」

当時の最善と、いまの最善が違う。その違いが、この数十年の進歩そのものです。

医学は、前の世代の積み重ねの上で前に進みます。仮性近視の研究や累進レンズの試験があったからこそ、調節だけでは近視の発症・進行を十分に説明できないことがはっきりし、眼軸長という、近視進行を評価する重要な指標にたどり着きました。

いまの治療も、10年後にはさらに良い方法に置き換わっているかもしれません。
その変化を追い続けて、都度の記載を続けます。

参考文献

  1. 日本眼科医会. 子供が近視といわれたら(目についての健康情報). https://www.gankaikai.or.jp/health/39/06.html
    https://www.gankaikai.or.jp/health/39/index.html
  2. García-Montero M, Felipe-Márquez G, Arriola-Villalobos P, Garzón N. Pseudomyopia: a review. Vision (Basel). 2022;6(1):17. https://doi.org/10.3390/vision6010017
  3. Hosaka A. Myopia prevention and therapy. The role of pharmaceutical agents. Japanese studies. Acta Ophthalmol Suppl. 1988;185:130-131. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2853518/
  4. Walline JJ, Lindsley KB, Vedula SS, et al. Interventions to slow progression of myopia in children. Cochrane Database Syst Rev. 2020;1(1):CD004916. https://doi.org/10.1002/14651858.CD004916.pub4
  5. Chung K, Mohidin N, O’Leary DJ. Undercorrection of myopia enhances rather than inhibits myopia progression. Vision Res. 2002;42(22):2555-2559. https://doi.org/10.1016/s0042-6989(02)00258-4
  6. Lin Z, Xiao F, Cheng W. Eye exercises for myopia prevention and control: a comprehensive systematic review and meta-analysis of controlled trials. Eye (Lond). 2024;38:473-480. https://doi.org/10.1038/s41433-023-02739-x
  7. Wiesel TN, Raviola E. Myopia and eye enlargement after neonatal lid fusion in monkeys. Nature. 1977;266(5597):66-68. https://doi.org/10.1038/266066a0
  8. Smith EL 3rd, Kee CS, Ramamirtham R, Qiao-Grider Y, Hung LF. Peripheral vision can influence eye growth and refractive development in infant monkeys. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2005;46(11):3965-3972. https://doi.org/10.1167/iovs.05-0445
  9. Gwiazda J, Hyman L, Hussein M, et al. A randomized clinical trial of progressive addition lenses versus single vision lenses on the progression of myopia in children. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003;44(4):1492-1500. https://doi.org/10.1167/iovs.02-0816
  10. Yam JC, Jiang Y, Tang SM, et al. Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) study. Ophthalmology. 2019;126(1):113-124. https://doi.org/10.1016/j.ophtha.2018.05.029
  11. Cho P, Cheung SW. Retardation of myopia in Orthokeratology (ROMIO) study: a 2-year randomized clinical trial. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2012;53(11):7077-7085. https://doi.org/10.1167/iovs.12-10565
  12. Chamberlain P, Peixoto-de-Matos SC, Logan NS, Ngo C, Jones D, Young G. A 3-year randomized clinical trial of MiSight lenses for myopia control. Optom Vis Sci. 2019;96(8):556-567. https://doi.org/10.1097/OPX.0000000000001410
  13. Lam CSY, Tang WC, Tse DY, et al. Defocus Incorporated Multiple Segments (DIMS) spectacle lenses slow myopia progression: a 2-year randomised clinical trial. Br J Ophthalmol. 2020;104(3):363-368. https://doi.org/10.1136/bjophthalmol-2018-313739
  14. 参天製薬株式会社. 「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」の日本における製造販売承認取得のお知らせ. 2024年12月27日. https://www.santen.com/ja/news/2024/2024_1/20241227
  15. クーパービジョン・ジャパン株式会社. 「MiSight 1 day」近視進行抑制レンズとしての国内製造販売承認について(承認番号30700BZX00189000). 2025年. https://coopervision.jp/our-company/news-center/250829
  16. HOYA株式会社(HOYAビジョンケアカンパニー). 小児近視用メガネレンズ「ミヨスマート(MiYOSMART)」国内発売のお知らせ. 2026年6月1日発売. https://kyodonewsprwire.jp/release/202605259604
  17. He M, Xiang F, Zeng Y, et al. Effect of time spent outdoors at school on the development of myopia among children in China: a randomized clinical trial. JAMA. 2015;314(11):1142-1148. https://doi.org/10.1001/jama.2015.10803

Takeru Yoshimura, M.D., Ph.D.

たける眼科
takeru-eye.com
福岡市早良区「高取商店街」
西新駅/藤崎駅(福岡市地下鉄)

日本眼科学会 眼科専門医
医学博士(九州大学)

当ウェブサイトに掲載されている情報は、一般的な情報提供のみを目的としており、個別の医療アドバイスに代わるものではありません。ご自身の健康状態や治療に関するご質問は、必ず眼科専門医・医療専門家にご相談ください。

「症状」を“Googleする”:医療情報を正しくつかうために
https://takeru-eye.com/blog/04102021-never-google-your-symptoms/

目の炎症とは? https://takeru-eye.com/ocularinflammation/

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