飛蚊症の2つの治療と合併症:リスクを考えた判断

「視界にゴミが飛んで見える」「視力が下がったように感じる」

飛蚊症の原因:「硝子体」の濁りに対しては、
治療する方法があります。

硝子体の濁りを、気づかないくらいに粉々にする
:レーザービトレオライシス
硝子体そのものをとってしまう
:硝子体手術

現在は主に2つです。
いずれも重い合併症を引き起こす可能性が少しだけあります。

生理的(正常の)飛蚊症に対して、
自分がどの程度のリスクを取れるかを考えた判断が必要です。

Table of Contents

飛蚊症の2つの治療と合併症:リスクを考えた判断

飛蚊症の原因

「後部硝子体剥離」によるものがほとんどです。
目の中のゼリー「硝子体」は膜に包まれています。
はがれた硝子体膜が、飛蚊症の原因となります。

後部硝子体剥離の図解(参天製薬提供):こどもの目と成人の目の断面を左右で比較し、ゼリーの液化による硝子体の収縮、はがれた硝子体膜(生理的飛蚊症の原因)、網膜と強く癒着する部分(網膜裂孔・網膜剥離の原因)を示す

ストレスそのものから、飛蚊症が起こることはありません。
心の変化と関係なく、硝子体の変化から飛蚊症が生じます。

飛蚊症の図解(英語表記):正常な眼ではクリアに見えるのに対し、硝子体中の浮遊物(floaters)が光の通り道をさえぎり網膜に影を落とすため、糸くずや点状のものが見えることを眼球断面図と見え方の比較で示す
飛蚊症の見え方のシミュレーション画像:青空を背景に、糸くず状や輪状の半透明の浮遊物が複数見える

以下の疾患の可能性もあり、その場合はとても危険です。
・網膜裂孔、網膜剥離
・目の中の炎症(ぶどう膜炎) 
・進行した糖尿病網膜症:増殖膜・硝子体出血

眼科を受診して、異常がないことを確認することはとても大事です。

ほとんどは生理的(正常の)飛蚊症で、正常と判断されます。
でも飛蚊症は考えられている以上に、見え方の質を阻害するものとの研究結果があります。

(生理的)飛蚊症はときにとても煩わしく、きれいになくなってしまわせたいと思われます。

飛蚊症のわずらわしさに関する研究

American Journal of Ophthalmology誌の論文タイトル部分(英語表記):「Utility Values Associated With Vitreous Floaters」(Wagle 2011, 152巻1号60-65)

266名の飛蚊症患者(21歳〜97歳:平均年齢52.9歳)に対しての研究。

飛蚊症のわずらわしさは生活の質(Quality of life, QOL)に直結する。
若い患者さんほど、
リスクをとってでも飛蚊症をなくしてしまいたい
と考えている1。

生活の質に関わることは、大きな問題となります。
眼科学でも、飛蚊症とQOLについては重要な課題となっています2。

飛蚊症に対して:2つの治療

硝子体の濁りを、気づかないくらいに粉々にする
:レーザービトレオライシス
硝子体そのものをとってしまう
:硝子体手術

医原性(手術をおこなったため)の合併症を受け入れることができるか、慎重な判断が必要となります。

YAGレーザーによる生理的飛蚊症の治療:レーザービトレオライシス

レーザービトレオライシス(Laser vitreolysis)
Vitreo(硝子体を)lysis(溶かす)

YAG (yttrium-alminium-garnet) レーザーは、衝撃波を用いる治療です。
眼科では、
・後発白内障
・緑内障のレーザー治療(SLT)
に、一般的に使われています。

同じYAGレーザーを使って、硝子体の濁った部分に衝撃波を当てます。
固形の濁りは粉々になって、わかりづらくなるようになります。

「飛蚊症が消えた」ことを、実感されるかもしれません3。
でも、濁りが全部取れるのではありません。

レーザービトレオライシスの合併症

・白内障
・網膜裂孔、網膜剥離
・網膜出血

水晶体や網膜、網膜血管へ、
YAGレーザーが誤って当たることによる合併症です。

・眼圧上昇
・緑内障
・白内障(水晶体の限局的な混濁)

の記載もありました4。

レーザービトレオライシスの長期的な合併症は、まだ十分に検討されていません5。

レーザービトレオライシスは、保険適応外の治療です。
合併症が起こった際の治療も、自由診療となってしまいます。
高額な治療費負担につながる可能性があります。

外科的手術による生理的飛蚊症の治療:硝子体手術

硝子体手術の図解(日英併記):眼球断面に硝子体カッター(Vitrector)と光源(Light source)を挿入し、硝子体出血を切除する様子。灌流液のポートで眼内を水で置換するとの注記つき

硝子体手術の対象:
・糖尿病網膜症
・網膜剥離
・硝子体出血
・ぶどう膜炎
・眼内の感染症
・眼外傷
・黄斑円孔
・黄斑上膜
・白内障手術後の合併症 など
眼科手術の中では、大掛かりな部類の手術です。
さまざまなリスクと引き換えに、硝子体手術が行われます。

硝子体手術では、眼内の悪い変化の足場となる「硝子体」の完全郭清をはかります(全部とってしまう)。

悪い変化とは
・残った硝子体が網膜を引っ張って網膜剥離を引き起こす
・硝子体中の蛋白「サイトカイン」がさらに眼内環境を悪くする

飛蚊症に対する硝子体手術
硝子体そのものがなくなることで、飛蚊症の症状改善が期待できます。

硝子体はゼリー状になっています。
そのまま吸引することはできません。
くっついている網膜を引っ張ってしまうことになるためです。

そのため、「硝子体カッター」を使います6。

硝子体カッターの構造の図(de Oliveira 2016, Int J Retina Vitreous より):吸引ポート・空気圧駆動・ダイヤフラム・リターンスプリングの構造と、Constant Flow Bladeの刃の動き(Position A〜C)を示す

硝子体カッターは、細い管の中に入っています。
入ってきた硝子体をギロチン式で切断し、吸引します。
水(灌流液)に置き換わります。

手術中に網膜裂孔・網膜剥離などの合併症が生じた場合には、
・(滅菌フィルターを通した)空気
・ガス
・シリコンオイル
で置き換える場合もあります。

https://fyi.rendia.com/n5i2JA

1分程度のビデオ:

硝子体の濁りをとって、
完全に硝子体を取るために懸濁ステロイドを眼内に注入
硝子体膜ごと、取り去っています。

黄斑部に残った硝子体は、黄斑円孔を引き起こすこともあります。
そのため、徹底的に硝子体を取り去る方法を講じます。
懸濁ステロイド(トリアムシノロンアセトニド)は、その大きな助けになります7。

硝子体手術の合併症
・白内障8
・網膜裂孔・網膜剥離9
・感染症(眼内炎)
 術後のマスク使用が眼内炎の危険性を増加させる10
・出血(硝子体出血)
・黄斑円孔11

目の状態は正常と判断されていても、(生理的)飛蚊症は生活の質に大きな影響を及ぼしてしまいます。
飛蚊症に硝子体手術をおこなうことに対して、どの程度のリスクを許容できるかの判断が重要となります。

参考文献

  1. Wagle, A.M., Lim, W.-Y., Yap, T.-P., Neelam, K., Au Eong, K.-G., 2011. Utility Values Associated With Vitreous Floaters. American Journal of Ophthalmology 152, 60-65.e1. https://doi.org/10.1016/j.ajo.2011.01.026
  2. Sebag, J., 2011. Floaters and the Quality of Life. American Journal of Ophthalmology 152, 3-4.e1. https://doi.org/10.1016/j.ajo.2011.02.015
  3. Katsanos, A., Tsaldari, N., Gorgoli, K., Lalos, F., Stefaniotou, M., Asproudis, I., 2020. Safety and Efficacy of YAG Laser Vitreolysis for the Treatment of Vitreous Floaters: An Overview. Adv Ther 37, 1319–1327. https://doi.org/10.1007/s12325-020-01261-w
  4. Hahn, P., Schneider, E.W., Tabandeh, H., Wong, R.W., Emerson, G.G., American Society of Retina Specialists Research and Safety in Therapeutics (ASRS ReST) Committee, 2017. Reported Complications Following Laser Vitreolysis. JAMA Ophthalmol 135, 973–976. https://doi.org/10.1001/jamaophthalmol.2017.2477
  5. Su, D., Shah, C.P., Hsu, J., 2020. Laser vitreolysis for symptomatic floaters is not yet ready for widespread adoption. Survey of Ophthalmology 65, 589–591. https://doi.org/10.1016/j.survophthal.2020.02.007
  6. de Oliveira, P.R.C., Berger, A.R. & Chow, D.R. Vitreoretinal instruments: vitrectomy cutters, endoillumination and wide-angle viewing systems. Int J Retin Vitr 2, 28 (2016). https://doi.org/10.1186/s40942-016-0052-9
  7. Chen, T.Y., Yang, C.M., Liu, K.R., 2006. Intravitreal triamcinolone staining observation of residual undetached cortical vitreous after posterior vitreous detachment. Eye 20, 423–427. https://doi.org/10.1038/sj.eye.6701892
  8. Do, D.V., Gichuhi, S., Vedula, S.S., Hawkins, B.S., 2018. Surgery for postvitrectomy cataract. Cochrane Database Syst Rev 2018, CD006366. https://doi.org/10.1002/14651858.CD006366.pub4
  9. Wimpissinger, B., Binder, S., 2007. Entry-site-related retinal detachment after pars plana vitrectomy. Acta Ophthalmologica Scandinavica 85, 782–785. https://doi.org/10.1111/j.1600-0420.2007.00930.x
  10. Sakamoto, T., Terasaki, H., Yamashita, T., Shiihara, H., Funatsu, R., Uemura, A., 2022. Increased incidence of endophthalmitis after vitrectomy relative to face mask wearing during COVID-19 pandemic. British Journal of Ophthalmology. https://doi.org/10.1136/bjophthalmol-2022-321357
  11. Lee, S.H., Park, K.H., Kim, J.H., Heo, J.W., Yu, H.G., Yu, Y.S., Chung, H., 2010. SECONDARY MACULAR HOLE FORMATION AFTER VITRECTOMY. RETINA 30, 1072–1077. https://doi.org/10.1097/IAE.0b013e3181cd4819

Takeru Yoshimura, M.D., Ph.D.

たける眼科
takeru-eye.com
福岡市早良区「高取商店街」
西新駅/藤崎駅(福岡市地下鉄)

日本眼科学会 眼科専門医
医学博士(九州大学)

Takeru Yoshimura, M.D., Ph.D.

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